【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります
第3話『おっさん、ジャンク品を修繕する』
「うーん、便利だ……」
敏樹の目の前には、ブランド物の時計やバッグ、財布などが並べられており、それらはすべて新品のように状態が良かった。
元は日本のリサイクルショップで買った中古品である。
しかも、ワゴンに積まれて二束三文で叩き売りされている、いわゆるジャンク品と呼ばれるものだった。
商都の宿へと戻った敏樹は、それらジャンク品を〈格納庫〉の機能を使って修繕。
その結果、どれも新品のような状態になったというわけである。
「でも、完全に直ってないものもあるなぁ」
〈格納庫〉の修繕機能を使えば汚れなどは分子レベルで落とすことができるし、傷を塞いだりもできるのだが、欠損した部分の再生は不可能だ。
バッグの取っ手やファスナーのヘッドなどが取れてしまった場合、その部品さえあれば切れていようがちぎれていようが修復は可能だが、部品がなければ直すことはできない。
「あと、『情報閲覧』が微妙に残念だったな……」
あらゆることを調べられる、管理者用タブレットPCの機能の『情報閲覧』だが、あくまでその対象はこの世界――すなわち異世界――の物に限られる。
試しに敏樹が持ち込んだバッグを調べてみても、
《異なる世界から持ち込んだバッグ》
程度の情報しか得られなかった。
敏樹としては『情報閲覧』を使った真贋の鑑定をしたかったのだが、残念ながらそれは空振りに終わったようだ。
「ま、ちゃんとしたお店で買ったから大丈夫だとは思うけど」
ジャンク品とはいえコピー品を販売するのは違法である。
むしろジャンク品のような少ない利益しか得られないもので、法を犯すリスクを負うような真似はすまいと思うことにする。
「あとはこれをどうやって売るかだけど」
手っ取り早いのはリサイクルショップに買い取ってもらう方法だろう。
利益を優先するならネットオークションやフリマアプリを使ったほうがいいのだろうが、出品やら取引やらの手続きが面倒であるし、そもそもあまり日本にいない敏樹には不向きな手段である。
「ま、そのへんはまた実家に帰ってから考えるか……」
そろそろ並べた品物を収納しようかというとき、背後からかすかな物音が聞こえた。
振り返るとちょうどロロアが風呂から出てきたところだった。
「お風呂、お先いただきました」
濡れた髪の毛の水気をタオルで取りながら、ロロアは敏樹の元へ歩み寄ってくる。
「あ、これってニホンのお店で買ったものですよね?」
「おう」
「わぁ、すごくきれいになってる」
整然と並べられたブランドものバッグや小物を見て、ロロアが目を輝かせる。
どうやら向こうの一流ブランドのデザインは、異世界でも通用するらしい。
「なにか欲しいのある?」
「え、いいんですか?」
「もとは二束三文だからね。欲しいものがあればどうぞ」
「えっと、じゃあ……」
濡れた髪をタオルで包んでさっとアップにまとめたロロアは、しゃがみこんで品物を吟味し始め、やがて四つん這いになって気になるもののあいだを行き来し始める。
ロロアが動くたびに、ガウンからこぼれ落ちそうになっている豊満な双丘が揺れ、敏樹は思わず唾を飲み込んだ。
一緒に過ごすようになってそれなりの時間が経ち、風呂上がりの姿などもう見慣れたものだと思っていが、ふとした瞬間に現れる色気にはつい反応してしまう。
男である以上、こればかりはいくつになっても変わらないのだろう。
「これがいいです!」
ロロアが選んだのは革のポーチだった。
大きさとしてはなにかと使い勝手はよさそうだが、持ち手やストラップがついていないので、別途大きめのバッグに入れて使うものなのだろう。
「ククちゃんかココちゃんに頼んで加工してもらえば、いまのポーチと交換できると思うんです」
「ん? いま使ってるやつはもう傷んでるの? なんだったら直すけど」
「あー、いえ。こっちのほうが可愛いから……」
ポーチを胸に抱えたロロアが、少し恥ずかしげに俯く。
「あ、よくよく考えればそれ中古品だわ。今度実家に帰ったときに、新品買おうか」
「あの! これで……、いえ、これが、いいです」
「そう? でも中古品だよ?」
「はい。それでも、トシキさんが直してくれたもののほうが……」
「あ、うん、そっか……。まぁロロアがそれでいいなら……」
なんとなく照れくさくなって頬をかきながら敏樹がそう言うと、ロロアは俯き加減だった顔をあげる。
「はい。大事に使いますね」
そう言って嬉しそうに微笑むのだった。
※※※※※※※※※※
それから数日後、敏樹の部屋に忙しいはずのファランを筆頭に、ベアトリーチェ、ククココ姉妹がきていた。
「えっと、これがこっちで、これは……ここかな?」
「ちゃうでファラン。この縫製見てみ? こっちのんが高いんちゃうか?」
「うーん……でもほら、こっちのほうが革の質は格段にいいよ?」
「せやねんなぁ……。クク、こらファランのほうが正しいような気がするわ」
「ほうか……。職人的にはこっちに軍配あげたいとこやねんけどなぁ」
ファランとククココ姉妹は敏樹が修繕したブランド物の、おもに革製品を見ながらわいわいと話し合っていた。
それをベアトリーチェとロロアは温かい目で見守っており、敏樹は若干呆れ気味に3人の行動を眺めている。
(なにがしたいんだが……)
事の発端はロロアがポーチの手直しを依頼したことにある。
その際、敏樹が修繕したブランド物に興味を示したククココ姉妹とファランが、忙しい合間を縫って敏樹の部屋を訪れたのだった。
「よーし、これでいいんじゃない?」
「うん、完璧や!」
「せやな」
そしてブランド物の革製品が、横一列に並べられたのだった。
「で、これがどうしたって?」
敏樹に呆れ気味な口調で問いかけられたファランは、やれやれと言わんばかりに肩をすくめて首を横に振った。
「わっかんないかなぁ……? こっちから価値の高い順に並べたんだよ」
そう言ってファランは、一列に並べられた品物の左端に置かれたバッグを指さした。
「ふーん……」
なんとなくそうではないかと思いつつ問いかけた敏樹は、少しばかり感心したような、しかしどこか訝しげな様子で並べられたブランドものに近づき、観察を始めた。
「んー、でもこのへんは相当安かったはずだけどなぁ」
ファランたちが並べたもののうち、高い方から3〜4つはかなり状態が悪く、仕入れ値としては相当安かったことを覚えている。
「元の状態が悪かっただけとちゃうか?」
「せやろな。材質と作り見たらこの辺は別格やで」
「へええ、そういういもんかねぇ」
そう言って感心する敏樹を尻目に、ファランは列の真ん中あたりからショルダーバッグをひとつ、ひょいと取り上げた。
「じゃ、ボクはこれもらうねー」
その傍らで、ククココ姉妹は似たようなデザインのクラッチバッグをそれぞれ手に取る。
「これ、道具とか持ち運ぶんによさそうやな」
「せやな」
そしてベアトリーチェも遠慮がちに小さめのポーチを手に取った。
「これ、ロロアみたいにベルトに付けたいんですけど……」
「おう、まかしとき!」
「ちょちょいのちょいでやったんでぇ!」
ベアトリーチェは許可を取るつもりで敏樹に言ったのだったが、返事をしたのはククココ姉妹だった。
「どうぞ。好きに持っていっていいよ」
敏樹が穏やかにそう言ってくれたので、ベアトリーチェはほっと胸をなでおろした。
ちなみにシーラたちやラケーレ、クロエはすでに気に入ったものをひとつずつ持って帰っている。
(赤字には、ならないよな……?)
思っていた以上に数が減ってしまったブランド物を見ながら、敏樹は心の中でそう呟くのだった。
敏樹の目の前には、ブランド物の時計やバッグ、財布などが並べられており、それらはすべて新品のように状態が良かった。
元は日本のリサイクルショップで買った中古品である。
しかも、ワゴンに積まれて二束三文で叩き売りされている、いわゆるジャンク品と呼ばれるものだった。
商都の宿へと戻った敏樹は、それらジャンク品を〈格納庫〉の機能を使って修繕。
その結果、どれも新品のような状態になったというわけである。
「でも、完全に直ってないものもあるなぁ」
〈格納庫〉の修繕機能を使えば汚れなどは分子レベルで落とすことができるし、傷を塞いだりもできるのだが、欠損した部分の再生は不可能だ。
バッグの取っ手やファスナーのヘッドなどが取れてしまった場合、その部品さえあれば切れていようがちぎれていようが修復は可能だが、部品がなければ直すことはできない。
「あと、『情報閲覧』が微妙に残念だったな……」
あらゆることを調べられる、管理者用タブレットPCの機能の『情報閲覧』だが、あくまでその対象はこの世界――すなわち異世界――の物に限られる。
試しに敏樹が持ち込んだバッグを調べてみても、
《異なる世界から持ち込んだバッグ》
程度の情報しか得られなかった。
敏樹としては『情報閲覧』を使った真贋の鑑定をしたかったのだが、残念ながらそれは空振りに終わったようだ。
「ま、ちゃんとしたお店で買ったから大丈夫だとは思うけど」
ジャンク品とはいえコピー品を販売するのは違法である。
むしろジャンク品のような少ない利益しか得られないもので、法を犯すリスクを負うような真似はすまいと思うことにする。
「あとはこれをどうやって売るかだけど」
手っ取り早いのはリサイクルショップに買い取ってもらう方法だろう。
利益を優先するならネットオークションやフリマアプリを使ったほうがいいのだろうが、出品やら取引やらの手続きが面倒であるし、そもそもあまり日本にいない敏樹には不向きな手段である。
「ま、そのへんはまた実家に帰ってから考えるか……」
そろそろ並べた品物を収納しようかというとき、背後からかすかな物音が聞こえた。
振り返るとちょうどロロアが風呂から出てきたところだった。
「お風呂、お先いただきました」
濡れた髪の毛の水気をタオルで取りながら、ロロアは敏樹の元へ歩み寄ってくる。
「あ、これってニホンのお店で買ったものですよね?」
「おう」
「わぁ、すごくきれいになってる」
整然と並べられたブランドものバッグや小物を見て、ロロアが目を輝かせる。
どうやら向こうの一流ブランドのデザインは、異世界でも通用するらしい。
「なにか欲しいのある?」
「え、いいんですか?」
「もとは二束三文だからね。欲しいものがあればどうぞ」
「えっと、じゃあ……」
濡れた髪をタオルで包んでさっとアップにまとめたロロアは、しゃがみこんで品物を吟味し始め、やがて四つん這いになって気になるもののあいだを行き来し始める。
ロロアが動くたびに、ガウンからこぼれ落ちそうになっている豊満な双丘が揺れ、敏樹は思わず唾を飲み込んだ。
一緒に過ごすようになってそれなりの時間が経ち、風呂上がりの姿などもう見慣れたものだと思っていが、ふとした瞬間に現れる色気にはつい反応してしまう。
男である以上、こればかりはいくつになっても変わらないのだろう。
「これがいいです!」
ロロアが選んだのは革のポーチだった。
大きさとしてはなにかと使い勝手はよさそうだが、持ち手やストラップがついていないので、別途大きめのバッグに入れて使うものなのだろう。
「ククちゃんかココちゃんに頼んで加工してもらえば、いまのポーチと交換できると思うんです」
「ん? いま使ってるやつはもう傷んでるの? なんだったら直すけど」
「あー、いえ。こっちのほうが可愛いから……」
ポーチを胸に抱えたロロアが、少し恥ずかしげに俯く。
「あ、よくよく考えればそれ中古品だわ。今度実家に帰ったときに、新品買おうか」
「あの! これで……、いえ、これが、いいです」
「そう? でも中古品だよ?」
「はい。それでも、トシキさんが直してくれたもののほうが……」
「あ、うん、そっか……。まぁロロアがそれでいいなら……」
なんとなく照れくさくなって頬をかきながら敏樹がそう言うと、ロロアは俯き加減だった顔をあげる。
「はい。大事に使いますね」
そう言って嬉しそうに微笑むのだった。
※※※※※※※※※※
それから数日後、敏樹の部屋に忙しいはずのファランを筆頭に、ベアトリーチェ、ククココ姉妹がきていた。
「えっと、これがこっちで、これは……ここかな?」
「ちゃうでファラン。この縫製見てみ? こっちのんが高いんちゃうか?」
「うーん……でもほら、こっちのほうが革の質は格段にいいよ?」
「せやねんなぁ……。クク、こらファランのほうが正しいような気がするわ」
「ほうか……。職人的にはこっちに軍配あげたいとこやねんけどなぁ」
ファランとククココ姉妹は敏樹が修繕したブランド物の、おもに革製品を見ながらわいわいと話し合っていた。
それをベアトリーチェとロロアは温かい目で見守っており、敏樹は若干呆れ気味に3人の行動を眺めている。
(なにがしたいんだが……)
事の発端はロロアがポーチの手直しを依頼したことにある。
その際、敏樹が修繕したブランド物に興味を示したククココ姉妹とファランが、忙しい合間を縫って敏樹の部屋を訪れたのだった。
「よーし、これでいいんじゃない?」
「うん、完璧や!」
「せやな」
そしてブランド物の革製品が、横一列に並べられたのだった。
「で、これがどうしたって?」
敏樹に呆れ気味な口調で問いかけられたファランは、やれやれと言わんばかりに肩をすくめて首を横に振った。
「わっかんないかなぁ……? こっちから価値の高い順に並べたんだよ」
そう言ってファランは、一列に並べられた品物の左端に置かれたバッグを指さした。
「ふーん……」
なんとなくそうではないかと思いつつ問いかけた敏樹は、少しばかり感心したような、しかしどこか訝しげな様子で並べられたブランドものに近づき、観察を始めた。
「んー、でもこのへんは相当安かったはずだけどなぁ」
ファランたちが並べたもののうち、高い方から3〜4つはかなり状態が悪く、仕入れ値としては相当安かったことを覚えている。
「元の状態が悪かっただけとちゃうか?」
「せやろな。材質と作り見たらこの辺は別格やで」
「へええ、そういういもんかねぇ」
そう言って感心する敏樹を尻目に、ファランは列の真ん中あたりからショルダーバッグをひとつ、ひょいと取り上げた。
「じゃ、ボクはこれもらうねー」
その傍らで、ククココ姉妹は似たようなデザインのクラッチバッグをそれぞれ手に取る。
「これ、道具とか持ち運ぶんによさそうやな」
「せやな」
そしてベアトリーチェも遠慮がちに小さめのポーチを手に取った。
「これ、ロロアみたいにベルトに付けたいんですけど……」
「おう、まかしとき!」
「ちょちょいのちょいでやったんでぇ!」
ベアトリーチェは許可を取るつもりで敏樹に言ったのだったが、返事をしたのはククココ姉妹だった。
「どうぞ。好きに持っていっていいよ」
敏樹が穏やかにそう言ってくれたので、ベアトリーチェはほっと胸をなでおろした。
ちなみにシーラたちやラケーレ、クロエはすでに気に入ったものをひとつずつ持って帰っている。
(赤字には、ならないよな……?)
思っていた以上に数が減ってしまったブランド物を見ながら、敏樹は心の中でそう呟くのだった。
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