SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

特異戦力対策室2

 今までの間抜けな口調から覚える印象を吹き飛ばす、威圧と威厳が声から伝わる。牧野は動じないものの、気をさらに引き締めて背を見せる上司を見つめた。

「それともう一つご報告が。この件に関して教会が嗅ぎまわっています」

「厄介だな……」

 牧野の報告に賢条が顔をしかめる。

 聖法教会。いくつもの名前を持つが今ではこう呼ばれている。

 聖騎士という独自の戦力を持つ彼らは当然要注意団体として国も認識している。公表こそしていないものの、防衛省特異戦力対策室という組織があるのもそのためだ。

 聖法教会は神とされるものの遺物回収や奇跡とされる出来事の調査を行っている。

 どうやら、兵器に使われている内容が知られたらしい。

「彼らに掴まえられる前に我々が回収する。これは絶対だ」

「はい。今も襲撃犯を追跡しています」

「各国の動きは?」

「はい。諜報部によると中国について動きが。軍部で独自の防空識別圏を計画しているとのことです。これには我が国はじめ他国の防空圏と重なる部分があり、圏域には尖閣諸島上空も含まれています。これによる東アジアへの緊張状態は高まるでしょう。中国は他国よりも第四世代兵器開発に遅れていますので」

「日本、米国への兵器開発に対する牽制、か。むこうも必死だな」

「それとロシアについてです。ロシアは二〇〇〇年以降の経済成長と合わさり軍事支出も大きくなっていますが、諜報部によるとロシア軍に用いられている軍事費はそれよりも低い金額です。推測で十億から二十億ドルもの資金が軍事費として予算と組み込まれていながら使いどころが見当たりません」


「消えた十億ドルか」
「はい。それとは別にですが、地球科学・分析化学研究所が新たに建設されています。それについての経緯は発表されておらず、予算も公表されていません。ですが、この研究所建設に軍関係者が関わっているとの情報があります」


「地球科学・分析化学研究所。確か……、ああ、チェリャビンスク隕石衝突事件か」

「さすがです。その隕石分析発表に関して政府の介入があったこと。さらにその後ツングースカ大爆発の隕石発掘にも乗り出し、最近になって成功したようです」

「なるほど。ロシアは恵まれたな。宇宙から贈り物か」

「はい。どうやら発掘された隕石には、元素周期表にはない物質が付着していたようです」

「その研究費のために軍事費を細工したと。それで、その物質の性質については?」

「そこまではまだ」

「十分だ」

 賢条は一回頷き、両肘を机に立て手を組んだ。

「それらの件は了解した。引き続き各国の動きに注視。特に財団、本国でこれ以上勝手されないように神経尖らせるように伝えておくように」

「はっ」

 賢条からの命令に牧野は短く声を発し踵を返す。部屋から出る際に一礼してから扉を閉めた。

 退室した部下を確認し賢条は立ち上がる。窓から差し込む陽光に導かれるように再び天を仰いだ。そこで、彼はポツリと呟く。

「アザゼル……。人間の女を妻にし、人に知恵を与えた堕天使、か」

 アザゼル。それは堕天使の名前。聖秘合成物服用型兵器にあてられた通称。創世記のエノク書などアザゼルを記した書物は多い。

 そこで語られる経緯には諸説あるが、一貫して共通しているのは神への不敬であった。神が創った人間に頭を下げなかったとする説もある。

 聖秘合成物服用型兵器、アザゼル。これもまた、人類が手にするには傲慢とも愚挙とも取れるものなのかもしれない。

 だが、なんら恐れることはない。そのための対策は打ってある。例えどれだけの傲慢によって拒まれようと、

「フッ」

 人には、それを上回る『狂気』があるのだから。

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