SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

救出2

 せっかく会えたのに、生きていると思えたのに。

 目の前で横になる彼女は、目を覚まさない。

 目を覚まさないのだ。

「瑞希」

 守人は顔を近づけて、小さな声でささやく。

「瑞希、なあ……瑞希」

 眠っている彼女を起こすように。頬を優しく撫でながら。涙が静かに零れ落ちる。

「瑞希、起きてくれ。頼む……」

 嗚咽が声の邪魔をする。それでも懸命に彼女の名前を呼んだ。ありったけの思いを込めて彼女を呼んだ。

 それでも、返事はない。

 ついに守人の想いが爆発する。瑞希の肩をつかみ体を揺らす。何度何度も。どうしても乱暴になってしまう。けれど止められない。涙はぼろぼろと零れ、掴む手に力が入る。

「駄目よ守人君!」

 瑞希を揺らす守人を、背後から麗華が押さえる。

「彼女は目を覚まさない。覚まさないのよ!」

 彼女の言葉が、守人の動きを止める。悔しさだけが胸で暴れる。涙だけが止まらない。

 頭がグラグラする。目眩と浮遊感のようなものを感じる。まるで現実ではないような感覚だった。

 救えないのか。

 助けられないのか。

 守人は泣いた、泣き続けた。

 そこで閃く。守人は急いで振り返った。

「守人君?」

 そこには麗華が立っていた。

 しかし守人の目的は麗華ではない。彼女が持ってきた、アタッシュケースに駆け寄った。

「守人君、なにをする気!?」

 守人は麗華の持っていたアタッシュケースを強引に奪い取り、ふたを開いた。そこにある注射器を手に取る。

「守人君!」

「これを使う」

 アザゼルを手に、守人は瑞希の元へと急ぐ。

 アザゼルのキャップを外す。瑞希の腕に針を当てる。アザゼルの回復力なら瑞希の傷も治るかもしれない。

 だが麗華が心配するのも分かる。アザゼルには副作用がある。必ずしも救えるとは限らない。

 でも、これしかないのだ。この力で彼女を救う。

 守人は注射器を押し、少しだけ注入した。

「頼む」

 彼女の頬を撫でる。中身が四分の一ほど入った。

「瑞希、頼む。お願いだ」

 彼女の小さな手を強く握りしめる。願いを込めて。祈りを込めて。

「守人君、気持ちは分かるけど、それ以上は」

 彼女の言い分も分かる。これは賭けだ。危険性は身をもって知っている。

 でも、ここまできて無理なんて話があるか。諦めるなんて出来るか。

 守人は瑞希の手を両手で握り締めた。

「約束があるだろう、遊園地に行くって。行こう。絶対だ。だから、だから……!」

 守人は瞼を閉じた。瞼の裏側、そこに浮かぶのは彼女の顔だった。ずっとそばで支えてくれた、彼女の笑顔が今でも残ってる。

 いつだって、瞼を閉じればそこにいる。

 彼女の笑顔が。

「瑞希ぃ!」

 守人の涙が、瑞希の頬に落ちる。

 守人が握っていた手が、わずかに動いた。

「!?」

 瞼を開ける。 

 瑞希の全身から化学反応のような白い煙が上がっていた。体は痙攣したかのように震え出す。

「まさか」

 麗華が驚く。守人も驚いた。けれど手をしっかりと握り、叫んだ。

「瑞希!」

 叫んだ、叫んだ。力の限り。

「起きてくれ、瑞希!」

 ありったけの想いを、この時に捧げる。

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