SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

激突

 麗華は見上げ瞳に力を入れた。そう、十四年前の決意は終わっていない。まだ、救わなければならない人がいる。

 これはかつての延長線。幸せを願った彼は救えていなかった。孤児だとしていじめられて、多くの辛い思いをしてきた。

 だからこそ、これからは守ってみせると決意したはずだ。

 救おう、約束の時だ。彼を幸せにしてみせると、守ってみせると、別れの間際にそう誓ったはずだ。

 発言直後、麗華は地面を蹴った。

 十四年、守人のために研磨した、彼女の想いが発揮される。

 直後、轟く爆音が響き渡った。地面が破砕され吹き飛んでいく。それはさきほどの騎士の比ではない。これまでを守人のためだけに過ごした、これが彼女の力だ。

 そして、麗華は飛翔した。物理法則を逸脱した飛行行動。重力という楔を引き千切り、彼女は黄金の白鳥となって突撃する。

「はあ!」

 離陸から到達まで一秒もない高速移動、勢いに乗り繰り出される刺突は速度と質量から計算しても一撃必殺。

 だが、守人は躱した。彼女の一撃は空を突く。けれど彼女は諦めない。

「はああ!」

 麗華の気炎と共に放たれる刺突の連続攻撃が炸裂する。

 しかし、烈火の猛撃に晒されてなお平然と守人は回避する。剣風の嵐を掻い潜り、彼女の攻撃を躱し続ける。

 それは訓練もしたことがない少年が見せるには異常な動きだ。その不可能を可能にするのがこれだ。子供でも拳銃を持てば人が殺せるように。

 第四世代兵器。誰でも超人になれる道具。それは麗華の攻撃すら回避する。

 目の前にいるのは唯一の家族、誰よりも救いたいと願った大切な人。

 そして、第四世代兵器アザゼルを使用した、敵だった。

 麗華は振り被り、最大の力で振り下ろす。その攻撃を、守人は片手で掴んだ。

 鍔迫り合いのように互いの顔が近づく。触れ合うほどに近い場所で、相手を見つめる。

「くっ!」

 表情が歪む。力を込めるのに押し込めない。

 反対に守人によって吹き飛ばされた。その後守人は上昇し、すぐに麗華も追いかける。

 二人は植木よりもなお高く、遊園地全体を見渡せる位置にまで浮上していた。

「守人君聞いて! 私には弟がいた。まだ小さくて、一人じゃなにも出来ない子供だった。でも、みんなその子が大好きだった!」

 麗華は叫ぶが守人から反応はない。

 守人が片手を向ける。それがなんなのか瞬時に理解する。

 麗華は刀を一閃した。黄金の粒子を湛えた剣は念動力を切り裂き無効化した。

 麗華は刀を構えて突撃し、守人も拳を振り上げ突進した。

 両者が遊園地の上空を駆け回る。互いに超常の速度で移動し軌跡には暴風が発生していた。

 飛行に伴う風圧が観覧車を大きく揺らし、麗華の剣撃と守人の拳がぶつかり合う。黄金の残滓が星屑のように流れては散っていく。

 いったん距離が離れる。守人は観覧車に手を向けると、一斉にゴンドラが揺れ出し麗華に向かって突撃してきた。

 いくつものゴンドラが迫る。麗華は一つ目を躱し後のはすべてを切り裂いた。辺りにゴンドラの残骸が墜落し大きな音を立てていく。

「話を聞いて守人君!」

 激しい攻撃の応酬。その最中でも、麗華は敵である守人に声をかける。

「があああああ!」

 守人の返事は、すべてを拒絶する絶叫だった。

 瑞希が死んだ。救えていなかった。まるで悲鳴だ。激痛と嫌悪の中でなお、彼は彼女の死に吠えている。

 守人の涙が、宙に飛んだ。

 守人は麗華よりも上空へと飛ぶ。夜空に浮かぶ銀盤の直下、守人は麗華を見下ろすと、右手を胸の前に置いた。

 守人の手の平で虚空が煌めく。まるで線香花火のようにいくつものスパークが発生していく。それは粒子の衝突だった。

 本来ならば粒子加速器と呼ばれる巨大な機械を用いて行うことだが、守人はそれを念動力で再現し反物質を作り出していた。

 守人は作り出した反物質を隔離したまま手の平を麗華に向ける。

 守人に照準を向けられたことにより麗華は足元に視線を落とした。表情が歪む。そこにはまだ仲間がいる。

 そんな彼女を守人は気にせず、反物質を解放する。それにより空間に漂う粒子と接触し、対消滅が発生した。

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