SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

鹿目麗華2

 少女の一際大きな声が部屋に広がった。

「……危険、か。それもそうだな」

 守人は壁際に寄ると正面を見つめた。そのまま一秒、二秒と過ぎていき、数秒経ってから彼女に振り向いた。

「大変な状況とは?」

「……とりあえず座って。長くなると思うから」

 彼女の勧めに従って守人はベッドに座り直した。

「先にこれ、返しておくね」

 そう言われ手渡されたのは守人の財布だった。守人は受け取りポケットにしまう。

「見たのか?」

「ごめんね。失礼とは思ったけど、調べさせてもらったの」

 彼女が申し訳ない表情をする。守人としてはそこまで気にはしないのでどうでも良かった。

「隣いいかしら?」と聞く彼女に無言で応え、彼女が隣に座る。

「それで、大変な状況っていうことだけど?」

「うん……」

 守人からの話かけに少女は頷くと、間を繋ぐように瞳を閉じた。しばらくして、彼女は目を開ける。

「まずは、自己紹介するね」

 そう言って少女は微笑んだ。不思議な感覚だった。自分相手に笑われるなんてこと少なかったからかもしれない。

 だとしても、何故だろうか。彼女が浮かべた笑顔になにかを感じ入ってしまう。

 どこか、悲しそうな笑みだったから。

「私の名前は鹿目麗華(かもくれいか)。年は十八歳」

「俺は、白河守人。年は……、今年で一七」

 十六と言わなかったのは年下に見られたくない見栄だった。それでも年下であることに変わりはないのだが。

「なら、私がお姉さんだね」

 そんな守人の様子を麗華は笑った。微笑ましい。そう思わせる笑みだ。

 その後も彼女は笑っていたが、表情を真剣なものへと変えていった。

「状況をいきなり言っても分からないと思うから、その前にいろいろ説明するね。この世界には数多くの勢力があるの。私は聖法教会っていう組織に所属している。表面上はただの宗教団体ってことになっているけど、裏では他のこともしている」

「それが、昨夜の?」

 守人は昨夜の彼女を思い浮かべる。白の服装に剣をもって戦う、まるで現代の騎士のような姿。普通とは思えない身体能力。

 守人の質問に、鹿目は小さく頷いた。

「うん、そう。まるで現代のヴァン・ヘルシングだよね。聖法教会の中でも私は異能根絶部門というところにいて、異能者と呼ばれる人たちと戦っているの。初めて知る守人君には分からないかもしれないけど、魔法とか超能力とか、そうした不思議な力って実は存在するんだよ。ハリウッドも顔負けなんだから」

 おとぎ話も同然の内容に麗華は苦笑していた。だが言い終わると表情はすでに引き締まっている。

 守人は黙って聞いていた。確かにすぐには受け入れがたいことだが、彼女の能力は昨夜に見ている。それに、真摯に話してくれている彼女の話のこしを折りたくなかった。

「それでね、最近各国で魔術や異能の研究が盛んに行なわれているらしいの。それが、ここ日本でも行われた」

「それがあの注射器か……」

 注射器。それは覚えていた。男の力の秘密。電柱を素手で倒したり、斬られた傷がすぐに治るという、尋常ならざる力。その源。

「うん。守人君は巻き込まれちゃったから話すけど、日本には一般に公開されていない組織、防衛省所属の特異戦力対策室というのがあるの。存在しないはずの勢力と戦う存在しないはずの組織。それが略して特戦。あの注射器はその特戦が作った次世代兵器なの」

「兵器? あれが?」

 兵器と言われれば一般的には拳銃か爆弾。他に思いつくものなら戦車や戦闘機、ミサイルなどだろう。注射器を兵器と呼ぶことに違和感がある。

「変に思うのは当然だよ。あれは、今までの兵器とは目指している目的が違う。剣と銃じゃ似ても似つかないでしょ? それと同じ」

「でも、日本が兵器開発なんて」

 これも普通なら疑問に思うことだろう。日本といえば自衛を除いた戦争を永久に放棄した平和国家だ。そんな国が兵器を開発していることにどうしてもすぐには受け入れられない。

「疑問は当然あると思う。でも、国家というのはシビアなのよ。君が思っているよりもずっと。外交とかね」

 信じられないが、現に自分がその場にいると否定は出来ない。守人はとりあえず保留にした。
「それで、あの注射器って、中身はなんなんだ?」

 守人の質問に、鹿目はすぐには答えなかった。守人も核心をついた自覚がある。それだけにこれは重要なことだ。

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