SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

非日常の日常2

 それをきっぱり受け流し守人は腕を差し出す。今度はつまらなそうな顔を作り獅子王は採血を終えた。

「どっちが子供か分からないわね」

「人生を楽しむコツを知ってるかね? 童心を忘れないことさ」

「あんたの場合、大人になりきれなかったの間違いじゃないの?」

「まったく、最近の若者はああ言ったらこう言う」

「途端に老けないでくれる?」

 獅子王は採血した注射器を片づける。手際よく済まし二人に振り向いた。

「午前はこれで終わりだ。私は調整に入るから食事に行ってくればいい」

「悪いな。さきに行くぞ」

「気にしなくていい、これが私の仕事だ」

 守人は立ち上がり獅子王に声をかける。そのまま麗華と一緒にトレーニングルームを後にした。その際に麗華が振り返る。 

「サンドイッチでも差し入れするわ」

「コーヒーも一緒でな」

「はいはい」

 二人は食堂へと向かう。ここは特異戦力対策室の施設だ。食堂にはすでに何人かの職員がテーブルに座り食事をはじめている。

 彼らも守人の存在を知ってはいるが守人との接触には室長、もしくは室長補佐官に許可をもらう必要があり守人たちを遠目に見るだけだ。

 守人たちもトレーに今日の昼食を乗せ手近なテーブルについた。

「いただきます」

 二人は料理を口にする。今日の献立は鮭のホイル焼きをメインにほうれん草のおひたし。あとひじきの和え物だった。

 トレーニング後とあって守人は黙々と食事を進めていく。麗華も上品に口にいれつつ、たまに対面で食事をしている守人を盗み見ては微笑んだ。

 こうした日常が続いている。かつては叶わなかった二人の時間がもう当たり前のものとなっていた。麗華はもう一度対面にいる守人を見やる。

 最初会ったときも背は高かったが今では本当に見上げるほど大きくなった。水色の髪は下ろし表情は前よりも精悍になった気がする。

「毎日がんばってるね」

「まあな」

 麗華の話に守人は食事をしながら返事をする。自然な、姉弟としての会話だった。

「体もこんなに大きくなっちゃって」

「鍛えてるからな」

 守人はほんとうに大きくなった。想像でしかなかった弟との生活も当たり前のものになっている。

 そうした変化に時の流れを感じていた。

 麗華はふとつぶやく。

「もう、四年になるんだね」

 佐宝事件。佐宝精神保健研究所の襲撃から端を発したアザゼル関連の事件から四年の年月が経過していた。

 大きな傷を刻んだあの事件だが、皮肉なことにそのおかげでこうして守人のそばにいられている。

 守人の体内に蓄積された天使の羽は聖法教会の回収、管理指定の聖遺物だ。回収に関しては特異戦力対策室との衝突は避けられないため、互いの妥協案として互いに管理、監視するという立場になっている。

 麗華は守人の姉であると同時に監視者なのだ。

 そんな関係ではあるが弟と一緒にいられるというのは嬉しい。十六年間の空白を埋めるように充足感を覚えている。

 だが、同時に後ろめたい思いもある。不安や不満が顔に出た。

「あれからここで特訓と実験ばっかり。辛くない?」

 守人の生活は自分が望んだものとは違う。一緒にいられる幸福はあるがそれは自分と同じ側に寄ったからだ。人並みの幸せ。そんなものとはほど遠い。

 麗華は彼の立場を悲観する。けれど、当の本人は平然としていた。

「なにかしてないと、落ち着かないんだ」

「そっか……」

 なんでもないことのように答える。食事の手を止めることもなく。これが当たり前なんだと。

 そう平気で言うことに、麗華は残念そうにつぶやいた。

 彼の幸せを想う。でもそれは自分勝手なだけでしかない。こうあって欲しいという勝手な期待。

 それはもう分かってる。今の彼は人並みの幸せなんてものに憧れていない。

 でも、でも、それでも思ってしまうのだ。

 彼の小さい頃を知っていて、彼を守るために騎士になった彼女だから。

 家族だからこそ。

 戦いのない場所で、普通に生きて欲しい。

 それだけを願ってきたのだから。

 しかし、そんな時だった。テレビから一つの報せが流れてきた。

 速報だ。番組を中断し、さらにアナウンサーが珍しく焦った様子で原稿を読み上げていく。

「番組の途中ですが緊急速報をお伝えします」

 いったい何事だろうかとここにいる全員がテレビに振り向いた。

「SCP版 エンジェル・オーバードーズ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く