【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります
第10話『おっさん、実家に帰る』後編
「で、どうでした異世界は?」
しばらく微妙な空気が流れたあと、町田は気を取り直したように尋ねた。
「いきなりだったから、なにがなんだか……」
「でも口で説明するより実際に見てもらった方が早いでしょ?」
「そりゃそうかも知れないですけど、もうちょっと事前説明があってもよかったんじゃないですか?」
「必要な物は〈格納庫〉に入ってたと思いますし、スキルもいいのを覚えてもらったんでなんとかなるかなーって……。実際なんとかなったみたいですし?」
「たしかに、まぁ……」
「まぁどうしても嫌だっていうなら、別に行かなくてもいいんですけどねー」
「へ?」
「だからー、嫌なら行かなければいいんですよ」
「……行かなくても?」
「はい。ここから先、私は大下さんの行動には基本的に関与しませんからね。ここから先はお気に召すままご自由にどうぞ」
「自由……?」
「ええ、自由ですとも。ちなみにお渡ししたポイントと大下さんのメインバンクの口座は連動してますからね」
「え、じゃあ……」
「大下さん、いま数十億円の貯金がある状態です。もう一生遊んで暮らせませますねー」
「数十……億……」
スキル習得に必要なポイントとして考えた場合、それでも莫大な数値ではあるものの数百万から数千万、場合によっては億単位のポイントを要するスキルが多数あり、生き延びるためにという理由でポンポン消費していた敏樹だったが、いざそれを円に直されてしまうとその額の大きさに愕然としてしまう。
「ただし……」
そして、自身の貯金額に対する実感が湧き始め、ニヤつきそうになる敏樹を牽制するような口調で町田が口を開く。
「こちらの世界じゃスキルは使えませんけどねー」
「あ……」
考えてみれば当たり前のことである。スキルなどというものは、この世界の理から外れるものなのだ。
「うーん、でもスキルも使えないのにどうやって異世界に戻る――」
「戻る?」
「え?」
「いま、異世界に“戻る”とおっしゃいましたか? “行く”ではなく“戻る”と?」
「う……」
それは自然に出てしまった言葉だった。そして自然に出たからこそ、それが敏樹の本音なのだろう。
「ふふ、まあいいです。では向こうに“戻る”方法ですが、〈拠点転移〉の効果を思い出せばおわかりいただけるかと」
「効果……? たしかたしか、1日1回は拠点に転移できて、魔力消費でもどうのこうのと……」
「その枕に一文ありませんでした?」
「えーっと、たしか……“いかなる状況であっても”……あ」
「そういうことです。じゃあそろそろ私はおいとましますね」
そう言い残すと、町田は敏樹に背を向け、ダイニングルームから出て行った。
その様子をしばらくぼんやりと見ていた敏樹だったが、思い直したように慌ててかけだし、彼女の後を追った。
「送りますよ」
ちょうど町田が玄関を出ようとしたところで、敏樹は追いつき、サンダルをさっと履いて彼女の横に並んだ。
「ふふ、どうも」
玄関から公道までのわずかな距離を、少しだけ敏樹が前を歩くような形で歩く。
「あ、そうだ。仮にですが、異世界にもど――行くとして、何か持って行ける物ってありますかね?」
もし異世界と日本とを行き来できるのであれば、使える物は積極的に持って行きたいとの考えたのである。幸い金に余裕はあるのだ。
「そうですねー、手に持っている物や身につけている物は持って行けますよー」
「じゃあバックパックにパンパンに詰め込んでも?」
「大丈夫ですねー」
「んー、そしたら、例えばカゴ台車みたいなのにぎっしり詰め込んで、それを掴んでたら?」
「あー、それはアウトですねー。最低でも持ち上げてもらわないとだめですかねー。地面に接していたらアウトですかねー」
「わかりました。じゃあ――」
せっかくの機会である。町田に対する不満が消え去ったわけではないが、ここで不平を言うより知りたいことを訊いておいたほうが建設的だろう。
そう思い、敏樹はいくつかの質問を投げかけ、町田はこころよくそれに答えてくれたのであった。
結局敷地の端で立ち話をするようなかたちとなったのだが。
「では大下さん、そろそろいいです?」
「ええ。言いたいことはいろいろありますが、まぁ、なんとかやってみますよ」
「ふふ」
優しくほほ笑んだ町田の視線が敏樹から外れた。
「綺麗な桜ですねー」
すでに日も落ち、あたりは暗くなっていたが、大下家から漏れる光と、大下家の前を通る細い田舎道に設置された街灯の明かりを受け、庭の桜がライトアップされたようになっていた。
夜にこの桜を意識して見ることなど長年なかったのだが、改めてみるとなにやら幻想的な景色である。
「じゃあ、町田さ――……あれ?」
数秒のあいだ桜に目を奪われていた敏樹が視線を戻すと、町田の姿はどこにもなかった。
**********
敏樹は異世界に持って行く物を買い集めることにした。
「まぁ、行くと決まったわけじゃないけどね」
などと自分に言い訳をしてはいるが、結局行くことになるのだろうという自覚はある。
しかし、素直に行くと決めてしまうと町田の思惑に乗ってしまうようで気にくわないのであった。
「それに、前みたいにいきなり飛ばされるなんてことがあるかもしれないしな」
苦しい言い訳ではあるが、それで納得できるのであれば問題ないのだろう。
「さて、とりあえず遠距離攻撃用の武器が欲しいよな」
現状手元に、というか〈格納庫〉に入っている武器はすべて近接戦闘用のものばかりである。
当分ひとりっきりで活動するしかない敏樹にとって、遠距離からの不意打ちという手段は是非とも欲しいところである。
一応〈投擲〉スキルは習得しているし、〈全魔術〉内には射程の長い攻撃魔術もあるのだが、〈投擲〉のほうはスキルレベルが低いため戦闘向きではなく、魔術に関しては敏樹の保有魔力量が少ないせいでたいした回数を使えないのである。
「やっぱ弓かなぁ」
まず敏樹が思い浮かべたのは、トリガーを引くだけで素人でも扱えるクロスボウだった。
しかしいろいろと調べてみたところ、二の矢三の矢をつがえるのにかなりの時間がかかることが分かった。
複数人でパーティーを組み、矢をつがえる時間のフォローを受けられるのであればともかく、ソロで使うには少し荷が勝ちすぎる武器であるようだ。
その上、いまは少し規制が厳しくなり、購入するのもいろいろと面倒らしいので、敏樹はクロスボウを諦めた。
その後いろいろと調べたところ、アーチェリーや、海外では狩猟にも使われるコンパウンドボウというものに行き着いた。
これは滑車を組み合わせることで、小さい張力で大きな効果を得られるようにしたものであるらしい。
照準なども装備されており、素人でも比較的使いやすい弓であることがわかった。
あくまで他の弓に比べて使いやすいと言うだけであるが。
「ま、スキルがあるし、なんとかなるだろ」
敏樹はネットの海を巡り、張力の異なる数種類のコンパウンドボウ本体と、替えの弦、そしてできるだけ多くの矢を購入した。
次にトンガ戟。
使い勝手はあまり良くないが、最初に自作したことで愛着のある武器となり、一応持っていくことにした。
先日は刺身包丁を組み合わせていたが、少し都会に足を伸ばし、専門店で刺突に向いているダガーナイフを購入しようとしたのだが……。
「お客さんダガーなんてよく知ってるね。最近じゃ売られてないのに」
「あー、昔ニュースでよくやってませんでした? 多分それでなんとなく覚えたのかな」
「はは。そのニュースになった事件のせいで、販売できなくなったけどね」
「ええっ!?」
ダガーナイフの購入ができないとなると、トンガ戟については少し形状を変えるしかないろうか。例えば普通のサバイバルナイフを先端につけて、長柄刀のように使うなど。
そんなことを考えながら、ふと店主のほうを見ると、彼はなにやら意味深長な笑みを浮かべていた。
「俺はさぁ。道具に罪はないと思うんだよねぇ」
「はぁ……」
「だから、手入れだけはちゃんとしてたんだけど、売れないものを持ち続けるってのも、まぁしんどいわけでさ」
「不良在庫……ともいえない代物ですもんねぇ」
「……全部で10本。これまでの保管料やらメンテナンス料を考慮してもらってだな――」
と、敏樹以外に誰もいない店内で、おっさん二人が顔を突き合わせてひそひそと話し合った結果、相場の数倍の値で在庫全てを買い取ることと、店主オススメの商品をいくつか購入することで話がついた。
購入したダガーナイフは、柄と刃を分け、刃の部分を柄の先端に埋め込むように装着した。
トンガの耕筰用刃も、グラインダー(研磨機)をネットで購入し、ナイフ真っ青の切れ味を持つにいたるまで研ぎ澄ませた。
続いて金槌と斧だが、タクティカルアックスという、斧頭の片方が刃に、もう片方が突起なっている物をベースに、鉄工所を継いだ同級生に頼み込んで作ってもらうことにした。
金槌のほうは、あくまで斧が一丁しかなかったので使っていただけで、“もう一丁斧があればな”と思うことが何度かあったのだ。
なので、同じ物を二丁作ってもらうことにした。
また、使えるかどうかわからないが、日本刀も購入しておいた。
これは完全にロマンである。
一応剣術系スキルを習得すればそれなりに使えるだろうと、敏樹は考えていた。
用意したのは打刀、脇差、小太刀、野太刀、大太刀であり、すべて刃の入ったものを許可を取って購入した。
武器類の手入れに関しては便利なスキルがあるので、手入れ用の消耗品だけ買っておいた。
次に防具である。
「へええ、板金鎧も売ってんだなぁ」
ネットショップをいろいろと覗いていた敏樹は、中性欧風の全身を覆う板金鎧や、日本の戦国時代風の甲冑などを見ていた。
「まぁ……使えんよな」
しかし着慣れぬ鎧を着たところで阻害されるだけであろうことは容易に想像できる。
「あ、鎧はなくても盾ならあるんじゃね?」
鎧と異なり、盾はいまでも各所で活躍している防具である。
代表的なところだと、警察の機動隊であろうか。
「お、あるねぇ」
ネットショップで探したところ、警察ロゴの入った鋼鉄製の物から、ポリカーボネート製のライオットシールドと呼ばれる物などいくつかの種類が見つかった。
とりあえず円盾タイプのライオットシールドと、半分しゃれのつもりで警察ロゴの入った鋼鉄製の大盾を注文した。
「なるほど、バイク用のプロテクターか……。バイク? ありかも」
鎧の代わりになる物を探していると、バイク用のプロテクターがヒットした。
胸や腹、それに前腕と向う臑を覆う硬質プラスチック製のプロテクターは、敏樹の目にとても頼もしく映ったのだった。
「たしか真山のとこ、バイクも始めたって言ってたよな」
敏樹の頭に、とある後輩の顔が思い浮かんだ。
「移動手段としてオフロードバイクはありかもな」
大きな買い物をすることになりそうなので、敏樹は翌日に備えて早めに眠ることにした。
しばらく微妙な空気が流れたあと、町田は気を取り直したように尋ねた。
「いきなりだったから、なにがなんだか……」
「でも口で説明するより実際に見てもらった方が早いでしょ?」
「そりゃそうかも知れないですけど、もうちょっと事前説明があってもよかったんじゃないですか?」
「必要な物は〈格納庫〉に入ってたと思いますし、スキルもいいのを覚えてもらったんでなんとかなるかなーって……。実際なんとかなったみたいですし?」
「たしかに、まぁ……」
「まぁどうしても嫌だっていうなら、別に行かなくてもいいんですけどねー」
「へ?」
「だからー、嫌なら行かなければいいんですよ」
「……行かなくても?」
「はい。ここから先、私は大下さんの行動には基本的に関与しませんからね。ここから先はお気に召すままご自由にどうぞ」
「自由……?」
「ええ、自由ですとも。ちなみにお渡ししたポイントと大下さんのメインバンクの口座は連動してますからね」
「え、じゃあ……」
「大下さん、いま数十億円の貯金がある状態です。もう一生遊んで暮らせませますねー」
「数十……億……」
スキル習得に必要なポイントとして考えた場合、それでも莫大な数値ではあるものの数百万から数千万、場合によっては億単位のポイントを要するスキルが多数あり、生き延びるためにという理由でポンポン消費していた敏樹だったが、いざそれを円に直されてしまうとその額の大きさに愕然としてしまう。
「ただし……」
そして、自身の貯金額に対する実感が湧き始め、ニヤつきそうになる敏樹を牽制するような口調で町田が口を開く。
「こちらの世界じゃスキルは使えませんけどねー」
「あ……」
考えてみれば当たり前のことである。スキルなどというものは、この世界の理から外れるものなのだ。
「うーん、でもスキルも使えないのにどうやって異世界に戻る――」
「戻る?」
「え?」
「いま、異世界に“戻る”とおっしゃいましたか? “行く”ではなく“戻る”と?」
「う……」
それは自然に出てしまった言葉だった。そして自然に出たからこそ、それが敏樹の本音なのだろう。
「ふふ、まあいいです。では向こうに“戻る”方法ですが、〈拠点転移〉の効果を思い出せばおわかりいただけるかと」
「効果……? たしかたしか、1日1回は拠点に転移できて、魔力消費でもどうのこうのと……」
「その枕に一文ありませんでした?」
「えーっと、たしか……“いかなる状況であっても”……あ」
「そういうことです。じゃあそろそろ私はおいとましますね」
そう言い残すと、町田は敏樹に背を向け、ダイニングルームから出て行った。
その様子をしばらくぼんやりと見ていた敏樹だったが、思い直したように慌ててかけだし、彼女の後を追った。
「送りますよ」
ちょうど町田が玄関を出ようとしたところで、敏樹は追いつき、サンダルをさっと履いて彼女の横に並んだ。
「ふふ、どうも」
玄関から公道までのわずかな距離を、少しだけ敏樹が前を歩くような形で歩く。
「あ、そうだ。仮にですが、異世界にもど――行くとして、何か持って行ける物ってありますかね?」
もし異世界と日本とを行き来できるのであれば、使える物は積極的に持って行きたいとの考えたのである。幸い金に余裕はあるのだ。
「そうですねー、手に持っている物や身につけている物は持って行けますよー」
「じゃあバックパックにパンパンに詰め込んでも?」
「大丈夫ですねー」
「んー、そしたら、例えばカゴ台車みたいなのにぎっしり詰め込んで、それを掴んでたら?」
「あー、それはアウトですねー。最低でも持ち上げてもらわないとだめですかねー。地面に接していたらアウトですかねー」
「わかりました。じゃあ――」
せっかくの機会である。町田に対する不満が消え去ったわけではないが、ここで不平を言うより知りたいことを訊いておいたほうが建設的だろう。
そう思い、敏樹はいくつかの質問を投げかけ、町田はこころよくそれに答えてくれたのであった。
結局敷地の端で立ち話をするようなかたちとなったのだが。
「では大下さん、そろそろいいです?」
「ええ。言いたいことはいろいろありますが、まぁ、なんとかやってみますよ」
「ふふ」
優しくほほ笑んだ町田の視線が敏樹から外れた。
「綺麗な桜ですねー」
すでに日も落ち、あたりは暗くなっていたが、大下家から漏れる光と、大下家の前を通る細い田舎道に設置された街灯の明かりを受け、庭の桜がライトアップされたようになっていた。
夜にこの桜を意識して見ることなど長年なかったのだが、改めてみるとなにやら幻想的な景色である。
「じゃあ、町田さ――……あれ?」
数秒のあいだ桜に目を奪われていた敏樹が視線を戻すと、町田の姿はどこにもなかった。
**********
敏樹は異世界に持って行く物を買い集めることにした。
「まぁ、行くと決まったわけじゃないけどね」
などと自分に言い訳をしてはいるが、結局行くことになるのだろうという自覚はある。
しかし、素直に行くと決めてしまうと町田の思惑に乗ってしまうようで気にくわないのであった。
「それに、前みたいにいきなり飛ばされるなんてことがあるかもしれないしな」
苦しい言い訳ではあるが、それで納得できるのであれば問題ないのだろう。
「さて、とりあえず遠距離攻撃用の武器が欲しいよな」
現状手元に、というか〈格納庫〉に入っている武器はすべて近接戦闘用のものばかりである。
当分ひとりっきりで活動するしかない敏樹にとって、遠距離からの不意打ちという手段は是非とも欲しいところである。
一応〈投擲〉スキルは習得しているし、〈全魔術〉内には射程の長い攻撃魔術もあるのだが、〈投擲〉のほうはスキルレベルが低いため戦闘向きではなく、魔術に関しては敏樹の保有魔力量が少ないせいでたいした回数を使えないのである。
「やっぱ弓かなぁ」
まず敏樹が思い浮かべたのは、トリガーを引くだけで素人でも扱えるクロスボウだった。
しかしいろいろと調べてみたところ、二の矢三の矢をつがえるのにかなりの時間がかかることが分かった。
複数人でパーティーを組み、矢をつがえる時間のフォローを受けられるのであればともかく、ソロで使うには少し荷が勝ちすぎる武器であるようだ。
その上、いまは少し規制が厳しくなり、購入するのもいろいろと面倒らしいので、敏樹はクロスボウを諦めた。
その後いろいろと調べたところ、アーチェリーや、海外では狩猟にも使われるコンパウンドボウというものに行き着いた。
これは滑車を組み合わせることで、小さい張力で大きな効果を得られるようにしたものであるらしい。
照準なども装備されており、素人でも比較的使いやすい弓であることがわかった。
あくまで他の弓に比べて使いやすいと言うだけであるが。
「ま、スキルがあるし、なんとかなるだろ」
敏樹はネットの海を巡り、張力の異なる数種類のコンパウンドボウ本体と、替えの弦、そしてできるだけ多くの矢を購入した。
次にトンガ戟。
使い勝手はあまり良くないが、最初に自作したことで愛着のある武器となり、一応持っていくことにした。
先日は刺身包丁を組み合わせていたが、少し都会に足を伸ばし、専門店で刺突に向いているダガーナイフを購入しようとしたのだが……。
「お客さんダガーなんてよく知ってるね。最近じゃ売られてないのに」
「あー、昔ニュースでよくやってませんでした? 多分それでなんとなく覚えたのかな」
「はは。そのニュースになった事件のせいで、販売できなくなったけどね」
「ええっ!?」
ダガーナイフの購入ができないとなると、トンガ戟については少し形状を変えるしかないろうか。例えば普通のサバイバルナイフを先端につけて、長柄刀のように使うなど。
そんなことを考えながら、ふと店主のほうを見ると、彼はなにやら意味深長な笑みを浮かべていた。
「俺はさぁ。道具に罪はないと思うんだよねぇ」
「はぁ……」
「だから、手入れだけはちゃんとしてたんだけど、売れないものを持ち続けるってのも、まぁしんどいわけでさ」
「不良在庫……ともいえない代物ですもんねぇ」
「……全部で10本。これまでの保管料やらメンテナンス料を考慮してもらってだな――」
と、敏樹以外に誰もいない店内で、おっさん二人が顔を突き合わせてひそひそと話し合った結果、相場の数倍の値で在庫全てを買い取ることと、店主オススメの商品をいくつか購入することで話がついた。
購入したダガーナイフは、柄と刃を分け、刃の部分を柄の先端に埋め込むように装着した。
トンガの耕筰用刃も、グラインダー(研磨機)をネットで購入し、ナイフ真っ青の切れ味を持つにいたるまで研ぎ澄ませた。
続いて金槌と斧だが、タクティカルアックスという、斧頭の片方が刃に、もう片方が突起なっている物をベースに、鉄工所を継いだ同級生に頼み込んで作ってもらうことにした。
金槌のほうは、あくまで斧が一丁しかなかったので使っていただけで、“もう一丁斧があればな”と思うことが何度かあったのだ。
なので、同じ物を二丁作ってもらうことにした。
また、使えるかどうかわからないが、日本刀も購入しておいた。
これは完全にロマンである。
一応剣術系スキルを習得すればそれなりに使えるだろうと、敏樹は考えていた。
用意したのは打刀、脇差、小太刀、野太刀、大太刀であり、すべて刃の入ったものを許可を取って購入した。
武器類の手入れに関しては便利なスキルがあるので、手入れ用の消耗品だけ買っておいた。
次に防具である。
「へええ、板金鎧も売ってんだなぁ」
ネットショップをいろいろと覗いていた敏樹は、中性欧風の全身を覆う板金鎧や、日本の戦国時代風の甲冑などを見ていた。
「まぁ……使えんよな」
しかし着慣れぬ鎧を着たところで阻害されるだけであろうことは容易に想像できる。
「あ、鎧はなくても盾ならあるんじゃね?」
鎧と異なり、盾はいまでも各所で活躍している防具である。
代表的なところだと、警察の機動隊であろうか。
「お、あるねぇ」
ネットショップで探したところ、警察ロゴの入った鋼鉄製の物から、ポリカーボネート製のライオットシールドと呼ばれる物などいくつかの種類が見つかった。
とりあえず円盾タイプのライオットシールドと、半分しゃれのつもりで警察ロゴの入った鋼鉄製の大盾を注文した。
「なるほど、バイク用のプロテクターか……。バイク? ありかも」
鎧の代わりになる物を探していると、バイク用のプロテクターがヒットした。
胸や腹、それに前腕と向う臑を覆う硬質プラスチック製のプロテクターは、敏樹の目にとても頼もしく映ったのだった。
「たしか真山のとこ、バイクも始めたって言ってたよな」
敏樹の頭に、とある後輩の顔が思い浮かんだ。
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