SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

 二人の距離が自然と近づいていく。守人は彼女を抱き寄せた。小さな顔を自分の体に押し当てる。瑞希も両腕を守人の背中に回した。

 ずっと一緒にいよう。一つの誓いを果たすように二人は抱き合い続けていた。そんな二人を夕日の光は包み込み、地平線の向こうへとゆっくりと沈んでいった。

 その、時だった。

「はっ!」

 次の瞬間、守人は夢から覚めるように、夢から覚めていた。

「夢……?」

 守人は遊園地の広場にあるベンチに座っていた。辺りは暗い。見れば夜の涼しさを感じるが、しかし瑞希の姿はいなかった。

「瑞希……? 瑞希!?」

 守人は慌てて立ち上がった。辺りを見渡す。瑞希どころか遊園地には誰もいない。どういうことか分からない。守人は瑞希を探しに走り出そうとした時だった。

「守人君」

 名前が呼ばれた。振り向けばそこにいたのは麗華だった。服装は戦闘用の白衣姿で、腰には帯刀した刀がぶらさがっている。

 日は完全に沈み外灯の明かりが周囲を淡く照らしている。彼女の足元には大きな影が伸びていた。

「鹿目さん?」

 ここには守人と鹿目の二人だけだった。他にはお客どころか係員も見当たらない。

「なあ、瑞希を知らないか?」

「瑞希さん?」

 守人は聞いた。不安が止まらない。

「ああ。さっきまでそこにいたはずなんだ」

「…………」

 答えを待つ間にも顔を左右に動かす。しかし見つからない。麗華の答えを待つも、なかなか返ってこなかった。

「守人君、話があるの」

 そんな時だった。麗華は質問には答えず別の話を切り出してくる。

「悪いけど後にしてくれないか」

 しかし、瑞希のことが気掛かりな守人はそれどころではない。

「話を聞いて。重要なことなの」

「今はそんなことより――」

「重要なことなのッ」

 その時、麗華は俯きながら大声で言った。まるでなにかに耐えるように。そのあまりの迫力に守人は聞くことにした。

「守人君は、ここでなにをしているの?」

 彼女の鋭い視線が、まっすぐに守人を捉える。

「なにって、瑞希と遊んでいたんだ。約束したんだ。また、ここで一緒に遊ぼうって」

「でも、瑞希さんは亡くなったでしょう?」

 麗華の顔に疑念の表情が浮かぶ。けれど、それこそ守人には分からない。なぜなら、彼女だって知っているはずだ。

「? 何言ってるんだ、瑞希なら回復しただろ?」

 そう言った時、麗華は表情を歪ませた。

「鹿目さんだって見てたじゃないか。佐宝研究所の地下で。特戦を倒して、瑞希を見つけて、アザゼルで目を覚まして。俺は瑞希を救えたんだ」

 胸を張ってそう言える。それこそが守人の誇りだ。彼女を救えたこと。

 だが、麗華の反応は冷ややかで、表情は元に戻っている。それどころか暗そうだった。

「守人君、聞いて。私たちが聖法教会の部隊と会って別れてから、今、初めて再会したんだよ?」

「?」

 話が噛み合わない。それも少し前から。

「どういうことだ? 別れてから、路地裏にいる俺を追い掛けてきてくれた。ここに来るまでずっと一緒だったじゃないか」

 路地裏で再会して、研究所に行って、遊園地の前で別れた。それまでずっといた。

 なのに、彼女は違うと言う。

「いい、守人君」

 彼女が見つめる。沈んだ顔は悲しそうで、今にも泣きそうだった。

 なぜ、そんな顔をするのだろう。

 なぜ、会っていないと言うのだろう。

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