SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

戦闘2

 守人は垂直に跳んだ。飛び交う銃弾を上空に上がることによって回避する。その後両腕を振るい敵を蹴散らした。

 敵の反撃が始まる。飛来する弾丸の軌跡は黄土色となって空間に残留する。

 守人は宙に浮かぶ弾道を掻い潜りながら敵に疾走し、胸倉を掴むと塀に投げつけた。

 飛び交う怒号が聞こえてくる。それと共に放たれる無数の弾丸。ここはすでに戦場だ。

 守人は中央に降り立つ。瞬時背後から狙撃された。銃弾が正確に守人の背中を狙ってくる。

 だが、守人はそれを回避した。

 分かるのだ、敵の思考が読める。というよりも、感じるのだ。

 この世界が。

 アザゼルは守人の思考と世界を繋げた。もしくは守人の神経を世界に張り巡らせた。世界とリンクした守人にとって世界そのものが今や感覚器官だった。

 それは超然の共感覚のようなものであり、いわばこの街全てが知覚領域。

 空が第三の目となる。大地が肌となる。守人は地面に立っていながら空から俯瞰している感覚だった。

 また敵が地面を蹴るたびに触覚としてそれを捉える。ゆえに敵がどこにいるのか見える。感じる。

 守人は宙に昇り燕の如き速度と動きで疾駆する。しかし空中を走るも敵は多勢だ。多大な対空砲火が邪魔をして自由に走れない。

 ついに銃弾が守人をとらえる。右腕、腹部、推進力の要である足までもが撃たれてしまう。

「守人君!」

 心配する声が銃声に混じって聞こえる。

 だが、守人は笑った。

 痛みがない。肉体は埋め込まれた異物を吐き出しみるみると塞がっていく。

 アザゼルを使用してから思考は至高の興奮を溢れ出している。脳内物質が鎮痛作用を量産し、痛みそのものを消していた。

 守人は疾駆する。敵の感情を読み取り攻撃を回避して、隙を見つけ超人の腕で殴打する。

 圧倒的だった。

 敵も負けじと猛攻に出るが、全てを凌駕する。守人を核として暴風が吹き荒れているようだ。数も武器も問答無用に蹴散らす暴力。

 彼女を救いたいという切なる想いが、彼を無敵に変えていく。

 そして、守人は最後の一人を片手で掴むと地面に叩き付けた。守人は手を放し、男は地面に倒れる。その後、意識を失った。

 勝った。守人は数十の敵を倒したのだ。戦場に立つのは勝者一人だけだ 。

「はあ……はあ……」

 興奮が醒めていく。快感の波が退いていく。アザゼルの効果もちょうど消えていった。

 守人は庭の中央で一人立つ。荒い呼吸を残して。そして辺りを見渡した。自分が倒した敵の数々。

 これだけの敵を守人は倒した。

 その事実をゆっくりと認識していく。

「やった、のか……」

 達成感が、遅れて胸にこみ上げる。

「守人君!」

 庭の中央に立つ守人に麗華が駆け寄ってくる。ふらつく守人の肩に手を当て、必死な顔で覗き込んだ。

「守人君、大丈夫!?」

「ああ……」

 体を支えてもらいながらも守人はなんとか頷いた。それで麗華も「よかった……」と安心した表情を零す。

 だが、これで終わりではない。本来の目的が残ったままだ。

「それよりも、早く!」

「ええ……!」

 守人たちは正面入り口へと急いだ。

 正面扉のガラスは割れており、中は火事で黒焦げだった。

「瑞希さんは地下にいる。案内するわ」

 麗華が走り出し守人も後を追う。

 彼女の案内もあって地下への入口はすぐに見つかった。

(ここに、瑞希が)

 守人の期待が高まる。

 廊下にある鉄扉を開け階段を下りる。火事は地上で起きたらしく地下は燃えていなかった。電気は当然なくここは暗い。

 守人はなんとか目を凝らし進んでいく。いくつもの階段を曲がり、立ち入り禁止と書かれた扉の前に来た。

「行くわよ」

「ああ」

 麗華が扉を開ける。守人も通ろうと扉に手を掛ける。

「SCP版 エンジェル・オーバードーズ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く