【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります
第4話『おっさん、王宮への御用改めについて聞く』中編
12/10カドカワBOOKSより書籍版3巻が発売となります。
それに合わせて少しでも更新できればと思いますので、よろしくおねがいします!!
王女メアリーはその日も父バートランドの休憩時間を狙って彼の私室を訪れ、おねだりを繰り返していた。
テオノーグ国の現王たるバートランドは、メアリーの無茶な要求に頭を悩ませながらも、政務の合間に最愛の娘と過ごせる短い時間を楽しんでいた。
そんな和やか空気の漂う部屋の扉が、乱暴に開かれる。
「な、何ごとか?」
驚いて扉のほうを見た王は、視界に長男エリオットの姿を捉えた。
「エリオット! 私はいま休憩中なのだぞ? いったいなんの用だ!?」
「お兄さま、いくらなんでも無作法ではありませんこと?」
そのふたりの言葉に、エリオットは一切表情を動かさず、扉の前から一歩横にずれた。
その後ろから、軽装とはいえ武具を身につけたままの人影が複数現われ、エリオットが動いたのを機にズカズカと室内に足を踏み入れた。
「なんだ貴様らっ? ここをどこだと心得るか!?」
「まったく。王の前に武器をもったまま現われたあげく、膝もつかないとは……。あなたたち、相応の覚悟はできておりますの?」
バートランドとメアリーの詰問を受けた者たちだったが、彼らはただ冷めた視線をふたりにむけるのみだった。
「無礼だぞ、ふたりとも」
「な……?」
「お兄さま、なにを?」
エリオットの言葉に目を剥くふたりの前に、一行の隊長格と思われる男が進み出た。
「天網監察である」
その宣言に、父娘は息を呑む。
「メアリーだな。天網を犯した罪により、お前を拘束する」
その監察員の言葉に、メアリーは眉を上げて歯ぎしりをした。
「あなたはいったい、誰に、なにを言っているのかわかってるの!?」
「罪人に罪を告げている、それだけだ」
「無礼者っ!! この私をだれだと心得てるのよっ!!」
「天帝の臣民。それ以上でもそれ以下でも……、いや罪人ゆえそれ以下の存在だな」
「なっ……ば、馬鹿にして――」
これまでわがまま放題に生きてきたメアリーは、この期に及んでなお自身に罪が及ばないと思い込んでいるようで、監察員の言葉に怒りこそすれ恐れは感じていないようだった。
「待ってくれっ!!」
メアリーは怒りにまかせて監察員につかみかかろうとしたのだが、その気配に男が腰にさげた剣の柄に手をかけたのを見て、バートランドは慌ててふたりのあいだに割って入った。
「し、失礼……、お待ち、くだされ」
ギロリ、と睨まれた王は、態度と言葉を改める。
「娘が天網を犯したというが、いったいどのような罪を?」
「精人を不当に害した罪である」
心当たりの大いにある父娘はその言葉に息を呑む。
「天帝と対等の友人たる精人を傷つけることはすなわち天帝に弓引くのと同義。極刑に値する」
「ま、まってくれ! 証拠は……娘が精人を害した証拠はどこにある?」
「証拠、だと……?」
男はそう言うと、メアリーの服装を見て表情を歪めた。
「言っておくが、娘が身につけているものは、すべて正当な手段で手に入れた物だ」
中には不当に入手したものもあるが、いくつもの大商人を抱える王である。
入手経路をごまかすなど容易であり、それが易々と露見するとは思えなかった。
「証拠はない」
「な……! そんな、横暴な!!」
「早まるな。証拠はない、が」
男がチラリと振り返ると、それを受けた監察員たちが道をあけ、奥からひとりの人物が現われた。
「お、お前は……!?」
狐を思わせる顔を持つ火精人の登場に、メアリーが絶句する。
ただ、頭から生える狐耳はひとつしかなく、片目に眼帯をかけており、本来はもっと長かったであろう尻尾は半分くらいのところで不自然に切られ、ところどころ毛がはえていなかった。
「お名前をお聞きしてもよろしいですか」
「火精人のファリアといいます」
「ありがとうございます、ファリア殿。ではこの中に、あなたを傷つけた者がおりますかな?」
「ええ。そこにいるメアリーという女に、私は毎日暴力を振るわれ、暴言を浴びせられました」
「お前、なにをっ――」
ファリアと名乗った火精人の言葉に反論しようとしたメアリーだったが、監察員から殺気のこもった視線を向けられ、押し黙ってしまう。
「この耳は虫の居所が悪いというだけでそぎ落とされました。この目は持っていた涙石に飽きたからといってえぐられました。その女が首から提げているネックレスに連なる涙石のひとつは、おそらく私の眼球でしょう」
「なんともおいたわしい。アナタは自分の意思で眼球を差し出したわけではないのですね?」
「そんなことはしません」
監察員はメアリーを一瞥したあと、バートランドに向き直った。
「と、このように証拠はなくとも、証言がある。まぁ期せずして証拠も手に入りそうだがな」
「だ、だがしかし! そいつが嘘を――」
――パシン! と乾いた音が室内に響いた。
「口を慎め、無礼者」
「――え?」
自分がぶたれたことに気付くまで、バートランドはふた呼吸ほどを要した。
「精人は嘘をつかない」
監察員は、淡々とそう告げた。
精人とて時と場合によっては嘘をつくこともある。
だが、かりに嘘だとしても、この場では精人の言うことが正しいのである。
もちろん、ファリアは嘘などついていないが。
「お、お前ぇ……私に逆らってタダで済むとでも……」
メアリーから怒りと恨みのこもった視線を向けられたファリアは、日頃の恐怖が蘇ったのか後ずさりし、ガタガタと震え始めた。
「言っておくが」
男はそう言いながら、メアリーの視線からファリアを遮るように割って入った。
「ファリア殿の氏族はすでに保護しているし、不当に囚われていた方々も解放済みだぞ? お前ごときの下らん脅しが通じると思うな」
「く……」
メアリーは歯噛みし、監察員を睨みつけたが、彼はそれを無視して踵を返した。
「罪人を拘束しろ」
その命令に、同行した観察員たちが一斉に動き始める。
「ちょ、やめなさい! 離して! 私を誰だと……!!」
「抵抗するなら殺してかまわん。どうせ極刑だ」
「え……」
メアリーの表情が怒りから恐怖に塗り変わっていく。
ここにきてようやく、彼女は自分が罪から逃れられないことを悟った。
「いや……なんで、助けて……!」
突然あふれ出した涙をまき散らしながら、彼女は自分を拘束しようとする監察員たちに縋り付いた。
「いやだ、死にたくない! お願い、助けてよぉ!」
そんな王女の前に、ファリアが進み出た。
彼の足は恐怖に震えていたが、強い意志のこもった目でメアリーを睨みつけ、口を開く。
「お、お前は! そう言って助けを求める、私の兄弟を! 友人を! 何人殺してきた!? 自分の番が来ただけだろう!!」
「あ……ああ……ごめんなさい……。許してぇ……! もう、しませんからぁ! 反省しますからぁ……」
「死んで……償え……っ!」
「いやぁ! 助けてぇっ!! お父さまぁー!!」
娘の叫びに、これまで呆然とうなだれていたバートランドは、我に返っったように立ち上がると、隊長格の男に駆け寄り、彼の前で膝を折った。
「たのむ! 命だけは……娘の命だけは助けてやってくれぇ!!」
「ああ、お父さまぁ……」
「娘を助けてくれるならなんでもする!! 頼む!!」
そう言って頭を下げるテオノーグ王を見下ろした男は、ふと顔を上げてエリオット見た。
その視線を受けたエリオットは、無言で頷く。
「なんでもするのだな?」
「ああ、もちろんだとも!! テオノーグ王の名にかけて、いかなることであっても!!」
「そうか。ならばお前が代わりに死ね、バートランドよ」
「え……?」
男の言葉に顔を上げた父王は、おのれの口から間の抜けた声を漏らすのだった。
それに合わせて少しでも更新できればと思いますので、よろしくおねがいします!!
王女メアリーはその日も父バートランドの休憩時間を狙って彼の私室を訪れ、おねだりを繰り返していた。
テオノーグ国の現王たるバートランドは、メアリーの無茶な要求に頭を悩ませながらも、政務の合間に最愛の娘と過ごせる短い時間を楽しんでいた。
そんな和やか空気の漂う部屋の扉が、乱暴に開かれる。
「な、何ごとか?」
驚いて扉のほうを見た王は、視界に長男エリオットの姿を捉えた。
「エリオット! 私はいま休憩中なのだぞ? いったいなんの用だ!?」
「お兄さま、いくらなんでも無作法ではありませんこと?」
そのふたりの言葉に、エリオットは一切表情を動かさず、扉の前から一歩横にずれた。
その後ろから、軽装とはいえ武具を身につけたままの人影が複数現われ、エリオットが動いたのを機にズカズカと室内に足を踏み入れた。
「なんだ貴様らっ? ここをどこだと心得るか!?」
「まったく。王の前に武器をもったまま現われたあげく、膝もつかないとは……。あなたたち、相応の覚悟はできておりますの?」
バートランドとメアリーの詰問を受けた者たちだったが、彼らはただ冷めた視線をふたりにむけるのみだった。
「無礼だぞ、ふたりとも」
「な……?」
「お兄さま、なにを?」
エリオットの言葉に目を剥くふたりの前に、一行の隊長格と思われる男が進み出た。
「天網監察である」
その宣言に、父娘は息を呑む。
「メアリーだな。天網を犯した罪により、お前を拘束する」
その監察員の言葉に、メアリーは眉を上げて歯ぎしりをした。
「あなたはいったい、誰に、なにを言っているのかわかってるの!?」
「罪人に罪を告げている、それだけだ」
「無礼者っ!! この私をだれだと心得てるのよっ!!」
「天帝の臣民。それ以上でもそれ以下でも……、いや罪人ゆえそれ以下の存在だな」
「なっ……ば、馬鹿にして――」
これまでわがまま放題に生きてきたメアリーは、この期に及んでなお自身に罪が及ばないと思い込んでいるようで、監察員の言葉に怒りこそすれ恐れは感じていないようだった。
「待ってくれっ!!」
メアリーは怒りにまかせて監察員につかみかかろうとしたのだが、その気配に男が腰にさげた剣の柄に手をかけたのを見て、バートランドは慌ててふたりのあいだに割って入った。
「し、失礼……、お待ち、くだされ」
ギロリ、と睨まれた王は、態度と言葉を改める。
「娘が天網を犯したというが、いったいどのような罪を?」
「精人を不当に害した罪である」
心当たりの大いにある父娘はその言葉に息を呑む。
「天帝と対等の友人たる精人を傷つけることはすなわち天帝に弓引くのと同義。極刑に値する」
「ま、まってくれ! 証拠は……娘が精人を害した証拠はどこにある?」
「証拠、だと……?」
男はそう言うと、メアリーの服装を見て表情を歪めた。
「言っておくが、娘が身につけているものは、すべて正当な手段で手に入れた物だ」
中には不当に入手したものもあるが、いくつもの大商人を抱える王である。
入手経路をごまかすなど容易であり、それが易々と露見するとは思えなかった。
「証拠はない」
「な……! そんな、横暴な!!」
「早まるな。証拠はない、が」
男がチラリと振り返ると、それを受けた監察員たちが道をあけ、奥からひとりの人物が現われた。
「お、お前は……!?」
狐を思わせる顔を持つ火精人の登場に、メアリーが絶句する。
ただ、頭から生える狐耳はひとつしかなく、片目に眼帯をかけており、本来はもっと長かったであろう尻尾は半分くらいのところで不自然に切られ、ところどころ毛がはえていなかった。
「お名前をお聞きしてもよろしいですか」
「火精人のファリアといいます」
「ありがとうございます、ファリア殿。ではこの中に、あなたを傷つけた者がおりますかな?」
「ええ。そこにいるメアリーという女に、私は毎日暴力を振るわれ、暴言を浴びせられました」
「お前、なにをっ――」
ファリアと名乗った火精人の言葉に反論しようとしたメアリーだったが、監察員から殺気のこもった視線を向けられ、押し黙ってしまう。
「この耳は虫の居所が悪いというだけでそぎ落とされました。この目は持っていた涙石に飽きたからといってえぐられました。その女が首から提げているネックレスに連なる涙石のひとつは、おそらく私の眼球でしょう」
「なんともおいたわしい。アナタは自分の意思で眼球を差し出したわけではないのですね?」
「そんなことはしません」
監察員はメアリーを一瞥したあと、バートランドに向き直った。
「と、このように証拠はなくとも、証言がある。まぁ期せずして証拠も手に入りそうだがな」
「だ、だがしかし! そいつが嘘を――」
――パシン! と乾いた音が室内に響いた。
「口を慎め、無礼者」
「――え?」
自分がぶたれたことに気付くまで、バートランドはふた呼吸ほどを要した。
「精人は嘘をつかない」
監察員は、淡々とそう告げた。
精人とて時と場合によっては嘘をつくこともある。
だが、かりに嘘だとしても、この場では精人の言うことが正しいのである。
もちろん、ファリアは嘘などついていないが。
「お、お前ぇ……私に逆らってタダで済むとでも……」
メアリーから怒りと恨みのこもった視線を向けられたファリアは、日頃の恐怖が蘇ったのか後ずさりし、ガタガタと震え始めた。
「言っておくが」
男はそう言いながら、メアリーの視線からファリアを遮るように割って入った。
「ファリア殿の氏族はすでに保護しているし、不当に囚われていた方々も解放済みだぞ? お前ごときの下らん脅しが通じると思うな」
「く……」
メアリーは歯噛みし、監察員を睨みつけたが、彼はそれを無視して踵を返した。
「罪人を拘束しろ」
その命令に、同行した観察員たちが一斉に動き始める。
「ちょ、やめなさい! 離して! 私を誰だと……!!」
「抵抗するなら殺してかまわん。どうせ極刑だ」
「え……」
メアリーの表情が怒りから恐怖に塗り変わっていく。
ここにきてようやく、彼女は自分が罪から逃れられないことを悟った。
「いや……なんで、助けて……!」
突然あふれ出した涙をまき散らしながら、彼女は自分を拘束しようとする監察員たちに縋り付いた。
「いやだ、死にたくない! お願い、助けてよぉ!」
そんな王女の前に、ファリアが進み出た。
彼の足は恐怖に震えていたが、強い意志のこもった目でメアリーを睨みつけ、口を開く。
「お、お前は! そう言って助けを求める、私の兄弟を! 友人を! 何人殺してきた!? 自分の番が来ただけだろう!!」
「あ……ああ……ごめんなさい……。許してぇ……! もう、しませんからぁ! 反省しますからぁ……」
「死んで……償え……っ!」
「いやぁ! 助けてぇっ!! お父さまぁー!!」
娘の叫びに、これまで呆然とうなだれていたバートランドは、我に返っったように立ち上がると、隊長格の男に駆け寄り、彼の前で膝を折った。
「たのむ! 命だけは……娘の命だけは助けてやってくれぇ!!」
「ああ、お父さまぁ……」
「娘を助けてくれるならなんでもする!! 頼む!!」
そう言って頭を下げるテオノーグ王を見下ろした男は、ふと顔を上げてエリオット見た。
その視線を受けたエリオットは、無言で頷く。
「なんでもするのだな?」
「ああ、もちろんだとも!! テオノーグ王の名にかけて、いかなることであっても!!」
「そうか。ならばお前が代わりに死ね、バートランドよ」
「え……?」
男の言葉に顔を上げた父王は、おのれの口から間の抜けた声を漏らすのだった。
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