SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

第三章 約束された安堵

 とあるホテルの一室に数人の武装した男たちがいた。先ほどまでいた人物の痕跡を探り、扉の前には二人が見張りとして立っている。

 ここは完全に封鎖され、一般の者は近寄ることすら出来ない。

 そこへダークスーツ姿の女性、特戦の牧野は足を踏み入れた。

「状況は?」

「は。一班が突入後、目標二名はアザゼルと共にベランダから逃走。地上で二班と交戦しましたが取り逃がしました。現在は追跡中です」

「逃がしたか……」

 部隊長からの報告を耳にし牧野の端整な顔立ちにヒビが入る。このまま追跡を続行するも多くの人員は割けない。

 まずは市街戦を行なった証拠抹消が先だ。

 危険ガスの漏えいということで封鎖線を敷いてはいるがそれも限界がある。牧野は考え込み、これからを思案していた。

「室長!?」

「え?」

 しかし部隊長の発言に視線を扉へ向ける。そこには真剣な表情を浮かべるけんじょうみきひさの姿があった。

「室長、来られたのですか?」

「この目で見ておきたくてね」

「それならそう言ってくだされば」

 牧野としては戦いの最前線に司令自ら出るなど気が気ではない。そこまで豪胆な性格でもないだろうに。また危険を知らぬ阿呆でもないはず。牧野は賢条という男を測りかねる。

 だが、それよりも心苦しいのは対象を取り逃したという結果だ。牧野は表情には出さなかったものの心中で目を伏せる。

 賢条は窓際まで歩くと立ち止まり、振り返った。

「民間人の少年だが、使用してどれだけ経つ?」

 賢条からの質問に牧野が答えを返す。 聞いて、賢条は困苦こんくの面持ちとなった。

「まずいな。副作用が出るとしたらそろそろか」

「はい。適性の高い者ならば使用しても直後に副作用に襲われることはありませんが、これだけ経過すれば現れるはずです。暴走する可能性が高く、危険な状態です」

「そうなったら、いよいよ手が付けられないか。さて、どうしたものかな」

 賢条は顎に手を添え思案する。国家機密と言うべき兵器を民間人に知られ、あまつさえ使用されるという失態を犯した特戦ではあるが、状況はさらに悪化の一途を辿っている。

 危機的状況にこの場の空気は重く、牧野を含めて部下の顔色は優れない。

 その中でただ一人、賢条は鋭い眼光を保ち考え込んでいた。

「牧野、各国の第四世代兵器開発について進展はあるか」

「はい。諜報部隊からEUはヴラド・ツェペシュの血痕の採取に成功したとの報告があり、これを元に人工的に吸血鬼を製造、軍用化する方針だそうです。米国ではエリア五十一から発信された暗号通信の解読に成功しました。内容は、生体の科学的な空間転移に成功、と」

「なるほど、フィラデルフィア計画が実を結んだわけか。ご苦労なことだ。と、言いたいが、今更そんなカビの生えた都市伝説を持ってこられてもね。眉唾ものというか、大方陽動だな」

「はい。実は昨今モンロー研究所に軍関係者が頻繁に出入りしているとの報告があり、また、アフガニスタン捕虜収容所では用途不明器材が多数搬入されています。ご存知の通り、アフガニスタンとは捕虜の取り扱いの条約が交わされておりません」

 以前、アフガニスタン捕虜に対する非人道的な画像が公になり、議論の対象となったことがある。敵兵とはいえ倫理に反すると。

 しかし、法には背いていない。どう扱おうがしてはいけないという決まりはないのだ。

 そう、どう扱おうが違法ではない。

「ふん。超能力開発による人体実験か。モンロー研究所のノウハウに七三一部隊の秘匿情報……。どうやら本命はこっちかな」

 賢条は牧野といくつかの情報をやり取りした後、数瞬の間だけ思考に耽る。現在揃っている情報と達成すべき事柄を結び付け、道筋を整理していく。

 賢条は黙考を続け、下げていた目線を上げた。

「各国もすでに第四世代兵器開発に乗り出している。どのみち、我々に後退はない」

 賢条から決意と覚悟に満ちた発言がなされる。それは決定事項であり、部下の目つきが鋭くなる。

「では、今後の方針を伝達する」

 特異戦力対策室室長、賢条幹久から新たな命令が下る。後に国家間を左右する第四世代兵器を掛けた戦い。

 彼らの行動如何によって、未来は大きく変わるに違いない。そのためにも失敗は許されず、決死を掛けた正念場。暗躍する秘密組織が今後を占う作戦へと身を乗り出していく。

「我々の行動が日本国家存続に直結すると、心して任務に当たれ。では、これより状況開始」

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