観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
這い寄る混沌
空は闇に閉ざされ地上は影と化し、異形が跋扈する異界、黒い世界にて、ホワイトは白うさぎに転送され体育館の中へとやってきていた。彼ら以外には誰もいない。
広い室内の中央で二人は向かい合い、ホワイトは冷厳に、対して白うさぎは飄々とした態度で頭を掻いていた。
「あ~あ~、まったく。このお節介め。せっかく立てた僕の計画が君のせいで台無しだよ。もう少しでアリスちゃんをワンダーランドへ迎えられるところだったのに。どうしてくれるんだよ」
「計画、か」
肩を竦めて言う白うさぎを睨みながらホワイトは呟く。両手をポケットに入れたまま、糸を引っ張ったような緊張のまま対峙する。
「観測者には表層世界と深層世界の行き来は不可能だ。そこには次元の壁が存在する。もし移動をするのなら、壁に穴を開けるしかないが、なるほど、それでメモリーか」
ホワイトの表情は変わらない。冷淡に、氷でできたような顔はそのままだ。しかしこの時だけは鼻を鳴らし、白うさぎの狂気を認めていた。
「深層世界の住人、メモリーが表層世界に浮上すれば当然そこには穴があく。さらにメモリーはアリスの一部、本人であるアリスも使用可能というわけか」
「そういうこと」
ホワイトの指摘に白うさぎは上機嫌に笑みを浮かべる。どこか酷悪で、嗜虐な色を滴らせ。
「いやー、苦労したよ。数年間も夢に出てきてはアリスちゃんになんとか思い出してもらおうと頑張ったんだけれどねー。最終的には僕が直接表層世界に出てアリスちゃんに記憶を思い出してもらった。うん、ここまでは順調だったよ。だけど」
白うさぎは経緯について気楽に話すが、途中で顔を曇らせた。
「予想外だった。まさか記憶を取り戻そうとするだけで防衛本能が機能するなんて。ちょっと過保護過ぎるんじゃないかいホワイト?」
白うさぎは露骨に顰め面を作り、ジト目でホワイトを見上げる。
「そりゃあ? 僕の計画は君がいなければ始まらなかったよ? なにせメモリーを作った張本人が君なんだから。防衛による忘却。アリスちゃんの精神衛生上確かにいじめられていたという記憶は辛い。しかしだ、普通いじめられたくらいで記憶喪失なんてしないんだけどね、君って親ばかな方?」
白うさぎの嘲った話し方。対してホワイトは無言。
「防衛本能、観測者の守護神、世界の仕組みたる本能の一部にして無意識世界の住人。あー、君がアリスちゃんを守るのは理解できるよ。なにせ君は防衛本能。しかしだ、それでも僕には納得出来ないね」
そう言うと白うさぎは両手を上げて顔を振っていた。ホワイトの行動を、ホワイトの存在意義を知りながら白うさぎは苦笑する。
「だって、君は捨てられたんだよ? ワンダーランドから追放されたのに」
白うさぎの語る内容はホワイトのことだった。この状況では悠長な世間話。
けれどなお言わずにはいられないと、それは大きな疑問であり感心だった。
ホワイト。アリスの危機に駆けつけ守り続けてきた彼。その正体は防衛本能ではあったが、もう一つの彼の顔。彼がワンダーランドでなんと呼ばれていたのか。
かつては本能ながらワンダーランドに君臨し、世界の秩序に努めた統治者。
白うさぎは、かつてのホワイトの名を言った。
「ワンダーランドを総べる、白の王」
白の王。その名で呼ばれ、しかしホワイトは身じろぎ一つしなかった。不動のまま立ち続け、白うさぎを鋭い眼光で捉えている。
「君はかつてワンダーランドの王だった。そこでアリスちゃんを守り続けていた。たった一人で、その苦労を褒められることも本人に知られることもなく。アリスちゃんが赤ん坊のころから君は守っていたっていうのに。アリスちゃんもひどいよねー。そんな君をずっと知らなかったんだ。そればかりか」
広い室内の中央で二人は向かい合い、ホワイトは冷厳に、対して白うさぎは飄々とした態度で頭を掻いていた。
「あ~あ~、まったく。このお節介め。せっかく立てた僕の計画が君のせいで台無しだよ。もう少しでアリスちゃんをワンダーランドへ迎えられるところだったのに。どうしてくれるんだよ」
「計画、か」
肩を竦めて言う白うさぎを睨みながらホワイトは呟く。両手をポケットに入れたまま、糸を引っ張ったような緊張のまま対峙する。
「観測者には表層世界と深層世界の行き来は不可能だ。そこには次元の壁が存在する。もし移動をするのなら、壁に穴を開けるしかないが、なるほど、それでメモリーか」
ホワイトの表情は変わらない。冷淡に、氷でできたような顔はそのままだ。しかしこの時だけは鼻を鳴らし、白うさぎの狂気を認めていた。
「深層世界の住人、メモリーが表層世界に浮上すれば当然そこには穴があく。さらにメモリーはアリスの一部、本人であるアリスも使用可能というわけか」
「そういうこと」
ホワイトの指摘に白うさぎは上機嫌に笑みを浮かべる。どこか酷悪で、嗜虐な色を滴らせ。
「いやー、苦労したよ。数年間も夢に出てきてはアリスちゃんになんとか思い出してもらおうと頑張ったんだけれどねー。最終的には僕が直接表層世界に出てアリスちゃんに記憶を思い出してもらった。うん、ここまでは順調だったよ。だけど」
白うさぎは経緯について気楽に話すが、途中で顔を曇らせた。
「予想外だった。まさか記憶を取り戻そうとするだけで防衛本能が機能するなんて。ちょっと過保護過ぎるんじゃないかいホワイト?」
白うさぎは露骨に顰め面を作り、ジト目でホワイトを見上げる。
「そりゃあ? 僕の計画は君がいなければ始まらなかったよ? なにせメモリーを作った張本人が君なんだから。防衛による忘却。アリスちゃんの精神衛生上確かにいじめられていたという記憶は辛い。しかしだ、普通いじめられたくらいで記憶喪失なんてしないんだけどね、君って親ばかな方?」
白うさぎの嘲った話し方。対してホワイトは無言。
「防衛本能、観測者の守護神、世界の仕組みたる本能の一部にして無意識世界の住人。あー、君がアリスちゃんを守るのは理解できるよ。なにせ君は防衛本能。しかしだ、それでも僕には納得出来ないね」
そう言うと白うさぎは両手を上げて顔を振っていた。ホワイトの行動を、ホワイトの存在意義を知りながら白うさぎは苦笑する。
「だって、君は捨てられたんだよ? ワンダーランドから追放されたのに」
白うさぎの語る内容はホワイトのことだった。この状況では悠長な世間話。
けれどなお言わずにはいられないと、それは大きな疑問であり感心だった。
ホワイト。アリスの危機に駆けつけ守り続けてきた彼。その正体は防衛本能ではあったが、もう一つの彼の顔。彼がワンダーランドでなんと呼ばれていたのか。
かつては本能ながらワンダーランドに君臨し、世界の秩序に努めた統治者。
白うさぎは、かつてのホワイトの名を言った。
「ワンダーランドを総べる、白の王」
白の王。その名で呼ばれ、しかしホワイトは身じろぎ一つしなかった。不動のまま立ち続け、白うさぎを鋭い眼光で捉えている。
「君はかつてワンダーランドの王だった。そこでアリスちゃんを守り続けていた。たった一人で、その苦労を褒められることも本人に知られることもなく。アリスちゃんが赤ん坊のころから君は守っていたっていうのに。アリスちゃんもひどいよねー。そんな君をずっと知らなかったんだ。そればかりか」
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