SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

特戦戦2

「もう一度言う。下がれ教会の少女。あなたの祈りはまだ青い」

 しかし、現実は拳となって打ち砕く。

「がっは!」

 腹部を強打が襲う。体は宙を走って地面へと転落する。

 加わる激痛に手を当てて苦悶する。だが、実感した事実に頭は冷静に思考していた。

(先ほどよりも、力が増している?)

 牧野の膂力りょりょくが上がっている。それは不思議なことではなく、考えてみれば初めからがおかしかった。

 敵の弱体化だけでは強化された攻撃は防げない。地力で劣る。

 ここにきて、麗華はようやく完全な解答に辿り着く。

「吸収されている?」

 神へと祈りを捧げて得た力。それが弱まっているだけでなく、敵に渡っている。

「フン」

 牧野はつまらなそうに一蹴する。否定もせず肯定もしない。だが状況を鑑みれば正しく、現に正答だった。

 古代から受け継がれる呪術は神を鎮める思想が発展したものであり、敵の弱体化こそが本流だ。

 古から神を相手取り、鎮め世の平安に尽くした神州が英雄、その末裔。呪術師牧野萌が神の信奉者に立ち塞がる。

 麗華に続いて隊長と部下の騎士二人が牧野へ迫る。

 精神攻撃の後遺こういに淀む心を奮い起こして、隊長と二人が同時に牧野へと切っ先を向けた。

 だが、彼らに本来の力はなく精彩せいさいを欠いている。しっかりと握る柄の感触は曖昧で、全身を包む浮遊感に力が出せない。

 牧野は迫る三人の内、中央の隊長を蹴り上げ吹き飛ばし、両側から攻める刀を掴み取る。

 両手を振り下げ地面へと叩き付けた。衝撃に舗装された地面は砕かれ激震する。

 轟音は爆発のようであり、人外の怪物を連想させた。

 対特異戦力。異能に対する異能。牧野は特異戦力対策室の一員として役目を全うする。

 牧野は確保すべき対象へと向かい疾走を開始した。行く手を阻まんと騎士が列となるが、問題にならない。

 蹴散らし踏破し到達する。凶虐の拳打を防ぐ術はなく、攻める切っ先は彼女に触れた途端腐蝕ふしょくして錆び落ちた。

 無機物といえど、弱体化という老朽化には耐えられない。

「現代呪術を舐めるな」

 弱体化と自己強化の両輪が敵を蹂躙する。聖位術を養分として吸収し、牧野は彼らを上回っていた。

 牧野は守人の遺体にまでたどり着く。背後に広がる騎士の苦鳴を一顧だにせず、手を伸ばした。

「待て!」

 そこへ、制止を訴える声が響く。

 声の主は瀕死の体を無理やり立たせる麗華だった。聖位術は解いている。

 自己強化は牧野に力を与えるだけであるため術を解いていた。黄金の加護はなく、彼女は自力しか使えない。

 ここにいるのは一人の少女だ。支える両膝は笑い、生まれたばかりの子鹿のように震えている。

 体は血まみれで、頭の中では激痛が全身の警告を告げている。

 歩くどころか立っているのもやっとで、大量の流血によって指先はろくに動かず瞳は焦点が合わない。

 それでも、気合だけで一歩を動かした。緩慢だが、確実に。

 心の底から吠える思いに突き動かされて、歩く足は、次第に駆け足へとなっていた。

 たとえ無様でも腕を振った。転びそうになる体を幾度も支えて、足を動かした。

 止まらない思いと同じく、彼女の体も止まらない。

 吐血に咽る口を無理やり動かして、震わすのも苦痛な喉を広げる。

「守人君に、触るなぁああ!」

 駆ける、駆ける、激痛の地平をどこまでも。大切な地点に辿り着くまで。届けと願い足を動かす。

 聖法の騎士は全員が術を解き、牧野の呪術を封殺した。

 力の供給は停止し、牧野は一介の人間へと成り下がる。

 まさに最大の隙にて絶好の好機。取り返すならば今しかない。麗華は手を伸ばす。

 奪われんとする大切な人を守る今、牧野は耳に装着したインカムに手を当てた。

「全班、突撃開始」

 直後、広場の影から男たちが姿を現した。行進の靴音が闇夜に響く。

 暗色の戦闘服を着込んだ兵隊が銃器を所持して突如として降り立つ。出現する。

 聖騎士が聖位術を解けばただの人。最大の隙にて絶好の好機。そこを、見逃さない。

「あ……」

 包囲された現状に、麗華は怒りを忘れ、瞳を大きく見開いた。

 牧野は確認のため賢条に視線を向けた。

「全員消して構いませんね、室長?」

「ああ、これは教会の越権えっけん行為だ。日本が舐められたままでは沽券(こけん)に係わるし、敵対しようとも今の我々には力がある。ここで彼を取り逃す方が痛手だ。それに、先に手を出したのはむこうだしね」

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