SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

プロローグ

 新たな兵器の登場によって世界のあり方は変化してきた。剣の登場、銃の登場、核兵器の登場。これらが世界に与えた影響は大きい。

 兵器が世界を牽引してきたとは言わない。しかしそれらが持つ意味合いが大きかったことは間違いないだろう。

 そして、それは現代でも同じだった。世界では今もなお新たな兵器の開発を行っている。

 銃のように誰でも扱え、しかし銃では勝てない存在。第四世代となる兵器。

 それはここ日本でも行われていた。防衛省特異戦力対策室では秘密裏に次世代兵器の開発を行い、それは完成を目前にまで控えていた。

 だが、聖法せいほう教会はその試作品に聖遺物が使われているという情報を入手。

 本当ならば奪取するために部隊を派遣するため先遣として鹿目麗華かもくれいかが研究所へと送られ、準備が整い次第強奪する手筈だった。

 この日までは。

 鹿目麗華は月しか見えない静かな夜の中、その建物を見上げていた。

 佐宝さほう精神保健研究所。心の病や精神病に対する薬を研究開発する国立施設だ。三階建ての立派な建物ではあるが、けれどその面影は今やなくなっていた。

 炎上している。いくつもある窓からは火を噴き飛び散る火の粉が夜空へと漂っていた。

 聖法教会はまだなにもしてない。これは自分たちの仕業じゃない。

 麗華はすぐに携帯電話を取り出した。

「もしもし、麗華です。佐宝研究所で火災が。はい、何者かに襲撃されたと思われます。はい。そうなると試作品は……はい、はい。了解です。ただちに侵入、追跡します」

 麗華は携帯電話をジャケットのポケットにしまった。

 彼女はまだ十八歳の少女だった。黒の長い髪が熱風に揺れ、服装は白のジャケットと同じ厚手の生地の長ズボン。そして腰には刀を携えていた。

 彼女は研究所の門の前に立ち鋭い眼差しで建物を見つめている。次に右手を前にかざした。

「その男は己の目を焼き潰した。この地平に起こる悲しみを目にしないため。その男は己の耳を突き刺した。人の嘆きを聞かぬため」

 聖書の朗読のように彼女は話す。すると彼女の体がほのかに光り出した。

「しかし、生きる苦難からは脱せられぬ」

 その光は一瞬で広がり施設を透過していった。

 それは人払いの結界だった。公には知られていない、聖位術と呼ばれる魔術とは体系が異なるそれを彼女は行う。ほかの団体では把握していない、教会の者だけが扱える特殊な技能だ。

 彼女は腰の剣を抜き、表情を引き締めた。

聖法せいほう教会異能根絶部門、鹿目かもく麗華れいか、行きます」

 彼女は跳んだ。巨大な門を一足で飛び越え敷地に入る。燃える建物をめざし麗華は走った。

 正面のガラス扉を破って侵入する。一階にも火の手は回り、彼女の腰にまで届くほど炎が揺らめいている。電気はないが、ここは光と熱に満ちていた。

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