SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

真実の言葉

「…………」

 一瞬、守人の瞳が正気に戻ったようだった。

「守人君!」

「があああああああ」

 守人が頭を抱える。激しい痛みに耐え、その目がたしかに彼女を見た。

「鹿目さんには、関係ない」

 しゃべった。けれどそれは拒絶の言葉だった。自分と瑞希の関係。それに自分がどれだけ救われ、苦しんできたか。どれだけ親切でも、しょせんは守人と彼女は他人でしかない。

「関係あるよ!」

 だが、麗華は叫んだ。大声で。懸命な叫びだった。瞳は真剣で、真っ直ぐと守人を見据え、見上げる視線の意思は強い。

 それは半端な覚悟ではなく、ましてや同情などという感情でもない。

 それは決意、真実の言葉だ。

 麗華はついに、告げた。

「君は、私の弟だもの」

 彼女の胸に秘めてきた、最大の想いを。

「なに?」

 守人の意識が、ぐらりと揺れる。

「君だけは、絶対に救ってみせるよ」

 そう言って、麗華は初めて剣を引き抜いた。刀身が月光を反射する。

「それが、私が騎士になった理由だから」

 柄を握る手に力が籠る。全身から戦意が発せられていく。今までの平静はいわばタメ。積年の想いを発揮するための。彼女が溜め込んだ膨大な想いと一つの決意が、今、ここに現れる。

「黄金の白鳥よ」

 口から言葉が放たれ、剣をゆっくりと構える。

「戦場に響き渡る笛のの、なんと雄々しく荘厳なることか」

 彼女が紡ぐ聖句の詠唱。

「あらゆる苦境もあらゆる苦難も、我らを止めるに値しない」

 彼女が言葉を紡ぐ度、どこからか黄金の粒子が漂い始めた。

「胸に願いと想いを秘めて、我らこれより戦場を駆け抜ける。頭上に輝く極光、栄華を極めし天上の威光よ届け」

 彼女は宣言する。己の覚悟を言葉に宿して。

「黄金の白鳥よ、我らに勝利を!」

 麗華が告げる。刀を掲げ、彼女の想いを発揮する。

「聖法教典第三章四節、黄金の白鳥!」

 彼女の詠唱が完了する。鹿目麗華が行う聖性の術。

 次の瞬間、黄金の翼が羽ばたいた。金粉を思わせる微小の欠片は麗華の全身を覆う。同時に翼を形成していた。麗しい造形はさながら白鳥。優雅に優美に、彼女を彩り飾る。

 麗華は戦意に充満した目線を送り、けれど、声調は祈りのように告げる。

「聖法教会異能根絶部門所属」

 充満する決意が、瞳に映る。

「白河麗華、いきます」

 そして、彼女は真名を告げた。

 白河麗華。鹿目は白河博士の娘であることを隠すための偽名だ。彼女は親を失った孤児であり大切な人を守ると誓った騎士。かつて、守人と同じだった者。

 けれど違う、今はもう。運命は彼らを出会わせた。

『久しぶり、だね』

 ビジネスホテルで目覚めた守人に言った台詞。あれは昨夜ぶりなんて言葉ではない。

 一四年ぶりの再会を、恐る恐る口にした祝いの言葉だった。

『……ないか』

 覚えていないか。それも当然といえば当然だった。分かれて一四年になる。それに分かれた時彼はまだ二歳だった。

 まだ麗華が四歳の時、両親はなくなった。麗華は弟と聖法教会に引き取られることになったが、弟は聖騎士にならねばならず、その人生は過酷だという。

 辛い生活に自由もない。まだ二歳の弟が背負うには大きすぎる負担だ。

 だから、彼女は決断した。

『だいじょうぶだよ』

 代わりに、自分が騎士になる。小さな弟の手を引いて、彼だけは別の孤児院へと送ってもらった。

 すべては、彼のためだった。

 救いたかった。守りたかった。愛する家族を守りたい。そのために、四歳の彼女は決断し、多くの痛みを耐えたのに。

(なんで……)

 裏切られたのだ。救いたいという想いも、守りたいという願いも。

 無駄だったのだと突きつけられて、麗華は泣き出しそうだった。

 だけど。

「いくよ、守人君」

 彼女まだ、諦めていなかった。

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