SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

事件

 端的に言えば、守人は自分のことが嫌いだった。親からは捨てられ、孤児の中でも残り物。売れ残ったスーパーの惣菜のようだ。

 誰に愛されることもなく、関心を持たれることもなく。待っているのは処分されるだけの生まれた意味を持たぬ廃棄物。

 そんな自分を、どうやって好きになればいい? なにを根拠に自信を持てばいい?

 自分は捨てられた存在なんだ。そう諦観しなければ生きてるだけで息が詰まりそうになる。周りはぜんぶ眩しくて、見てると嫉妬で狂いそうになる。

 そんな思いがさらに自己嫌悪に火をつける。

 だから、自分のことが嫌いだった。

 なのになぜ、彼女は接してくるのだろう。

 なぜ、自分に希望を与える? 期待してしまうような言葉をかける?

 彼女が言った遊園地にはけっきょく行かなかった。行こうとも思ったが行けなかった。

 恐ろしい。光に手を伸ばすのが。この光が消えて、遠くへ行ってしまうのが。消えるくらいなら初めから光なんていらない。

 だけど、掴まなければ光は二度と自分の元へと来てはくれまい。

 なれるだろうか、自分でも。彼女のように光の下に立ち、笑うことが出来るだろうか。

 それが出来れば、それはどんなに――

 今になって守人の胸を後悔が埋めていく。彼女は勇気を持って接してくれたのに。自分が来なかったことで辛い思いをさせてしまった。

 謝ろう。そのことは。別に、彼女を傷つけたかったわけじゃない。

(ただ、俺は。瑞希が)

 守人はベッドから起き上がった。彼女とどう接すればいいかなんて分からない。ただ、今はすぐ彼女に謝りたかった。

「守人ー! 大変だ守人!」

 その時低い男の声が響いた。静かな朝の部屋を震わす声には聞き覚えがある。すでに十数年も馴染みの、院長のものだ。

「守人、起きろ! 大変なんだ!」

「起きてるよ……」

 扉の向かい側から聞こえるけたたましい声にあいまいに応えつつ、守人は扉を開けた。

 そこには院長が立っていた。中年の男性で守人にとって父親がわりの人だ。

 普段から気遣いなどないある意味で家族同然の付き合いをしている彼だが、しかし朝っぱらから頭を割る勢いで大声を出すのは止めて欲しい。

「……なんだよおやじ」

 理由はどうであれ、正直、今はだれかと話をするような気分じゃない。だが無視するわけにもいかず乗り気しない顔を下に向けた。

 それで要件を待つが、しかし、あれだけ騒いでいたというのに一向に言ってこない。

「…………?」

 様子がおかしい。院長は無口になったかと思うと深刻な顔で守人を見つめるだけだ。

「なんだ、早く言えよ」

 そのただならぬ雰囲気に、守人も胸中で身構える。

 そして、ようやくになって院長が打ち明けた。

「瑞希ちゃんが、――死んだ」

「え…………」

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