SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

心配3

 彼女の願いに、彼は応えてくれない。

 助けたいと思っているのに、救いたいと思っているのに、それでも彼は応えてくれない。

 助かりたくないのだろうか。救われたいとは思わないのだろうか。

 そう思って、麗華は聞いてみた。

「まだ、瑞希さんのことを引きずっているの?」

 守人にはなにより自分の存在、それを軽視している節がある。

 その原因があるとすれば、彼女しかいない。四年前に亡くなった幼なじみ。

 守人は目線をわずかに下げた。彼女の名前を聞く度守人の胸にはかつての思いが蘇る。

「割り切れないんだ」

 彼女の死は過去のことでもう終わったことだが、守人にとっては終わっていない。今に繋がる昨日よりも身近な出来事だった。

「なんていうのかな。あいつが、今でも近くにいる気がするんだ」

 そこで麗華が顔を上げた。心配そうな目でみてくる。

「あくまでも俺の気持ちだよ。そんな目で見ないでくれ」

 麗華には精神疾患だと思われたようだが心外なので否定しておく。そんなことないと本人にもちゃんと分かっている。

「でも、だからかな。見せたいんだ。無駄なんかじゃないって」

 彼女は亡くなった。いつも彼のそばにいて、太陽のように温かい笑顔をくれた彼女は。

 なぜ、彼女は死んだのか。その死に未だに納得ができない。彼女は死んでいい人間ではなかった。

 自分よりも長く生きて、幸せになるべき人間だったのに。

 彼女の死を無駄死にするわけにはいかない。

 だからこそ。

 守人は、麗華の顔をまっすぐと見て言った。

「姉さん。俺に、なにもしないなんて出来ない」

 それは覚悟を決めた守人の言葉だった。特訓と実験ばかりの毎日も、戦うことだけを定められた人生も。すべて。

 彼は納得している。

 決意に満ちた彼の言葉に、麗華はゆっくりと顔を下ろした。

「……うん。知ってる」

 それだけが、彼女の精一杯の言葉だった。



 東京駅で爆破テロが起きてから数日後。

 守人と麗華、獅子王は室長室に集まっていた。中には他にも賢条と牧野がいる。賢条はデスクに座りその前に牧野が立っていた。

 賢条の顔に笑顔はなく、牧野も真剣な表情だった。雰囲気が物語っている。その時がきたのだと。ここにいる全員が気を引き締めていた。

 賢条は両肘を机につき、両手の上に顎を乗せた。

「翌日、君たちはイラクに向けてここを発ってもらう。現場の指揮は牧野がとる。そこで第四世代兵器の実戦テストを行う。相手は国際武装テロ組織、ISISだ」

 明日ここを発つ。敵はISIS。国際社会を脅かす存在であり日本も標的にされた。結果、多くの犠牲を出すことになった。

 これは報復であり敵の侵攻を防ぐための戦いだ。そして、今後の戦況を占う第四世代兵器の試験でもある。

「本任務は極秘であり我々の存在を国内外を問わず知られるわけにはいかない。そして」

 賢条はそこで一旦言葉を切ると、視線を守人に向けた。

「守人君。君は常に暴走の危険性がある。佐宝事件でのことは覚えているね?」

 賢条の質問に守人は沈黙で肯定した。

 佐宝事件。守人がアザゼルの力を得て第四世代兵器となった事件をそう呼んでいる。その仮定で守人は大切な者を失い、さらには暴走を引き起こし自分の姉すら傷つけた。

 忘れるわけにはいかない。自分は、いつ爆発するか分からない爆弾なのだ。

「君が暴走する危険性はアザゼルの活動状態が活性化するほどに高くなることが分かっている。よって、君が戦場で活動するに当たって全力での戦闘を禁止する」

「なんですって?」

 賢条の指示に麗華がくいかかった。当然だ、暴走の危険性は分かるがこんな命令はめちゃくちゃだ。

「本気で戦えない状態で戦場に行けって? ふざけてるわ!」

 麗華が一歩賢条に近づこうとする。それを牧野が前に立ち塞がった。二人の視線が重なる。

 もとから仲がいいとは言えない二人だったが荒々しい視線と静かな眼光が交差する。今にも戦闘が始まりそうだ。

「落ち着け。それを補う手段は講じている。獅子王」

 賢条は獅子王に目線を動かし、言われ獅子王が動いた。

「守人君。今君に着てもらっているのがそうだ」

「これが?」

 守人は自分の服を見渡してみた。

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