SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

高森瑞希

 自分と瑞希はもう、住む場所が違う。

 朝の目覚めは、そんな昏い思いと一緒に始まった。一人で使うには広すぎる部屋、そこにある二段ベッドの一階で起き上がる。

 その後すぐに思い出されるのは昨日の別れ際だった。半ば強引だった彼女との別れ。あの時の思いが胸からまだ消えていない。

「フゥ……」

 守人は軽く顔を横に振ってベッドから出た。

 天気自体は晴れた気持ちのいい朝だった。暖かな気温が心地いい。朝食を食べ終え鞄を持って施設を出る。いつもと同じ登校風景だ。

 だが、今日は少し違った。扉を開けて外に出るが、数歩歩いた先で足が止まる。

(おいおい……)

 門の外、塀のすぐ近くに瑞希の後ろ姿が見えたのだ。驚いた。とはいえここで固まっていても仕方がない。守人は門を通り、それで瑞希が振り返った。

「おはよう、守人くん」

 可愛らしい顔が守人を見上げてくる。

「どうしてここにいるんだ?」

 待ち合わせの約束なんてしていなかったはずだ。瑞希がまだここに住んでいた頃は二人で登校していたが、別れ離れとなった今ではそんなことなかったのに。

「うん、なんとなく」

 彼女は、微笑んだ。

「…………」

 そんな顔をされてはなにも言えない。

 すると瑞希は門の外から施設を見渡し始めた。

「おやじに挨拶していくか?」

「うーん、したい気もするけど、でもこの時間は忙しいだろうし。またの機会にするよ」

(また来るつもりか)

 胸の内でツッコむが決しておくびに出さない。

「守人くん一緒に行こう、ね?」

 そう言われ、守人は瑞希と通学路を歩くことになった。

 守人は彼女と並んで住宅街の道を歩いている。それでこの状況にふと考える。

 今朝彼女とは住む場所が違うと思ったばかりなのに、昨日では一緒にいてはいけないと考えたばかりなのに、今のこれはなんなのだろう。

 守人は複雑なため息を吐きそうになる。が、ちらりと横を見てみれば瑞希は上機嫌そうに歩いていた。

「…………」

 複雑だ。うまく言葉に出来ない。どんな顔をして歩けばいいのかも分からず、守人はやや厳しい顔つきで歩いていた。

 状況を省みなければ今朝の登校は気持ちがいい。ろ過でもしたのか澄んだ青空が広がり、静かな道に朝の空気を濃く感じる。

「でも、なつかしかったなぁ」

「ん?」

 唐突に言われた言葉に一瞬なんのことか分からなかった。

「きみどり園。久しぶり」

「ああ……」

 瑞希がきみどり園に住んでいたのは小学五年生の頃までだ。その時に現在の親である高森家に引き取られた。それから何度か顔を見せには来たものの、最近ではなかったなと振り返る。

「覚えてる? あの頃のこと。わたしいっつもおじさんの手伝いのために早起きしてたのに、守人くんは決まった時間になっても降りてこないで。わたし、何度も守人くんを起こしに行ったんだよ?」

「子供はよく寝るものさ」

「もう」

 すねたような表情。けれどちょっぴり笑って、瑞希は目線をやや上に向けた。

「なつかしいな~」

「そうか?」

「そうだよ?」

 瑞希は遠く、青い空を眺めていた。

「また、昔みたいに過ごしてみたいな……」

 守人は瑞希の横顔を覗き見る。澄んだ青空を映す双眸はわずかに細められ、きれいなものを見ているかのように頬がゆるんでいた。

 が、なにを思ったのか慌てて振り返ってきた。

「あ! 別に、嫌味とかそんなんじゃないよ!」

「思ってないさ」

「う、ごめん……」

「はは、なに謝ってるんだよ」

 空回りする優しさに笑みが零れる。さすがにそこまでひねくれてはいない。いや、こんな顔で歩いていれば傍からはそう見えるのかもしれないが。

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