SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

救出

「うっ」

「守人君?」

 扉に手を当てた直後、身体がふらつき扉にもたれてしまった。さらに体中に疲労が表れ息が荒くなる。

「大丈夫!?」

「これくらい……。それよりも!」

 もしかしたら、さきほどのアザゼルがトドメだったかもしれない。もしそうなら守人に残された時間は少ない。

(急がないとッ)

 守人は体を起こす。こんなところでもたもたしていられない。早く、一刻も早くと自身を急かす。

(瑞希!)

 扉の先は一本の長い廊下になっていた。守人は目を凝らすが、一歩進むと一斉に天井の蛍光灯が点灯した。どうやらここの電気はまだ通じているらしい。

 全体的に白い場所だった。病院のようだ。廊下の両側は大きなガラス窓がはめられ奥の部屋が見えるようになっている。どうやらほとんどが実験室のようだ。

「ここに、瑞希が……?」

「ええ。第三実験室という場所に――」

 彼女の喋る途中に守人は廊下を走った。目的の部屋を探す。両側にある部屋の入口、そこに書かれた名前を忙しく見渡す。第三実験室。それを何度も頭の中で反芻しながら廊下を走る。

「瑞希!」

 ここに瑞希がいる。その思いが守人を急かす。

「瑞希! 瑞希ぃー!」

 探す。

(どこだ)

 探す。

(どこだ)

 探す。

(瑞希!)

 思いは噴火したように熱く溢れていた。瑞希がいる、生きている。その願いが守人を突き動かす。

「そこか!」

 第三実験室と書かれた部屋を見つける。すかさずそこに入り込んだ。まるで手術室のような部屋で、荷台や解剖するための道具などが置いてあった。

 その奥に、ここには不釣り合いな場所があった。白いカーテンで間切りをされた、病室のような空間。

 そのカーテン越しに、ベッドに横たわる影が見える。

「…………」

 唾を呑み込んだ。緊張で体が固い。それでも守人はゆっくりと近づいていき、閉められたカーテンの前で立ち止まった。

「瑞希……」

 そこにいるだろう、名前を呼んでみる。

「守人君、見つけたの?」

 背後から呼ばれる声を無視して、守人はカーテンに手を伸ばす。

 ゆっくりとカーテンが開かれていく様を、固唾を飲んで見守る。心臓の音がうるさい。

 そして全てが開かれた時、守人は、涙を流した。

 いた。ここにいた。そこには瑞希が横たわり、瞼を閉じていたのだ。口には呼吸器が付けられ、腕は点滴を受けている。

 事件に遭ったなんて、大怪我をしたなんてとても思えないほどきれいな姿のままだった。衣服は入院患者が着ているような白の服で、彼女は横になっていた。

 声が震える。瑞希に伸ばす指先さえも小さく震えていた。

「瑞希」

 優しく声をかけて、触れるかどうかという感触で頬を撫でる。

 けれど、瑞希は目を覚まさなかった。

「無理よ守人君。ここに来る途中にも言ったけど」

 守人の背後では、麗華が目を伏せてそう言った。

「彼女は、目を覚まさないの」

 守人は瑞希の頬に今よりも強く、指を当ててみた。それでも、彼女が起きる気配はない。

 意識不明の重体。それが今の瑞希だった。

 瑞希は死んではいない。しかし男に襲われた彼女は頭部に強い衝撃を受け脳に傷を負ってしまった。

 特戦は事件の隠ぺいのために瑞希を確保し一命を取り留めたものの、意識が回復しない容態だった。

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