SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

第五章 覚醒剤止めますか? それとも人間止めますか?

 時刻は昼をやや過ぎて三時ごろ。まだ日が空に浮かんでいる時、守人は瑞希と一緒に約束の場所へと来ていた。

 いつかまた来ようと約束した、姫山遊園地だ。麗華にはアタッシュケースをあずけ同行を外してもらっていた。

「守人くん、はやくはやく」

 遊園地の広場で瑞希が守人を急かす。ピンク色の服にフリルの付いた白のスカート姿で片手を振っており、小柄な瑞希にはよく合う可憐な服装だった。

「心配しなくても逃げたりしないよ」

「本当かな~?」

「ここまで来てどこに逃げるんだよ」

 瑞希が見上げる胡乱な眼差しを流しつつ守人は瑞希の隣に並ぶ。タイル模様の床を踏み締め、周りには友人同士や家族連れ、自分たちと同じ男女の組み合わせが楽しそうに通り過ぎていく。

「ふふ、そうだね」

 守人の返事に瑞希は微笑んだ。

「約束だったからな」

 そんな彼女を見て、守人も薄く笑みを浮かべた。

 天気のよい青空のもと、彼女と二人っきりで一緒にいる。かつての約束を果たせる。これもまた夢のような光景だ。

 幸せだった。こんな日がくるなんてこと、そう、瑞希がいた頃でさえ思ってもみなかった。なのにこうして二人は一緒にいる。

 昔はそれだけで後ろめたくなって、逃げ出していたのに。今は、そんな思いなど微塵もない。

 幸せで、嬉しくて、喜ばしくてたまらない。

「瑞希」

「ん?」

 今の守人は真っ直ぐと、瑞希を正面から見つめられる。

「こうして一緒に遊ぶの、数年ぶりだよな」

「うん、なつかしいね」

 長い間果たされることのなかった約束。それを行うことに、守人は使命感を感じ入る。

「行こうか」

「うん!」

 そして二人は手を繋いで、五年越しの約束を果たしに遊びに行ったのだ。

 初めてのジェットコースターでは緊張する守人にそんなんじゃだめと瑞希に言われ何度も繰り返し乗せられたり、コーヒーカップでは思いっきり回す瑞希のノリに振り回されたり、瑞希が好みそうなメリーゴーランドを誘ってみたら「わたしたちもう高校一年生だよ?」と乗車拒否されたり、観覧車ではわずかな揺れにビビる守人を見て瑞希に小さく笑われたり。

 そんな散々な思いはあったけど、守人は彼女との遊園地を堪能した。

 長い時間だったけど、あっという間だった。

 日が地平線の向こう側へと沈んでいく。守人の水色の髪がわずかに茜色に染められ、外灯の明かりが点き始める。この時間にもなれば人の数は少ない。

 守人たちは元の広場に戻っており、今日一日を振り返っていた。

「たのしかったね、守人くん」

「あ、ああ。そうだな」

 楽しそうな瑞希の表情とは反対に、守人の顔には疲れの色が見える。

「その、なんかごめんね。なんだかわたし、はしゃいじゃって。守人くん大変じゃなかった?」

「まさか」

 嘘をさらりと言える自分に守人は成長したなと思う。

「楽しかったよ。最高の思い出さ」

 だけど、そう。大変だったけど、最高の思い出だった。まるで昔に帰ったように互いの立場や環境なんて気にしないで遊んだ。楽しかった。それだけで。

「瑞希。また、一緒に来てくれるか?」 

 守人は瑞希に正面を向けた。

 目の前には小柄な女の子、高森瑞希が立っている。彼女へ向かって、守人は言った。

「また気が向いた時にでもさ。な?」

「うん……」

 瑞希の表情がやわらかく緩んでいく。温かい微笑だった。

「俺、分かったんだ。俺は瑞希にたくさん救われてきた。俺にはお前が必要だ」

「守人くん……」

「ありがとうな」
 これまでの感謝を伝え、守人は本当の自分を見つけた。

「今度は、離さないでよね」

「ああ、ずっと一緒にいる」

「本当?」

「本当だ」

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