SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

誓い

 最後の確認行為が終わる。生殺与奪の全権を手中に収め、牧野は無表情に、執行の開始を命ずる。

「止めろぉおお!」

 少女の懇願は無情にも空と消え――

「攻撃」

 この場を、銃声の音色が満たした。

 飛び散る血飛沫、抉られる肉体。悲鳴は数発の銃弾で消え去った。

 聖騎士は一様に剣や弓で武装しているものの、勝機はなく、一方的に攻撃されるだけである。

 勝てるはずがない。第二世代兵器(剣、弓)で、第三世代兵器(銃器、爆弾)には勝てない。

 そして、ついに銃口が麗華を捉えた。

(あ)

 兵士と目が合う。途端、冷えた両手で心臓を掴まれたような錯覚が走る。視点が固定され、思考は停止し、この状況を見つめ続ける。

(そんな)

 現実に、息が止まる。

 大切な人のために、人生を捨てた。でも、その人すら本当は救えていなかった。そして、今度も救えなかった。

(私の人生って、なんだったんだろう)

 目の前の現実に走馬灯のようにこれまでの想いが過る。今まで費やしてきた想いが、理想が、夢が、現実に押し潰されていく。

 死を前にして、胸にあるのは後悔だけだ。

 彼のために生きた人生は、なんだったのだろうか。

 意味はないのか。価値はないのか。

 自分のこれまでは、無駄だったのか?

『そんなことない』

「え?」

 しかし、そこで聞こえた声があった。さらに聞こえてくる。

 ――ドクン。

 鼓動の音だ。

 ――ドクン!

 まるで生きていることを主張するかのような、力強い脈動を。

 麗華を狙って銃弾が放たれる。聖位術もなく傷だらけの彼女には防ぎようがない。

 それを、弾く純白の翼があった。

「え?」

 迫る死滅の弾丸が弾かれる。鹿目は理解出来ず、虚を突かれ小さな疑問符を口に出す。

 見上げる視界には、純白の光が二つ、広がっていた。

 心が静止している。未だに理解は及ばず、広がる光景を受け止めきれない。

 唖然とした心境のまま、麗華は首を動かし始める。視線を、少しだけ、横に流す。そこにいるのは――

「鹿目さん」

 彼女が幸せを思い、守り通した願いに他ならなかった。

「鹿目さんの想いは、無駄なんかじゃない」

「守人君……」

 白河守人。天使の両翼を思わせる光を広げ麗華を庇う、彼の後姿がそこにはあった。

「蘇生しただと……?」

 突然の復帰に牧野から驚愕が漏れる。誰しもが彼に注目していた。死して眠っていたはずの彼の再起動。

 警戒の眼差しが周囲から守人を突き刺す。

 その中心で、守人は悠然と立っている。戦意を瞳に宿し、周囲に展開する敵を睨みつけた。

「下がれ特戦。これ以上は無駄だ」

 警告は気迫とともに放たれた。

 しかし、それで分かりましたと引き下がれるはずもない。彼を取り逃す損失はあってはならない。

 牧野は指示を飛ばす。

「対象を確保! 攻撃!」

 彼女の号令一下、全方位から銃撃が炸裂した。秒速千メートルで飛来する凶弾が弾幕となって襲い掛かる。

 殺害の弾雨を叩き付ける。が、

「憐れだな」

 敵に憐憫すら浮かべ、守人は頭上に向けて片腕を上げた。

 直後だった。宙を走る銃弾が止まった。空間に縫い付けられたかのように。守人を囲んだまま不動となって縛られている。

 守人は掲げた手首を回す。すると銃弾が反転し弾道を逆走したのだ。

 高速で反射する弾丸を受け部隊の人間が倒れていく。成す術もない。圧倒的だ。

「俺は、そんなものじゃ倒せない。そう作ったはずだ」

 攻撃は効かず防御は出来ない。隔絶した差は世代の違いを物語っている。剣では銃に勝てないように。

 銃では勝てない存在。第四世代兵器。

 これは強化アップグレードではない。

 次世代ニュージェネレーションだ。

 もし、これが量産化されればどうなるだろう。もし、こんなものが他国でも開発されていたらどうなるだろう。

 世界が変わる。

 戦争が変わる。

 軍事バランスは崩壊し、新たな世代の始まりだ。

 世界変革の、産声が聞こえる。

「SCP版 エンジェル・オーバードーズ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く