SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

SCP6000jp。『落とし物』

 日本政府。特異戦力対策室が作った次世代兵器。昨夜の男、そして守人を超人へと変化させた注射器の正体。

 それを、鹿目は言った。

「SCP2026jp。『落とし物』。オブジェクトクラス、セーフ」

「?」

 答えてくれたのはうれしいが言っていることが分からない。それを見て麗華は申し訳なさそうに笑った。

「ごめんね、分かんないよね。SCPっていうのは超常的な現象を起こす生物や物、場所のことで、数字は個体のナンバー。オブジェクトクラスっていうのは収容の方法が確立しているかどうか、簡単に言えばそれの危険度を表しているの。これはセーフだがら収容方法が確立していているから安全よ。……使い方を間違えなければね」

「それは分かったけど、肝心の中身がまだ分かってない。けっきょくそれはなんなんだ?」

 守人は改めて聞き返す。その質問に麗華は表情を元に戻し、静かに告げた。

「これはね、天使の羽なの」

「天使?」

 聞き返す。表情には出さなかったが、天使と言われて今度ばかりは信じられなかった。

 それを麗華も分かっているようで、口調は淡々と、けれど雰囲気は締めて話す。

「特戦はある古代書を発見したの。それは死海文書と同じ時代か、もしくはそれよりも古いとされたものだった。解読は難航したようだけれど、本書には気になることが書かれていた」

「気になること?」

「地名よ。正確に言うなら地形が書かれていたの。現代の地形と照らし合わせて、特定できるほどの」

「それがいったい……」

「そこにね、天使が舞い降りたと書かれてあったのよ。名前はアザゼル。地上に降りた、堕天使の一人」


 アザゼル。知らない天使の名前だった。どういう存在なのかも守人にはピンとこない。
「特戦が開発した第四世代兵器、聖秘(せいひ)合成物服用型兵器、通称アザゼル。天使の羽を人体に取り入れることで身体強化や疑似的に天使の力を手に入れる。それがあの注射器なの。特戦が発見した古代書を頼りに天使の羽を発掘したという情報を聖法教会は得ていた。事実ならば回収することを決定し、SCP2026jpが佐宝(さほう)研究所に保管、研究がされていることが判明して突撃する前にまずは先遣として私が送られたの」

「なるほど」

「調査を終え次第、部隊を編制してSCP2026jpの奪取に及ぶつもりだったんだけれど、財団に先を越されてしまって」

「財団?」

「SCP財団と言って、SCPの確保、収容、保護を目的に活動している団体がいるの。それが昨夜の男よ。私たち同様、あの注射器、第四世代兵器の情報を聞き付け奪うつもりだったようね」

 麗華の表情は険しい。特戦と聖法教会の争奪戦だったところへ、第三勢力が現れれば心穏やかではないだろう。

「いい、守人君。あの注射器は第四世代兵器、国家レベルの重要機密なの。あれを巡って多くの組織が争っている。それを君は知ってしまった。そればかりか使用までしてしまったの。それを特戦や財団が知れば貴重な検体として拉致される危険性だってある。ううん。もしかしたら殺されることだってあり得るのよ?」

「ふっ、人気者だな」

「本当よ!」

 そう言われても守人としてはいまいち実感がなかった。今まで聞かされてきたことのほとんどが言ってしまえばオカルトの類や陰謀論。現実として捉えるのが難しい。

 けれども麗華の表情は真剣だ。本気で守人のことを心配している。

「ごめん、ふざけた。それが事実なら必然的にそうなるな」

 守人は渋々ながらも納得した。というよりも、彼女の心配を無碍にしたくなかった。彼女は命の恩人だ。

 守人が現状を認識したことで彼女は気を落ち着かせる。

「君は今大変な状況にいるの。でも安心して、私があなたを守るわ。絶対に」

 守人を見る彼女の目には熱意が見えた。それは任務とかそういうものではなく、彼女の意思が感じられる目だった。

「どうしてそこまで」

 不思議に思ってしまう。会ったばかりの自分になぜそこまで本気になれるのか。

「それが、私が騎士になった理由だからだよ」

 そう言って、彼女は微笑んだ。きれいな笑みだ。陰も汚れももない、純真な明るさ。

 そんな光を見せられて、守人の影が大きく伸びる。

「SCP版 エンジェル・オーバードーズ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く