SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

赴く覚悟

 午後の日程が始まるまでまだ十数分時間がある。その間守人は自室のベッドに腰掛けていた。

 支給されている部屋はそれなりの家具がそろったワンルームだ。自炊をしようと思えばできる。

 最初のころと変わらないそのままの部屋で守人はテレビ画面をじっと見つめていた。

 そこにはさきほどから東京駅で起こった爆破テロのニュースが流れている。どのテレビ局も同じだ。

 現場の被害を伝える場面もあれば首相の会見、主要都市の交通機関が点検作業により一時停止、また今後どのようになっていくかコメンテーターたちが議論している。

 その中でもっとも守人の意識を引きつけるのは、現場と、なにより犠牲者の映像だった。

 現場はひどい有様だ。死傷者は現在確認されているだけで三十人以上。まだ増えるだろう。

 映像に映し出される人々の怒り。

 悲しみ。涙。怒号。被害者の声と様子は日本人が久しく忘れていたものを思い出される。

 これは戦争だ。始まったのだ。ついにここでも。平和は思い込みでしかなく現実が顔を出す。

 守人の意識が静かに固まっていく。ついにその時がきたと。自分が必要とされる日が。

 守人は無言のまま映像に見入っていた。はじまりとなる事件をじっと見つめる。

 それから時計に目をやり自室を後にした。


 
 それから守人は白い部屋にいた。さきほどのトレーニングルームとは違う。また服装もトレーニングウェアとは違いダイビング用の水着のような白い服を着ていた。

 ここには守人以外誰もおらず、目の前には装置とセットになったダンベルが置かれている。

 午後はこれを使うようだ。守人は靴を履き準備を進めていく。そこへマイク越しに獅子王の声が聞こえてきた。

「東京駅でテロか。いよいよ始まったな」

 声には元気がない。気落ちしているのがすぐに分かった。

「さきほど室長から聞いたよ。行くんだって、イラクに。戦闘地域だ」

「今更だな」

 守人は靴のひもを強く引っ張った。その様子を別室からカメラ越しに見ている獅子王の表情は芳しくない。

「怖くはないのかい?」

「俺はそういう目的でここにいる。そのための四年間だったはずだ」

「素晴らしい意見だ、全自衛隊に聞かせてやりたいね」

「宗作、あんたはどうなんだ?」

 守人はすでに覚悟を決めている。自分は人ではなく第四世代兵器、次世代の兵器なのだと。だから迷いはない。戦場にいき戦うことは前から分かっていたことだ。

 だが、獅子王の言い方はそうは聞こえない。寂しそうだった。

「君は、まだ二十歳だろ?」

 そう、獅子王の言うことはよく分かる。四年間をどう過ごそうが彼は二十歳。その年で人生を決められ行く末が戦場とはあんまりだ。

「最新型だからな」

 それでも守人には冗談すら言える余裕があった。ふっと笑いながら言ってのける。迷いのない姿勢は立派だが獅子王には笑えなかった。

「あんたは否定的みたいだな」

「愉快ではないな」

 獅子王もこの時がくることは分かっていたがいざ目前に控えると頭が重い。

「だが、仕事だ」

 獅子王は机に座っておりデスクの上にはいくつものモニターが置いてあった。そこに映るデータを興味なさそうに見つめる。その最中で眉間のあいだに指を当てた。

「守人君。率直に言うと君は危険な状態にある。君に注入された聖秘合成物服用型兵器、アザゼル因子とでもいうべき異物は全身の血液だけでなくDNAにまで組み込まれ除去することは不可能だ。しかもアザゼル因子の活動期は不安定で、実際こうして君が生きているのが不思議なくらいだよ」

 データが示す現実に獅子王は辟易しながら話す。

「言ってしまえば君は生きたニトログリセリンのようなものだ。扱えを間違えば周りを破壊する爆弾。私の仕事はな、その威力がどれだけあるのかを解明し、どうやって安全に運用できるのか方法を確立することだ」

「退屈な仕事だな」

「人による」

 獅子王はキーボードを叩いた。それによりダンベルの装置が起動し音を立て始めた。

「まずはその威力についてだ。守人君、アザゼルを発動してくれ。出力二十パーセントでダンベルを持ち上げるんだ。それは圧力を操作できる。現在は五百キロ相当に設定してある。人類ではどうあっても持ち上げられん。持ち上げたのちその状態を維持してくれ。徐々に圧力を上げていく」

「分かった」

 守人はダンベルに近づいた。持ち上げるバーを片手で掴む。

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