SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

 第四章 これでまた麻薬(ヘロイン)が打てる

 守人は走っていた。

 行先は佐宝さほう精神保健研究所。近所にある施設で最近火災事件が起きた場所だ。そこはもともと特戦の施設で秘密裏にアザゼルの研究を行っていた。

 瑞希は死んでいなかった。

 交通事故に遭ったというのがそもそも特戦の偽装工作であり、本当は財団のエージェントと接触してしまった彼女を特戦が確保しているというのが麗華の情報だった。

 その場所が佐宝精神保健研究所。

 麗華から事実を聞いてから、守人の胸は熱暴走に近い衝動を絶え間なく続けていた。

 すべての罪であり、すべての贖罪。あり得なかったはずの希望が、守人の前に降りてきた。

 まるで奇跡だ。守人は飛び込んだ。その大きな光に。

(瑞希!)

 二人は研究所に直行した。白い塀に囲まれた建物に巨大な門。門から建物のあいだは庭になっていた。

 二人は周りに人がいないことを確かめてからキープアウトと書かれたテープをどけて門をよじ登る。

「ここに、瑞希が?」

 門から着地して守人は建物を見上げた。火災が起こった建物は焦げ跡で窓のあたりが黒く変色している。三階建ての施設は廃墟となって墓場のような寂しさを漂わせていた。

「行こう」

 守人は鋭い視線で建物を見つめながら歩き出した。大きな施設ということもあり庭は広い。瑞希への想いを胸に。守人と麗華は並んで半分ほど進んだ時だった。

「そこまでだ」

 突如、男の声が響いた。

 それだけではない。庭の草原や木の陰からギリースーツと呼ばれる草で身を包んだ兵士たちが一斉に現れたのだ。ここは完全に包囲され、数は数十人にも達していた。

「特戦!?」

 守人たちを包囲した兵士が銃口を向ける。

 そこから、一人の男が前に出てきた。

「お前たちは包囲された。大人しく拘束されろ。でなければ発砲を行なう」

 他の者たちと同じ迷彩色の男が降伏するように言ってくる。守人だけでなく、麗華も固まっている。

 油断していた。瑞希のことばかりに気を取られ失念していた。放置された火災跡地とはいえ特戦の施設。待ち伏せの危険性はあった。

「俺たちをどうするつもりだ」

 守人はぐるりと兵士を警戒の眼差しで見た後、リーダーの男を睨みつける。

「答える義務はない。我々に従ってついて来てもらおうか」

「駄目よ守人君、絶対に行っては駄目」

 男の言葉にすかさず麗華が注意をさす。だが男の目は本気だ。凄みのある眼光が守人を貫く。

「君は知ってはならないものまで知ってしまった。これは、君のせいなんだよ」

「俺の?」

 お前のせいだ。

 脳裏に非難する声が過る。

「従わないなら仕方がない。君たちにはここで死んでもらおう」

「なに?」

 男が片手を上げる。それに倣って部下たちの構えも固くなる。

「がぁ! ああ!」

 その時、守人の身体に激痛が襲ってきた!

(こんな時に!)

 さきほどと同じ疲労と嫌悪感が全身を苛んでくる。体が錆びついたように痛い。油を差していない機械のように、動きは固く関節が痛んだ。

「守人君!?」

 麗華が慌てて守人に近づく。

「しっかりして守人君!」

 守人は片手で頭を掴む。激しい頭痛に体がふらつき、四つん這いに倒れた。

 守人は建物を見上げる。

 あと、もう少しで辿り着ける。瑞希のもとに。自分の助けを待っている。ずっとそばにいてくれて、自分のために頑張ってくれた彼女が。そこで待っているのに。

 それに比べてどうだ、今の自分は。

 この、有様は。

「ふざ、けるな……!」

 怒りが、湧いてくる。

「ふざ、けるなッ!」

 自分に、腹が立つ。

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