SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

二人の距離

 特戦からの襲撃の後、守人と麗華は逃げ続けていた。麗華は服装を元に戻している。あれから十分以上にわたって走り、行き着いた住宅街の道のりを歩いている。

 アパートや一軒家が並ぶ閑静な場所であり、特戦に追われている気配はない。

「どうやら巻いたようだな」

「うん、そうだね」

 家々が立ち並ぶ道路を二人並んで歩く。特戦から逃げられたことは良かったが、麗華は落ち着かない様子だった。

「ありがとう」

「え?」

 守人からの突然のお礼になにかと振り向く。

「鹿目さんには、また助けられた」

 彼女は少しだけ驚いた顔をしたが、ふっと小さく笑った。

「ううん、いいんだよ」

 優しい声でそう言った。

 二人は並んで歩いた。麗華の背は守人と同じか少し低いくらいだった。会話はなかったが気まずい雰囲気ということはない。

「ねえ、一つ聞いていいかな? もし、よければなんだけど」

 近くに特戦の気配はない。それで気を許したのか、彼女の方から聞いてきた。

「なにかな?」

 見れば隣を歩く彼女は躊躇いがちに、意気を低くして尋ねてきた。

「犠牲者の、瑞希さんのこと。彼が犯人だと知った時の君は、かなり激情しているようだったから。知り合いだったんでしょう? どういう関係だったの? 友達とか。それとも、恋人だった、とか?」

 後ろめたさを感じる彼女の聞き方に、守人は小さく笑った。気にしなくていいと伝えるために。
 その後、表情を元に戻して正面を向いた。

「なんて言えばいいんだろう……。幼馴染だ」

 高森瑞希。彼女をなんと呼べばいいだろう。幼馴染とは言った。間違いではない。けれど正しくもない。守人にとって瑞希は幼馴染以上の人だ。彼女をどう形容するか迷い、こう表現した。

「そして、恩人だ」

 彼女の笑顔を忘れない。いや、忘れようとしても出来ないだろう。守人の傍には、いつも彼女がいたのだから。

「俺は、前にも言ったけど孤児だったから、学校では浮いていたんだ。正直に話すと、いじめられたりもした。あいつは同じ孤児だったけど、俺とは違って親ができた。嬉しかったよ、あいつの幸せがまるで自分のことのようだった。でも、いつしか距離が出来ていた。俺から避けていたんだ。いつまで経っても親がいない自分が情けなかったんだろうな」

 それは守人の素直な告白だった。瑞希にも聞かせたこともない本音を打ち明ける。それは会ったばかりではあるが、鹿目麗華という彼女を信頼していたからでもあった。

 何度も助けられて、自分のことを本気で心配してくれる彼女なら、話してもいいと自然と思えていた。

「ほんと、情けないよ。俺は負け犬だ。ちっぽけなくらいにな」

 自虐が止まらない。何より自身を見下している守人にとって自己評価は最低だ。

「でも、あいつは俺を見捨てなかった。会えば話しかけてくれるし、いつだって笑ってくれた。あいつだけだったんだ、俺の世界には。あいつだけが……」

 彼女の有難みを今なら分かるのに。愚かにも、昔の自分は気づけなかった。それが悔やまれる。思い出せば、今にも涙が出そうだった。

「……そっか」

 守人の答えをどう思ったか。納得したような、けれど悲しそうな表情からは分からない。
 だが、次の言葉は意表を突いた。

「君は、私と似ているのかもしれない」

「え?」

 守人は振り返る。麗華は目線を自分の足元に向けている。表情は笑みと呼べるが、そこに活気はないし、寂しい気配があった。

「守人君は瑞希さんのことが大切だったんだよね。でも、君は大切な人が守れなくて、それで自分が許せなくて。そんな人間は守る価値がないって、ホテルで言ってたよね。でも、私だって同じだよ」

 言って、麗華は立ち止まった。守人も足を止め、二人は向かい合う。

「ねえ、私がいったい、どれだけの人を救えなかったと思う? 大切な人も、困っている人も。それを救えなかった私は、守人君から見て、どう思う? 許されないと思うかな?」

「それは」

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