SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

戦闘

 苦しい? 痛い? どこの馬鹿がほざいた。それがなんだという。それが代償なら安すぎる。
 彼女の苦しみに比べたら、肉体の痛みがなんだというのか。

(そうだ。俺が)

 痛みに意識が明滅する中ですら、守人は思った。

 救わなければならない人がいる。

 償わなければならない人がいる。

 それはいつだ? 今しかない。

「ぐっ、があ!」

 彼女が生きている。なら、やることは決まっている。

(瑞希!)

 救いたい。

 絶対に!

 精神は泥で体は肉塊になっている。気持ち悪くて仕方がない。発狂寸前の頭の中。戦うなどとんでもない、重患者の有様。

 体の震えは止まらない。けれど、心が奮える。

 彼女のためなら、守人はなんでも出来る。

 守人は、アタッシュケースからアザゼルを手に取った。

「守人君? 駄目よ! これ以上アザゼルを使ったら!」

 守人は立ち上がる。麗華の制止を振り切って。

 誓いの時だ。彼女とまた会えるならすべてを犠牲にできると誓った、証の時だ。

 それがたとえ、自滅になろうとも。

 それでも、構わない。

「守人君、駄目! 今でも副作用がひどいのに、これ以上は本当に死ぬわよ!」

 麗華が叫ぶ。

「動くな! 発砲するぞ!」

 敵からも声が飛ぶ。

 それらを無視して、守人は立つ。

 彼女を救えるというあるはずのなかった希望、幻のような奇跡。

 それを得るためならば、どんな苦痛が待っていようが構わない。

 いざ、至上の歓喜を手に入れるため。

 ――幸せに、堕ちていく。

「俺はもう、絶対に後悔なんてしない!」

 守人は叫ぶ。

 自滅すら覚悟して、アザゼルを注入した。

 直後。体を蝕む激痛が消えた。

「瑞希は、俺が守る!」

 肉体と精神は新生し、意識が第二の覚醒を遂げる。

 庭は大勢の兵士に占拠され、向けられるのはいくつもの殺意と脅威。

 そんな危機的状況を前にして、守人は感じていた。

 それは不思議な感覚だった。

 足が大地を踏みしめる度、緑の光が胞子のように飛び散っていく。日差しは万華鏡となって地面に降り注いだ。

 自身から湯気のように赤いオーラが漂って見える。敵も同じく、激しい赤を発する。

 まさに別次元。音に色がついて見える。感情に色がついて見える。

 世界には栄華を誇る天の光が降り注ぎ、感動を超える音色が波の如く押し寄せる。

「撃てえ!」

 特戦の銃撃が開始された。

 放たれるのは全方向からの銃撃。交わる弾道には逃げ場がなく、過剰なまでの掃射は人体では耐えられない。即死。それしかない。

 だが、守人は健在だった。

 発砲される間際、守人は宙を踏み締めた。まるで透明な階段でもあるように、一歩一歩を進む度身体が宙に上昇していく。

 守人は疑似的に天使の力を獲得し、宙を疾走したのだ。そのまま敵陣目がけ急襲する。足元を弾丸が通り過ぎ、守人は司令を下す男の前へと着地した。

 守人は腕を振り上げ男を吹き飛ばす。男は塀に激突し意識を失った。思わぬ奇襲に辺りから兵士たちの感情が流れ込んでくる。 

 だが、これではまだ終わらない。一斉に銃口が守人を捉えてきた。

「倒す……」

 快感と破壊の興奮が渦を巻き、湧き上がる熱狂、狂乱する意識が全身を突き動かす。

「勝負だ」

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