SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

プロローグ3

 注射器がどれほどの意味を持つのか報告で聞いていた麗華だが、効果までは聞いていない。

 聖法教会という世界規模を誇る宗教団体、その諜報員ですら突き止めることが出来なかった。おそらくこの男も知らない。浮かべる焦りがそう告げている。

 なにが起こるのか、数秒の牽制が続く。

「があ、ああ、ああああああああ!」

「?」

 突然男が叫び出した。握っていた注射器を放り捨て頭を抱えている。苦しそうに体を捻じり、絶叫していた。

 いったいなにが起こったのか。分からないがこれは好機だ。麗華は剣を両手で握り男の体を切り裂く。

 斬られたことに男は暴れながら後退していくが、その隙に麗華は再び剣を振り上げた。斬れる。相手は無防備、この間合いなら回避も不可能。

 終いだ。麗華は剣を全力で振り下ろした。

「なっ!?」

 が、振り下ろした刀身は止められた。

 今まで苦しみもがいていた男の片手が彼女の剣をつかんでいたのだ。

 あり得ない。必死に力を入れるがビクともしない。さらに衝撃は続く。

 男の傷口から白い煙が立ち上り、みるみると怪我が回復していた。

「これは……」

「クク、アッハ! アーハッハハハハハ! アーッハハハ!」

 鼓膜をつんざく大きな笑い声が廊下に響く。見れば男の目は恍惚こうこつに輝き、狂ったように笑っていた。

 その目も正気ではない。そもそも正気であれば、この状況で笑うなどしないだろう。

 麗華は男を蹴り掴んでいた手から離れた。間合いをとり男を見る。狂ったような笑いは続いており、異様な空気が漂っていた。

 相手は素手だ。しかし驚異的な腕力に傷を瞬時に治す回復力。聖位術という特別な力を持つ彼女にとっても強敵だ。

 注射器一本で、状況が変わっていた。苦しい展開に麗華は驚いていた表情を引き締める。

「なるほど。これが日本政府、いや、特異戦力対策室が作ったという」

 もし、これが戦場の兵士に使われたらどうなるだろう。武器がなくとも素手で戦える。銃で撃たれても死なない。戦争の歴史、戦法が大きく変わるに違いない。

「第四世代兵器……」

 新たな武器だ。戦争を変える。戦争が変わる。

 これが武器の水準になった時、世界はどう変わるのか。

 麗華は目にする時代の転換期に危機感を募らせていた。

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