SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

鹿目麗華4

「うん、私のいる部隊。守人君は今間違いなく特戦に追われている。もしかしたら命だって狙われているかもしれない。だから、私たちが守るわ。絶対に」

 絶対に。その時の語気は強かった。

「そうか。それは嬉しいんだけど、だが……」

 そこで守人は言い詰まるが、それでも聞いた。

「聖法教会なら安心だという保障は? 失礼なことを言ってるのは分かるが、今の話じゃ聖法教会だって俺をどう扱うか分からない」

「それは……」

 守人の疑問に麗華も顔をしかめる。

「守人君の心配はもっともだわ。確かにそうね」

 彼女の表情が沈む。

「実際に守人君をどうするかを決めるのは私よりももっと偉い人たちだけど、でも、信じて。今はこれしか言えないけど。少なくとも、私は守人君をどうこうするつもりはないよ」

 麗華の真っ直ぐな瞳。愛らしい大きな瞳に澄んだ眼差しは、騙す気など微塵も感じさせない。
 けれど不安に思ったのか、バツが悪そうな弱気な顔で見てくる。

「でもやっぱり、怖い、かな?」

 伺うような視線。おどおどした少女らしい素振りに、守人は知らず緊張していた力を抜いていた。

「俺は、初めて会った人間を信じるほどお人好しじゃない」

 言いながら守人は歩く。その先にあったアタッシュケースを持ち上げた。鹿目は「あ」と声に出すが、守人は無視して彼女に振り向き、肩を持ち上げた。

「だが、あなたは別だ。命の恩人だし」

 視線を逸らす。彼女を見ないように。それだけを小さく伝えるだけだった。

「ふふ」

 そんな不器用な方法しか取れない守人に、彼女は小さく笑った。

「うん、ありがと」

 不安そうだった顔はなくなって、お礼と一緒に笑顔になった。それが気恥ずかしくて、守人は肩を竦めた。

 麗華は一回頷くと携帯を取り出し守人から距離を取った。

「それじゃあ待ってて、部隊の人と連絡するから」

「分かった」

 コールは一回で繋がり、麗華は通話を行なった。

「もしもし、隊長、私です。かも――」

『鹿目麗華! 今まで何をしていた、定時連絡を怠りおって!』

「す、すみませんでした。実はその」

『言い訳はいい! 聞く耳持たん!』

 通話口からはいきなり激しい口調が飛んでくる。男の低い声が離れている守人の耳にまで届いた。

 どうやら定時連絡を忘れていたようだが、それは自分をここまで運んだり看病したりしていたからだ。守人は今更ながらありがたく思った。

「実は隊長、昨夜ですが――」

『分かっている。だいたいの状況はこちらでも把握済みだ。それで、お前は無事なんだな?』

 開口一番叱責から始まったが、怒りを露わにしつつも彼女の身を案じている。守人は本気で部下を心配しているいい隊長に思えた。

 ただ、一つの違和感に表情が歪む。隊長の声は大きいが、電話から聞こえる音声は本来なら耳を当てなければ聞き取れないはず。

 なのに守人は意識するだけで鼓膜は正確に音を拾っていた。害があるわけでもないのでそのまま黙っておく。

「はい、私は大丈夫です」

『よし。それで、昨夜現場に居合わせた民間人がいるはずだ。どこだ!?』

「え、彼ですか?」

(俺のことか?)

 聞こえてきた内容に守人の意識が傾く。

『まさか、近くにいるのか!?』

「は、はい。いますが、彼がどうしま――」

『いいか良く聞け。そこにいる少年を最上級危険分子と見なし、すぐさま拘束、支部まで連行しろ!』

「そんな!? どういうことですか!?」

(そうなったか……!)

 隊長から出た言葉に守人はやはりと内心頷いていた。さきほどの予感が的中した。麗華は隊長からの指示に戸惑っている。

『説明は後だ。我々は今そちらに急行している。お前は対象と共にすぐそこから離れろ。特戦の連中が向かっているぞ!』

「ちょ、ちょっと待って下さい! 何故彼を!?」

「SCP版 エンジェル・オーバードーズ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く