SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

襲撃

 理解の及ばない命令に麗華が取り乱す。それは守人もいわば同じで、これから先どうすればいいのか思案する。

(どうする、彼女は敵とは思えないが、しかし)

 守人は危機感に急かされるが的確な答えがなかなか出てこない。

 だが、状況は急展開を迎える。守人は扉の向こう側から聞こえる大勢の足音に気づき扉を見つめた。かなりの数がいるようだが、それが一斉に扉の前で立ち止まったのだ。

 それで、電話で聞こえた内容が脳裏を過ぎる。危機感が全身を走った。

「鹿目さん! 扉だ!」

「え、なに!?」

 守人の只ならぬ気配に麗華は電話を耳から切り、すぐさま扉に目を向ける。

 瞬間だった。扉が勢いよく破られ、そこからなにかが投げ込まれたのだ。その際に見たのはグレーの迷彩色を着込み、日本ではあるまじき銃器を肩から下げている男たちだった。

「特戦!?」

 麗華の声が響く。同時に部屋中を覆うほどの発光と爆音が発生した。色と音が世界から消失する。

 キーンという耳鳴りの中、守人は手を引かれた。麗華だった。空白となった世界で彼女に手を引かれ、そのまま窓に向かって走り出した。

「走って!」

 依然と聴力が曖昧な中、なんとか聞き取れた声に従う。

 二人は走り、窓を突き破ってベランダから飛び降りた。

「く!」

 二人の体が宙へと投げ出される。地上まで真っ逆さまに落ちていき、みるみると地面が迫ってくる。逃げるためでも、これでは死んでしまう!

「黄金の白鳥!」

 麗華は空中で術名を発し全身が仄かに輝く。それから守人の体を抱え、地上へと着地した。

 衝撃に重い音がなる。守人は麗華の両手に支えられていた。着地の反動が全身を貫く。だが、それよりもまず彼女が心配だった。

「だい――」

「大丈夫、だよ」

 見上げた先にいたのは、辛そうに笑っている麗華だった。痛みを無理やり我慢して笑顔を浮かべている。そんな彼女に声をかけようとするがそれよりもさきに言われてしまった。

「私は大丈夫だからまずは逃げよう。ここは危険よ」

 守人の心配を余所に麗華はすぐに戦闘へと意識を移した。敵からの逃走を最優先に。現状への早急な適応は、こうした戦場を何度も経験していると分かる。

「行こう!」

「分かった」

 ホテルから飛び降りた場所は路地裏で、快晴の空ではあるがここは影が差して薄暗い。麗華と守人は急いで足を動かし路地裏の外へと出る。

 麗華が前に出て守人が後を追う。路地裏を抜けた先は大通りに面した街並みが広がり、コンビニや飲食店などが道沿いに並んでいる。しかし、

「動くな! 両手を挙げろ!」

 そこにいたのは街を歩く住民ではなく、武装した男たちだった。同じ道沿いの角から二人組の男たちが銃口を向けてくる。

「――っ!」

 日常生活において、おそらく最も異物であり恐怖が突き付けられる。目に捉えた瞬間守人の息が止まった。

「すでに包囲されている。下がって守人君!」

「分かったッ」

 来た道を戻る。路地裏を今度は守人が先頭になって走る。もたもたしていれば銃で撃たれる。危機感と恐怖が足を走らせる。

「特戦の実働部隊。市街で銃器を持ち出すなんて、超法規的措置を取ってでもアザゼルを回収したいようね」

 危機感が頭を急かす。守人は抱えるアタッシュケースに一層力が入った。

 反対側の出口から路地裏を抜ける。こちらも似たような景観をしているが住民は一人もいない。ここにはどうやら自分たちと特戦の連中しかいないようだ。

「二人組を発見した。アタッシュケースは少年が保持。武装なし」

 出るなり特戦と遭遇する。道路を挟んだ向かい側の歩道に灰色の迷彩色が映った。耳に装着したインカムで報告した後、銃を構えてくる。

「こっちも駄目だ!」

 守人は足を止める。このままでは射撃の的にされる。

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