【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります

平尾正和/ほーち

第7話『おっさん、山賊を倒す』前編

「なぁ、おっさん」
「ん?」


 敏樹とシーラは城内を走りながら会話をしていた。
 どうやら城内の山賊はゲレウたちのほうに回されているらしく、門から中心部当たりまでは無人だった。


「頭目はあたしに譲って欲しいんだけど」
「いいよ」
「いや、意外とあっさり?」
「だって、これは君たちの戦いだからな」
「おっさん……」
「まぁ、露払いは任せてもらおうか」


 頭目の部屋までシーラを先導しながら、敏樹はときおり遭遇する山賊どもを屠っていった。


「戦況はどうだった?」
「おっさんのおかげで楽勝!」


 頭目の部屋を目指しながら、敏樹はシーラから戦況の報告を受けていた。
 敏樹は事前に『情報閲覧』を使って山賊たちの中から注意すべき者をピックアップしていた。
 単純に戦闘能力に優れた者はもちろん、フルプレートメイルを着ているくせに魔術が得意な者や、魔術師に見せかけて暗器を使うような少しトリッキーな者、そしてそこそこ強力な魔術を習得している魔術師。
 そういった者を洗い出して外見的な特徴や普段の配置場所などを覚えてもらい、優先的に倒していくよう指示を出していた。
 また、敷地内にはいくつかトラップもあったが、それらもすべて看破し、襲撃メンバーには教えていたのだった。


「事前にあれだけわかってるってのは、ちょっと反則っぽいけどね」
「まず勝ちて後に戦う、ってね」
「何それ?」
「戦いの基本だな。仲間に犠牲が出るのは嫌だろ?」
「そりゃ、まぁ」
「だったら卑怯だろうが反則だろうが、味方の犠牲を減らすための算段はできるだけしておいた方がいいのさ。それに、山賊どもに気を遣ってやる義理はないだろ」
「たしかに」
「さて、着いたぞ」


 ゲレウたちが頑張ってくれたおかげで、ここまでそれほど戦う事なく到着できた。


「よーし、じゃあ――」
「待て待て、まずは勝つための準備からだ」


 そう言って敏樹はシーラを制止し、タブレットPCを取り出した。


「中には、2人だけだな。じゃあまずはシーラのスキルを……」


 頭目の部屋の中にふたりしかいないことや、トラップのないことを確認した敏樹は、〈双剣術〉をはじめとするシーラのスキルレベルを上げていく。


「お、なんかいい感じかも」
「よしよし、さらに倍率ドン」


 アラフォー世代以上の日本人にしかわからないようなネタを交えつつ、敏樹は【身体強化】【感覚強化】【斬撃軽減】【刺突軽減】【打撃軽減】などの強化系魔術をシーラにかけていった。


「おおー、なんか力がわいてきた」
「んじゃ、最後のダメ押し」


 そう言いながら敏樹は部屋の戸に近づき、ドアをノックした。ただし、普通にコンコンと叩くのではなく、不規則なリズムを刻むように叩いた。


「おい」
「……はい」


 何かを促す声とその返事のあと、中からドアに近づいてくる足音が聞こえてきた。
 足音がドアの前で止まったあと、ガチャリと鍵の外れる音が聞こえ、続けてギィと音を立ててドアが開く。


「ハラショオオォォッ!!」


 敏樹はドアが開いた瞬間、向こう側の人物に対し、片手斧槍を両手で構えて穂先を突き出して体当たりをかました。
 繰り出した片手斧槍の穂は相手の腹に深々と刺さり、さらに敏樹は勢いをつけて敵を押し倒した。


「シーラぁ、いけぇっ!!」


「あいよっ!!」


 敏樹が空けた隙間を縫うように、シーラは室内へと身体を滑り込ませるのだった。


**********


「てめぇは……やっぱウチにいたメス犬じゃねぇか」


 シーラの姿を見た頭目が、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
 頭目は金属製の軽鎧を身につけており、左手には小型の円盾、右手には刃渡り七〇センチ程度の片手剣が握られている。
 頭には前頭部を保護する鉢金を巻いており、頭頂の左右あたりから獣の耳が見えていた。
 鎧といい盾といい、かなり使い込まれているようである。


「どいつもこいつもあたしをメス犬呼ばわりかい。気分が悪いねぇ」
「……どうやってそこまで回復した?」
「アンタにゃ関係ないね」
「ふん、まぁいい。さっさと終わらせて、全員の前でたっぷりと可愛がってやるからなぁ」


 頭目はシーラに揺さぶりをかけようとわざと嗜虐的な笑みや口調で訴えたが、シーラのほうは冷めた視線を返すだけであった。
 高レベルの〈精神耐性〉を有するシーラに、そんな手は通用しないのだ。


「はん、せいぜい頑張りな。ま、手下っつってももう何人も残ってないと思うけどねぇ」


 今度はシーラがニタリと笑う。


「ふ、ふんっ! 強がりを言っていられるのも今のうちだけだ」


 頭目はシーラの言葉を鼻で笑おうとしたが、数十人の水精人が攻め込んで来たこと、なによりこの場に侵入者を許してしまったこともあり、狼狽を隠せない様子だった。


「おやおやぁ、森の野狼の頭目ともあろうお方が、メス犬一匹にびびってんのかい?」
「なめやがってぇっ!!」


 頭目が素早く踏み込み、剣を振るう。それに合わせるようにシーラもその間合いに飛び込んでいった。


「お、あっちは始まったか。じゃあこっちも始めるか?」


 突入と同時突き倒した大男はすでに起き上がり、メイスを構えて敏樹を警戒していた。
 二メートルゆうに超えるその大男は革の軽鎧を装備し、スキンヘッドの頭はむき出しにしている。
 メイスは1メートルほどもあり、柄頭にフランジと呼ばれる突起が四方についているタイプの物だ。
 敏樹の初撃はみごとに決まったのだが、厚手の革鎧と見るからに分厚そうな脂肪と筋肉に阻まれ、致命傷には至らなかった。


「しっかし、おたくのボスも随分小物臭がするよね」


 シーラと頭目のやりとりを見た敏樹は呆れたように呟きながら、軽くため息をついた。


「お、お頭を悪く言うんじゃねぇっ!!」


「はっ! 山賊の頭目なんざクズみたいなもんだろ? 褒めるほうが難しいと思うけど」
「だまれええぇぇっ!!」


 大男がメイスを振り下ろす。
 ドガッ! という鈍い音とともに岩をならして作られた床が無残にえぐれた。
 この頭目の部屋は広さもさることながら高さもかなりあるので、二メートル超の大男が一メートルのメイスを振りまわすことができるのである。


「お頭は、戦に負けて行き場を失った俺たちを救ってくれた英雄なんだぁ!」


 大男は喚きながらメイスを振り回すが、敏樹はその間合いに入らないよう余裕を持ってかわしていた。


「か細い女性相手にムキになって剣振り回すとは、ご立派な英雄だこって」


 頭目とシーラの戦闘も白熱し始めていた。
 シーラのラッシュは頭目の盾と片手剣でうまく防がれ、隙を縫うように繰り出される頭目の攻撃も逆にひらりとかわされる。 
 戦いは拮抗しており、互いに決め手を欠くといった状況だろうか。


「そもそも傭兵に敗戦はつきものだろうに。傭兵が負けるたびにいじけて山賊になられたんじゃあ世の中山賊で埋め尽くされてしまうな」
「お前に何がわかるかぁ!」


 あいかわらず大男は喚きながらメイスをブンブン振り回しているが、そもそも敏樹を間合いにすら捉えていないのだから、当たるはずもない。
 敏樹に挑発されて冷静さを欠いているようだ。


「たしかに、平和を愛する日本人には理解できん話だね」
「ワケのわからんことを!!」


「負けて可哀想なボクちゃんたちは山賊になるしかなかったんですぅってか? 情けない話だな」
「だまれぇ! 俺たちは誇り高き森の野狼だぞっ!!」
「なーにが誇り高きだこら。弱いものいじめしか能がないくせに」
「うるさいっ、死ねぇっ!!」
「ひょいっとな。当たるかよ」
「くそう、ちょこまかとっ!!」


 大男が暴れ回るせいで、室内の調度類はかなり破壊されていた。


「商人を襲い、精人をさらい、女性を拐かす行為のどこに誇りがある? ただのクズの集団じゃないか」
「だまれだまれ! 奪われる奴が悪い! 弱い奴が悪いんだぁ!!」
「ははっ! 戦に負けた奴が言っていいセリフじゃないよ、それ」
「うがああっ!!」


 大男は顔を真っ赤にしながら喚き散らし、より激しくメイスを振り回したが、それでも敏樹を捉えることができなかった。
 ただ、大男の攻撃自体は相当激しく、敏樹のほうも攻めあぐねてはいたのだが。


「グオオオオオオォォォォッ!!」


 そんな中、室内に獣の咆哮が響き渡る。
 それはシーラと戦っている頭目が発したものだった。


「は、はは……、終わりだ、お前らぁ」


 大男は攻撃をやめてだらんと腕を垂らし、敏樹を馬鹿にするような笑みを浮かべた。


「お頭のあれがでたら、もう女に勝ち目はねぇ」
「ったく、お前んとこのボスは人としても終わってるが戦士としても三流だな。そんなんだから戦に負けるんだよ」
「な、なんだとぅ!」
「戦力投入は迅速に、かつ最大限に。戦力の逐次投入は下策の筆頭ってことぐらい、素人の俺でも知ってるけどな」
「な、なにを……」
「こういうことだよ」


 言うが早いか敏樹の目の前に【雷槍】が現れ、大男のみぞおちを貫く。


「ぐがががっ……あ……」


 さらに、同時に放っておいた【風刃】が大男の首を切断した。


「戦闘中に構えをとく奴があるか」


 大男が油断したところで派手な【雷槍】を放ち、そちらに気を取られている隙に【風刃】で首を落とすという作戦だったのだが、敵は敏樹の予想以上に間抜けだったようである。


「本気モードがあるんなら出し惜しみしてる場合じゃないぞ、って話だよ」


 敏樹は足下に転がる大男の頭に話しかけたが、当然のことながら反応はなかった。



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