SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

異変2

 守人は拒絶するが麗華は守人に近寄り背中を擦ってくれた。

「大丈夫……?」

 嘔吐する人など近寄り難いはずなのに、本当に心配した声を掛けてくれる。苦しい中なんとか顔を持ち上げて見てみれば、優しくて大きな瞳が守人を映していた。

 その瞳に、吸い込まれそうになる。

「鹿目麗華」

 そこで男の声が響いた。それは彼女が電話で話していた、相手の声だった。

「隊長!?」

 驚いた声を上げ麗華は振り返る。守人もなんとか目線を動かすと、そこには三十代半ば頃の男性と、後ろにも数人の大人たちが立っていた。

 全員が精悍な目つきをしており、白衣に身を包み戦士としての厳つい雰囲気を発していた。

 麗華は隊長の元まで慌てて走っていった。

「隊長! さきほど特戦の部隊と接触して――」

「あれが件の民間人か?」

「え?」

 緊迫した口調で麗華は話すが、隊長は彼女のことを見ていなかった。代わりに守人をじっと見つめている。

「は、はい。それで! 彼が大変なんです。体調の悪化がとても不自然で。すぐに治療しないと彼が!」

 切実な声が守人にも届いてくる。心に迫る彼女の訴えはそれだけ真摯で、麗華が本気で守人を心配している証だ。

 だが、隊長である男は違った。

「彼を連行しろ。行先は日本支部からヴァチカン本部に変更だ。移送した後、異端審問にかける」
「待って下さい!」

 冷酷な言葉に麗華は全身が跳ねる勢いで隊長を見上げていた。

「異端審問!? 実質上の監禁ではないですか! 最悪死刑です! 彼をどうする気ですか? それよりも早く、彼を治さないと!」

「お前の意見は聞いていない。これは本部からの決定だ」

「本部の? ですが――」

「説明は後だ。おい、拘束しろ」

 隊長の後ろで待機していた男たちの中から一人が麗華に近寄る。反抗する彼女を言い伏せるのではなく、羽交い絞めにして掴まえてしまった。

「隊長! 待って下さい、隊長!」

「連行だ。ケースを奪い、速やかに本部へと送るぞ」

 隊長からの再度の命令に残りの男たちが守人に近づいてくる。敵視を皆が送り、まるで今にも殺しに来るような空気を張りながら、一歩一歩近づいてきていた。

(くそ、どうすればいい……)

 守人には事態が一切分からず、全身の激痛にただ見上げることしか出来ない。

「逃げてぇ! 逃げて守人君!」

 麗華が悲鳴に似た声を出す。抑えつけてくる両腕を振り解こうとしながら、必死に声を張り上げていた。

 けれど、守人は動けない。男たちが近づいて来る度に危機感が沸き起こる。

 迫る男たちと、命の危険を感じる状況。

 この状況はそう、あの時と似ていた。守人はこの時、昨夜に遭遇した男のことを思い出していた。死と暴力。そうした危険な空気が、あの時と酷似している。

――守人はふと、そう思った。

 瞬間だった。世界に最大の異変が起きる。目の前が暗がりとなり月が浮ぶ。一瞬にして、昼夜が逆転したのだ。

「なに……」

 あり得ない現象だった。今まで昼だったはずなのに、それが突然夜になった。

 守人は混乱するが、ここにいる誰一人、この場を襲った異常事態に気づいていないのか平然としている。

 足並みは乱れることなく、守人へと真っ直ぐに向かって来る。ゆっくりと、自分のことを捕まえるために。

 頭の中を埋め尽くす疑問。処理が追いつかない多大な疑念。答えは一向に出ず、それでも溢れ出てくる問いを止められない。

 そこへ、今度は声が聞こえてきた。

『お前のせいだ』

(!?)

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