SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

激突3

 麗華が再起したことに守人が振り返る。

「…………」

 その目は、静かに驚愕していた。

「守人、君……」

 麗華は刀を地面に突き刺した。揺れる上体を支え、乱れた前髪に隠れた額から、一筋の血が流れていく。

「お願い守人君。もう、やめよう」

 荒い息の中でなんとか言葉を吐き出した。

「今の君は、見たくない……! 見たくないよ!」

 彼を止めたいと戦意が湧き上がるのに、心を満たす悲しみが胸を突き破る。

 まだ幼かった彼を救おうと頑張ったのに、救うどころか、彼と戦うなど。

 悲し過ぎる、こんなのは。

「聞いて守人君。私たちの父親、白河正人まさとは天使の羽の研究をしていた。けれど軍事利用が目的だと知ると反対して、その後チームから脱退したの。それから私たちは聖法教会に預けられたわ。その後、父さんと母さんは事故で亡くなった。殺されたのよ」

 それは守人の知らない歴史だった。新たに知らされる過去だった。

「父さんは、自分のそばにいたら危険だということを知っていた。だから私たちを教会に預けたのよ。その時の父さんと母さんは、泣いていた。今でも覚えてる!」

 伏した目線を再び上げて、麗華は真っ直ぐと守人を見つめた。想いを吐き出して、強く、強くぶつける。

「私だって悲しかった! 悲しくて、ずっと泣いていた。でも真実を知った。父さんたちが私たちを守るために生きたことを。だから私も決めたのよ。今度は、私が守る番だって!」

 麗華は悲しみから立ち上がった。捉われることなく、己の道を見つけ歩み出したのだ。

「だから私は騎士になったの。君の代わりに。君が、これ以上、辛い思いをしないように!」

 それは、当時四歳だった少女が志すにはあまりにも険しい道のりだった。それでも麗華は今日この日まで、その誓いを守り抜いてきた。

「私は父さんを、母さんを守れなかった。君も、救えていなかったッ」

 麗華は悔恨の想いを、涙に変える。

「だから、今度こそ」

 絶対に守ると決めたのに、そのために頑張ってきたのに、彼は救えていなかった。

「君を、救ってみせる!」

 だからこそ、救うのだ。

「ずっと君のことを想ってた。どんな生活をしているんだろうって。元気にしてるか、友達はいるのか。元気で明るい君だから、きっと今でも笑っているだろうって。そうだと信じて、私は今まで頑張ってきた!」

 心の支え。唯一残された大事な家族こそが麗華の宝物であり希望だ。それがあるからこそ麗華は厳しくても頑張ってこれた。

 自分がどれだけ辛くても、彼が笑っていられればそれでいいと、そう思うからこそ頑張ってこれた。

「君だけが、私の生きる希望だった。明るくて、元気で、私なんかよりもよっぽど輝いて。そんな君が、私は大好きだった!」

 震える両手で麗華は刀を持ち上げる。揺れる上体を一歩踏み出して支える。そんな重傷、重体。立っているだけでも辛い。会話という行為が拷問にも思える。

 それでも、麗華は口を動かした。

「そんな君がッ! あれほどみんなが愛していた君が、私の希望が!」

 涙が零れ出す。かつての想いが溢れ出す。それこそが、麗華の原点だったからだ。

 そんな彼が。

 愛していた彼が。

 大好きだった君が――

「守る価値がないなんて、そんな悲しいこと言わないでよぉ!」

 刹那、麗華は動いた。踏み締めた足場が砕ける。黄金の翼が彼女を後押しし、最大の力で守人に迫る。

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