SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

想い

 突進してくる彼女を守人は見つめていた。切迫する彼女に危機感が警鐘を鳴らす。

 だが、守人は動けなかった。

 彼女の想いが流れ込んでくる。それは守人の能力である精神感応のせいだったかもしれない。彼女の想いに触れてしまったことで体がピクリともしない。

 守人の思い、彼の絶望が、この時わずかにブレる。

 それ、だけではなかった。

『私、守人くんのこと待ってるから!』

 不意に瑞希の記憶が蘇る。何故ここで? この時に記憶が蘇る? しかし止められない。

『おはよう、守人くん』

 それは瑞希の言葉、彼女の笑顔だった。

 麗華の言葉。瑞希の言葉。二人の想い。

 二つの想いと言葉が、今、重なり守人を貫く。

 麗華の突撃が、直前まで迫る。

 大切な人を守りたい。そのために。

 二人は、激突する。

「ぬうううう!」

「はああああ!」

 麗華の剣撃を守人は腕を交えて防御した。

 衝撃波が辺りを吹き飛ばす。二人の攻防では火花が散り、強烈な力で拮抗していた。

 だが、守人がただ立っていただけに比べ麗華には加速した勢いがある。守人は耐えるが、ついには吹き飛んだ。

「があああああ!」

 守人の体が宙を走る。勢いは止まらず地面を抉り何度も跳ねた。

(俺は……俺は……!)

 守人は幾度も転がって、ようやく止まった。

 守人は仰向けになるが、すぐに上体を起こす。受けた傷はすでに回復を見せていた。

 それでも、守人の表情は歪んでいた。

「俺、は……」

 立ち上がる。体は痛くない。しかし、胸のざわつきが守人を苛む。

「俺は……」

 いつしか、守人の気持ちは変わっていた。

 自分が、愛されていたのだと知った。捨てられたわけじゃない。残り物でもない。父親もいた。母親もいた。今も自分を想ってくれる、優しい姉もいる。

(俺は、いったい)

 その人を、自分は痛めつけている。

(なにを、しているんだ……?)

 優しい彼女が傷ついている。いくつもの怪我を負い、涙まで流して自分を見つめている。

 その時だった。またも副作用の激痛が襲いかかってきた。

「ぐ、がああああ!」

 頭を抱える。体を回す。瞬間が激痛だった。一秒なんてとてもではない。間断なく続く責苦はこの時が永遠に思えるほど苦痛に満ちている。

「守人君!?」

 守人の急変に麗華が叫ぶ。

「が、あ、あ……」

 次第に体が動かなくなり守人の体が傾いていく。肉体が石化して心臓まで止まりそうだ。

「守人君!」

 地面に倒れそうになるのを麗華が駆け付け受け止める。彼女はゆっくりと守人を地面に下ろした。見れば、彼女の瞳は濡れていた。

「……ごめん」

 なにがごめんなのか分からない。でも、守人は言わずにはいられなかった。

「そんなことない! そんなこと……!」

 彼女の頬を涙が通り、守人の頬に落下した。

 もう、体の自由が利かない。指先どころか肺までも動きがにぶい。

「守人君、しっかりして!」

 彼女は必死に叫ぶけれど肉体が壊死していくのが分かる。肩を掴まれて揺すられるのに感触がまるでしない。人形になったように、なにも感じない。

「鹿目、さん」

 そんな重体で、守人はなんとか名前を呼んだ。

 もう、残された時間は少ない。

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