SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

報せ

 目の前の男たちからではない。どこからだと辺りを見渡してみるが、人の姿は見えない。だが不思議と感じるのだ。

 ここには大勢の人の気配がある。まるで満員電車にいるようだ。その見えない大衆が言うのだ。

『お前のせいだ』

 口を揃えて、全員が言ってくる。

『お前のせいだ!』

 増悪を込めて。糾弾する。訴える。守人の罪を許さない、それは断罪の声だった。

『お前のせいだ!』『お前のせいだ!』『お前のせいだ!』

「うわあああ!」

 意識が狂乱する。頭を抱える。この声に頭が割れそうだ。聖法教会の男が守人の腕を掴んでくるが守人は振り払った。すさまじい力だ、男は吹き飛んだ。

 守人は立ち上がり、アタッシュケースを手に振り返って走った。全身の苦痛は気にならない。それよりも、一刻も早くここから逃げ出したかった。

 全力で体を動かす。死にもの狂いで駆ける。住宅街の道を走って走って走り続ける。

 それでも、守人を責める声は聞こえてきた。

『お前のせいだ!』

 走っても、走っても、声は遠ざからない。常に周りから聞こえてくる。

『お前のせいだ!』

 その声に、胸が抉られる。

 お前のせいだと言われる度、泣き出しそうだった。心の中で必死に謝っていた。

 そうだ、この声はなにも間違っていない。

 瑞希を死に追いやったのは、自分なのだから。自分がもっとしっかりしていれば彼女は死なずに済んだ。

 守人は逃走を続け、建物の路地裏へと逃げ込んでいた。細い暗がりの中央で立ち止まり両手を地面に付ける。固い地面と悪臭が守人を苛む。

 守人は顔を腕に押し付けた。

『お前のせいだ!』『死ね!』『死ね!』『殺してやる!』

 壁を通り抜けて、声が未だに聞こえてくる。辛くて辛くて地獄にいるような気分だった。

 一秒後には再び非難の声と死にたくなるほどの悲痛感が襲ってきて、一秒耐えるのも辛くて、耐えても地獄のような一秒がすぐにやってくる。

『お前のせいだ!』『お前のせいだ!』『お前のせいだ!』

 守人は耳を塞いだ。ガタガタと体が震えて、怯える心は消えてなくなりそうなほど畏縮している。

 何度も襲い掛かる魔の時間が過ぎていく。

 そうしてどれだけの時間が経っただろう。守人にはよく分からない。ただ、いつの間にか非難の声は止まっていた。

 路地裏のため薄暗いものの頭上からは光が漏れている。夜ではない。元に戻ったのだ。

「はあ……はあ……」

 荒い息が出る。全身で汗をかき気持ちが悪い。それでも、さきほどの嫌悪感に比べればはるかにマシだった。

 守人は横になっていた体をなんとか動かし、四つん這いに立たせた。

「俺のせい、か……」

 まるで百万人から叫ばれているようだった。自分の聴覚は地獄耳を遥かに超えた可聴域を手に入れたのか、もしくは人の心が流れ込んでくるようだった。

 お前のせいだ。お前のせいだと非難する思い。

 それはまさしく地獄だ。すべてから否定され、拒絶される世界だ。

「……フッ」

 なのに、守人は笑った。

「当然だよな……」

 守人は自嘲の笑みを浮かべ、重い体を起こした。

 壁伝いに立ち上がり、隣にあるアタッシュケースを持ち上げる。

 逃げなくてはならない。その思いが足を動かすが逃げる場所が思い付かない。これからどうしよう。守人は途方に暮れる。

 一人っきりだ。

「守人君!」

 そう思っていた時だった。声をかけられ守人は驚いて目を開ける。

「鹿目さん?」

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