SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

高森瑞希2

「あ」

「ん?」

 そう自嘲気味に考えていると、瑞希は道ばたで花でも見つけたように明るくなった。

「今、守人くん笑った」

「笑ってない」

「笑ったよ」

「覚えてないな」

「もう」

 瑞希の頬が膨らむ。

「守人くん、もっと笑えばいいのに。わたしは、そっちの方が好きだよ?」

「…………」

 覗き込んでくる瑞希の視線を感じる。守人は正面を向いて、聞こえないフリをした。

「守人くん、昔はもっと明るかったのに……」

「…………」

 いつもより早い、登校の時間が過ぎていく。もうすぐで学校に着くという頃、瑞希は「あ」と声に出してから守人を見上げてきた。

「ねえねえ守人くん、そういえば近くにある姫山遊園地、最近リニューアルされたんだって」

「へえ」

「もう、反応薄いよぉ」

 駄々をこねる子供のような。実年齢よりも幼く見える瑞希がそれをするとさまになっている。こう言うと本人は怒るだろうが。

「覚えてないの?」

 声のトーンが少し低くなる。それで守人は思い出した。

「そういえば、一度だけ行ったことがあるな」

 もうだいぶ前のこと。まだ二人がきみどり園にいた頃、他の子供たちとみんなで遊びに行ったことがあった。記憶はほとんどなくて詳細は忘れてしまったが、行ったことは覚えてる。

「あの時、もう一度ここに来ようねって、約束したんだよ?」

「うそだろ」

「本当だよ!」

「子供のころさ」

「でも、約束は約束だよ?」

「時効って知ってるか?」

「もう」

 落ち込んだように瑞希がまたも頬を膨らませる。

「守人くん、本当に約束守ってくれないの?」

「それは」

 言い淀む。約束は守るためにある。それを知ってはいるが、今では状況が違う。

 瑞希と遊びに行く。果たしてそれがいいことか。前ならともかく、今の自分が瑞希の傍にいるなんて。

 後ろめたい思いが、どうしても足を掴んでくるのだ。

「すぐじゃなくてもいいの。いつかでいいから。ね?」

 見れば瑞希の顔は笑顔だが真剣だ。心配に瞳を震わせて、胸の前で握る拳が不安な心を支えているようだ。

 なんて純粋な想いだろう。美しいとさえ思う。健気で、真剣で。彼女の思いは本物だ。

 彼女の強い想いが、守人の殻にヒビを入れていく。

 けれど、その誘いに応えるだけの勇気がもてない。

「じゃあ、明日!」

「おい」

 すると瑞希は勝手に話を進めてきた。いたずらな笑みを浮かべている。

「ちょっと待てよ、俺は行くとは言ってないぞ」

「だ~め。もう決めちゃったもんね」

  守人は慌てて言うのだが彼女は聞く耳を持たない、強引に話を持っていく気だ。

「明日の休み、姫山遊園地で待ってるから。時間はえっと……十一時ね」

 そう言うと瑞希は逃げるように走っていった。卑怯だぞと心の中で思うが声に出ない。咄嗟になんて言えばいいのか。

 守人は混乱するが、そんな彼に瑞希が振り向いた。

「私、守人くんのこと待ってるから!」

「…………」

 そして今度こそ瑞希は走って行ってしまった。

 守人は一人立ち尽くす。

 彼女の背中は遠くへ消えてしまったが、彼女のまぶしい笑みだけはいつまでも彼の心に残っていた。

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