SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

鹿目麗華3

 それは自責の影だ。己を苛む、嫌悪の影だった。決して守人から離れることなく傍にある、自分そのもの。

 だから、守人は言ってしまったのかもしれない。

「俺に、守る価値なんてないよ」

「え?」

 その瞬間、輝いていた彼女の表情が、闇に沈んでいくように驚いていた。

「どうして、そんなこと言うの?」

 悲しそうに麗華が聞き返す。

 守人は立ち上がった。壁際まで歩いて彼女と距離を取る。

「それは……」

 彼女は心配そうな声でそう言ってくれるが、守人はどうしようもない後悔を思い起こしていた。
 
 光はあった。

 すぐそばに。手を伸ばせば届く場所にあったのに。なのに自分はそれから目を背け、結果はこのザマだ。

 もし自分が瑞希の思いに応えていれば回避できたのだろうか? そんな思いが自分を容赦なく責め立てる。

「俺は、孤児なんだ」

 言うつもりはなかった。けれど、気づけばいつの間にか口にしていた。

「親からは捨てられて、周りからは冷たい目で見られてきた」

「そんな……」

 彼女の表情が曇る。

「必要とされてないんだ。なら、生きていても仕方がないだろ」

 守人は想いを語る。彼女以外、生まれてから誰にも必要とされなかった自分に生きる意味も居場所もないと、それを知っているから。その彼女も今や他界した。

「そんなことない!」

 守人の自白を麗華は大声で否定した。見れば立ち上がっており懸命な表情で自分を見つめている。

「君の気持ちは分かった。でも、そんな悲しいこと言わないで」

 そう言いながら麗華はゆっくりと近づいてきた。声は落ち込んでいる。しかし彼を想う芯のようなものを感じた。価値がないと言って欲しくないと。

「私だって、孤児だよ」

「え」

 そんな守人に、彼女の告白は軽い衝撃だった。

「両親はある事件に巻き込まれて、亡くなったわ。私は聖法教会に預けられた」

 語られる彼女の過去に、自然と引き寄せられていく。

「辛かったよ。周りは知らない人ばっかりで。生活は厳しくて、ずっと一人で、私はいつも泣いていた」

 彼女の表情は俯いているので分からない。けれど分かる気がした。口調に乱れこそないものの声色は暗かったから。きっと彼女は寂れた表情をしているだろうと。

 そんな彼女の声が、少しだけ変わった。

「だけどね、私には守りたい大切な人がいたんだ。その人のために、私は騎士になろうって決めたの。それからは一直線に頑張ったよ。今まで塞ぎ込んでいたのが嘘みたいに」

 無理に明るく言っているのが分かる。けれど顔を上げた彼女は優しく笑っていた。

「ねえ、聞いて」

 真剣な表情で。懸命な声で、守人に伝える。

「人は、自分のことでも知らないことがある。なら、君が知らないだけで、君のことを想ってくれてる人はいるかもしれない。君のことを想って生きている人だって」

 守人はじっと彼女を見つめていた。その裏側で彼女の言葉を反芻する。

 自分の知らないところで自分を想ってくれる人。いるわけがない。でも、こんなにも懸命に言ってくれる人を前にそれが言えるか? 守人は顔を逸らして、なんとか口にした。

「かも、しれないな……」

 言えたのはそれで精一杯。自責は今でも糾弾してくるし、自分を許す気もない。

 だからこれだけ。この一言が、守人の言えるぎりぎりの境界線だった。

「……これからは? ここはどこなんだ?」

 話を変える。状況については大方分かった。では今後についてだが、それについてはまったく話し合いをしていない。

「ここは私が泊まっているビジネスホテルよ。場所は昨日の現場からそんなに離れてないから。私はこれから部隊と合流してこのアタッシュケースを渡すわ。それが本来の任務だし」

 麗華の顔が動き守人も視線を追い掛ける。ベッドの脇には男が持っていた白のアタッシュケースが置いてあった。

「それで、守人君にはしばらくは私たちと一緒にいてもらうわ」

「私たち?」

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