SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

激突2

「はああああ!」

 守人の絶叫と共に生み出される極大のエネルギー。それに指向性を持たせ麗華を強襲する。
 空間が破裂するほどの爆音が轟き、爆風の奔流が突き進む。

 麗華は刀身で迎えた。

「ぐう!」

 全身を呑み込まれ猛威に晒される。衣服は破れ髪が激しく乱れる。四肢をもぎ取らんとする威力に必死に耐える。

「ううぅ……!」

 攻撃が止む。麗華はかろうじてその場に留まっていたが、表情は苦痛に顰め口端からは血が滲んでいた。衣服もところどころ破れいている。

 しかし、それでも彼女は刀を構えた。痛々しい体にもめげず、闘志には傷一つ入っていない。

「はああ!」

 振り上げた刀に光が集う。刀身に黄金が集い、麗華は守人目掛け振り下ろす。

 空を斬る刀の後、飛び出したのは収束された麗光だった。空間を疾駆する黄金斬撃。三日月を描き次々に追撃が放たれる。

 しかし。

 飛来するいくつもの黄金斬撃を前に、守人は腕を横に振った。

 新たな反物質。麗華の攻撃は反物質と衝突し、それによって引き起こされる対消滅によって消えていた。

 如何に強力な攻撃といえど世界のすべては素粒子の集合体でしかない。ならば対消滅という理からは逃れられず、麗華の攻撃は全弾消失していた。

 さらに、守人は発生するエネルギーを掌握し纏め上げる。一点に圧縮し、両手で麗華に狙いを定めた。

「そんな」

「はあああああ!」

 発言直後、放射するのは最大の波動。さきほどのよりもさらに数倍規模の爆圧を叩き付ける。

 弾かれる空気は鉄槌の重圧となって迸り、衝撃の余波だけで遊園地の施設が激しく揺れる。

 麗華は直撃を受け、圧壊の剛波に襲われた。

「ぐっ、はああ――」

 黄金の翼で全身を覆って耐える。しかし裂創はさらに広がり、傷口から血が吹き出し凄絶な姿で耐え凌ぐ。

「もり――と――く――」

 麗華は叫ぼうとするが、自分の声が耳に届く前にかき消される。気合の声すら暴威によって聞こえない。

 彼を救いたい。この痛みの中でさえ、麗華は胸の中で思い続けた。彼を救いたい。これまで辛い思いをして、今も苦しんでいる彼を。

 私が。

 守人の攻撃が終わり、想像を絶するほどの重圧から解放される。麗華の奮闘のおかげで地上に被害はなく、仲間たちに怪我はない。

「あ、っぐ……」

 だが、同時に限界だった。体が傾き、麗華はそのまま落ちていく。

(私が、守人君を……)

 地上に激突する。痛みにもがくものの身体に力が入らない。

 その後守人がゆっくりと地上に降りてきた。空虚となった広場で、守人だけが立っている。

「…………」

 無言のまま麗華を見下ろす。その後、守人は踵を返した。

 離れていく守人の後ろ姿。麗華はぼんやりと、彼を見つめる。

(駄目……)

 彼が一歩、自分から離れていく。

(駄目!)

 彼を行かせるわけにはいかない。止めねばならない。ここで救わなければ、いつ救うというのか。

(駄目!)

 麗華の想いが、胸中で叫ばれる。

 彼女はもう立てない。守人でさえそう思った。

 しかし、ここで必定が覆る。決した趨勢が逆巻く音が、静かに動き出す。

「ま、だ……」

 物寂しい空気が漂う中、消え入りそうな猛声が響く。

「だよ……」

 敗北の烙印を押し退けて、激痛に苦しむ総身を震わせて、麗華は立ち上がったのだ。

 瀕死の重傷。剣を握ることすら不確かで、滴る血が地面に染みを作っていく。乱れる長髪に破れた衣服は無惨にも見える。

 けれど違う。裂創が物語っている。流血が綴っている。彼女の尊大さを。彼女の屈強さを。

 彼女の想いは本物だ。十四年前から続く、白河麗華の決意は壊れない。

「SCP版 エンジェル・オーバードーズ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く