SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

特戦戦

「どれだけ言葉を並べて正当化しようとも無駄よ。あなたたちがアザゼルを作り、そのために無関係な彼は犠牲になった。そんなお前たちに、渡す愚行まではしない!」

「アザゼル?」

 賢条は顎に手を当て思案顔になる。表情は若干だけ曲がり、困ったと言わんばかりに肩を竦めた。

 次に吐かれた言葉は、その場凌ぎの言い訳か、それとも挑発だったのか。

「知りませんね。思い当たる節もない」

「!?」

 発言は彼女の起爆剤となった。

 アザゼル。そのせいで白河の家族はバラバラになってしまった。両親は殺され弟とも生き別れ、辛い生活を暮してきた。

 そして、守りたかった彼すらも、アザゼルは奪っていった。

「特戦!」

 彼を失った悲しみと怒りが、麗華を突き動かす。

 彼女は走った。全身を苛む傷の痛みを気合で押し込み、怒りは限界を押し上げる。

 黄金は未だ健在。聖騎士の体を敵まで運び、断罪の剣を振り上げた。

 長年の因縁に決着をつけるため、麗華は剣撃を賢条の頭上に振り下ろす。敵は無防備、当たる。

 だが、驚愕が彼女の胸に訪れた。

(そんな!?)

 それは、黄金の白鳥の一撃を、片手で食い止めている隣の女性だった。

「いや~、やっぱり萌ちゃんは優秀なボディーガードだ。君がいれば安心だね」

「牧野です。信用は嬉しく思いますが、過ぎて軽率になられては困ります」

 敵の攻撃を前になお行われる悠長な会話。しかし、そんな余裕など存在するはずがない。

 傷だらけといえども全力だった。しかし、現に彼女の刃は女性の五指を断てないでいる。

 それは、鼠が猫を持ち上げるような、あり得ぬ絵面だった。

 牧野は掴んだ刀身を振り払い麗華を投げ払う。

 表情は登場時から変わらず険を帯び、口調だけを平然として口にする。

「私から言わせていただければ、現場に出る時だけでも銃を携帯してください。あなたはご自身の立場、その重要性を軽んじている節が見られます」

「ボスは戦わない、っていうのが僕の信条なんだよね~」

「ならば、ご自身の立場で何故出てきたのですか」

「世の中にはね、実際に目で見てみなければ分からないことがあるんだよ」

「はぁ……」

 上司の本意なのか悪ふざけなのか判別不能の言葉に辟易しつつも、牧野は敵から視線を切らない。

 聖位術を発動している麗華の攻撃が防がれた事実は、教会の騎士全員への衝撃だった。

 疑問は当然だ。混乱する。

 そこへ、牧野が前に出ながら語り出した。

「あなた方にとって、神とは手の届かぬ救済であり祈るものなのでしょうが、同じ日本人ならば知っているでしょう。日本では、神とは手に負えぬ災厄であり鎮めるものだと」

 怜悧れいりな視線に淡々と語る口調も相まって緊張がさらに張り詰める。

 同時に、彼女の頬にいくつもの印字が這い上がるった。数々の呪印が行となり揺らめき動く。

「呪術師!?」

 得られた解答に隊長が口を衝く。

 牧野の麗貌には不釣り合いな呪印の行列。美醜が渦巻く彼女の顔は、一種のホラーだった。

「聖位術は神に近づくために祈り己を鍛え高めるもの。そして呪術とは神を鎮めるために弱体化を狙うもの。あなた方と私たちでは、始めから目指す地点が違うのです」

 牧野が行う敵の弱体化。それが呪術の正体であり真相。

 だが、疑問は晴れない。いくら弱体化しようとも力が零になるわけではなく、自身は人のまま。

 振り下ろされた剣を、掴むことなど出来るはずがなかった。

 彼らの疑問と焦燥を無視して、牧野は敵意の眼差しと共に告げる。

「退きなさい教会。でなければ、排除します」

 威圧の眼光が放たれる。殺と描かれた瞳が、文字通り殺意を迸しらせていた。

「誰が、退くかッ!」

 牧野の警告を受けながら、なお麗華は屈することなく対峙する。

 燃え上がる赤熱(せきねつ)の闘志を黄金に変えて、胸に灯し続ける誓いを守るため。

 彼女は黒幕を打ち破るために最後の力を振り絞る。

 彼女は再び突撃した。闘志は尽きない。黄金は消えない。守人との思い出が、約束が彼女をどこまでも強くする。

 牧野を間合いに捉え、剣風を走らせる。

 しかし、今や呪印が呪印に重なり指先まで黒くなった牧野の凶手が絡め取る。

「教会の犬が。躾が必要ですか?」

「くっ……!」

 辛辣な侮言と蔑視を浴びせられ、それでも麗華は抗った。ここで目の前の彼女を倒さなければ、彼との結末は惨劇どころではない。

 絶対に負けられない。なんとしても勝たねばならない。

 彼のために騎士になった。彼だけでも幸せになりますようにと。

 そう、誓ったのだから。

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