SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

事件2

 高森瑞希が死んだ。交通事故だった。

 翌日、瑞希の葬儀はしめやかに行われた。当日は雨だった。

 そんな中、守人はベッドの上で体育座りをしていた。電気の明かりはなく、夜の暗がりと同化した部屋の中、守人は一人で座っていた。

 何もない虚空をただじっと眺め、時間だけが過ぎていく。

 守人はじっとしていたが、固まっていた手がわずかに動いた。体の中から、熱が、湧き上がる。

「……うっ……」

 動いた手を、握り締める。強く、強く。そして、胸を悲しみが突き上げた。

「うう、あああ……!」

 慟哭が暗がりを揺らす。壊死していた心が蘇るたび、守人を深い悲しみに落とし込めていく。息絶えていた感情が動き出すたび、枯れていたはずの涙が何度でも頬を濡らしていく。

 瑞希が死んだ。当たり前のようにそばにいた彼女が。眩しくて、暖かい彼女が。

 悔しかった。許せなかった。自分自身を、憎くてたまらない。

 彼女の遺体は夜中に見つかったそうだ。ちょうど姫山遊園地の帰り道だった。

 そこで、彼女は死んだのだ。車にはねられて。一人で死んでしまった。

「うわああああ!」

 なぜそんな時間に? そんな場所で? 誰しもが疑問に思っていた。

 でも、守人だけは知っていた。

 待っていたんだ。遊園地の入り口で、自分が来るのを待っていたんだ。

 きっと、期待と不安に心揺れて、守人が来ることを待っていただろう。待ち合わせの時間が近づくにつれ、時計を何度も確認して。

 でも、待ち合わせの時刻になっても守人は来なくて。寂しい思いをしただろう。でも、遅刻しただけだと思い直して、待つことにして。

 十五分が経って、まだまだこれくらいはと思って。

 三十分が経って、用意に時間がかかっているのかもと心配して。

 四十五分が経って、不安なこころ、自分ではげまして。

 一時間後。さすがに駄目かと、諦めかけるけど。

 二時間後。それでも、最後まで待つと決意して。

 十時間後。閉園(あきら)めた。

 その時の彼女がなにを思ったのかは分からない。もう、調べようがない。

 何故ならば、もう、彼女は――

 彼女は待った。最後まで信じて待っていた。途中で投げ出すことをせず、ずっと自分を信じて待ってくれていたのに。

「うあああああああああ!」

 そんな彼女を、自分は裏切ったのだ。

 もし自分が勇気を出して光に手を伸ばしていれば、彼女は死なずに済んだ。救えていたかもしれないのに。

 自分が見殺しにしたんだ。救えたはずなのに救わなかったんだ。

 守人は泣いた。泣き喚いた。声が枯れ、疲れ果てるまで。

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