SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

鹿目麗華

「ん……」

 守人は瞼の上から感じる光に目を覚ました。気が付けばベッドの上で布団を被っており、窓から差し込む日の光に目を細める。

「ここは……?」

 見知らない部屋だった。上体を起こして辺りを見回してみる。

 小さなテレビと守人が横になっているベッド、そして机が配置されているだけの質素かつ狭い部屋。

 白の壁紙に灰色のカーペットが広がる。何故こんなところにいるのか、今更ながら不安が芽生え始めた。

「あ、気が付いた?」

 すると部屋の奥、おそらく洗面台があるだろう場所から、昨夜の少女が現れた。

 綺麗で長い黒髪をした少女だった。昨夜は暗くてよく見えなかったが、大きな瞳に整った鼻筋は美人の類に入る。

 服装は以前の白衣とは異なり、黒のスーツタイプのジャケットに白のスカート姿。見た目は清楚を思わせる彼女だが、普段着から受ける印象は活発的だ。

 そんな彼女が心配そうな瞳で守人を見つめてくる。

「久しぶり、だね……?」

「?」

(久しぶり?)

 面識はないはずだ。守人は違和感に顔をしかめるが、ああ、と思い直す。

「昨夜ぶり、だがな」

 じゃっかん顔を崩して冗談ぽく言ってみる。それで彼女も「うん、そうだね」と明るく言ってくれた。

「……ないか」

「ん?」 

 しかし、その後彼女は小さく呟いた。見せる表情はどこか暗く、寂しそうな顔をしている。

 何故そんな顔をするのか。考えて、そこで守人は昨夜の出来事を思い出し表情が凍りついた。

(そうだ、俺は)

 切れたテープを繋いだような、途切れ途切れの映像が頭の中を駆け抜けていく。そこに映された狂気と血の色。

 死を予感させる暴力と、注射器を自身に刺す自分の腕。映像はそこで終わる。

「うっ!」

 思い出そうとするが、上手く思い出せない。無理に引き出そうとすると頭痛がする。

「しっかりして」

 守人が苦しんでいると少女が肩に手を置いてくれた。顔を起こせば、そこには真剣な眼差しで彼女が見つめている。

「大丈夫、大丈夫だから、ね?」

 彼女の優しい言葉が、守人の胸の中に落ちてくる。

「安心して」

 守人の身に起きたことを知っている彼女が、温かい言葉を言ってくれる。

 それを、嬉しく思った。

「ああ、その、ありがとうございます」

「ふふ。いいよ、そんな固くならなくて」

 彼女の言葉に落ち着きを取り戻す。守人はこめかみに当てていた手を離し、無理に思い出すのは諦めた。

 反対に彼女は微笑んでいる。安心させるためだろう。その心遣いだけでもありがたい。

「気軽に話してくれていいから」

 そう、優しく言ってくれた。

 そんな彼女を見て守人は言った。

「昨日は助けてくれてありがとう」

「え?」

「それは覚えてるんだ。そして、礼がまだだったことも」

「そんな!」

 守人の感謝に少女は手を顔の前で振り少々慌てていた。ただ、表情は嬉しそうに。昨夜は凛とした印象だったのに、こうした仕草を見ると年相応の女の子に見える。

「だけどすまない」

「え?」

「俺には、なにも出来ないから……」

 そう言って守人は立ち上がった。彼女が向ける唖然とした視線を強引に引き離した。

「感謝してる、ありがとう。それじゃ、俺は帰らせてもらうよ」

「待って!」

 守人は帰ろうとするが、少女は立ち上がり止めてきた。

「君を行かせるわけにはいかないの。ここにいてちょうだい」

「? どういうことだ」

 このまま帰れるものとばかり思っていた守人だが、様子が変わってきたことに警戒心が強くなる。

「行かせないって、帰れないってことか?」

「事情があるの、話を聞いて」

「いつまで帰さないつもりだ、まさかずっとか?」

「大変な状況なの。帰ったらそれこそ危険だわ!」

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