観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

お泊まり

 急遽久遠のお泊りが決まった。時間は七時を回っており、となれば夕食だ。

 二人分の料理が出来るだろうかと心配になりつつ冷蔵庫を覗いてみると、先日作ろうと買っておいたカレーの食材があった。

 良かった、これなら大丈夫そう。

 私と久遠は台所に立ち二人で夕食のカレーを作った。

 中央に置いた小さなテーブルにカレーを乗せ、対面して座り二人一緒に食べる。味はなかなかのもので、良く出来てると思う。

 それに、いつも一人で食べるのに、久遠がいるというのもなんだか良かった。

 安心できるというか、一人ではモノクロの食卓でも、誰かと一緒だと華やかになるというか。

「やっぱり誰かと一緒に食べるごはんっていうのはいいわね」

 普段の食事ではまずしない笑顔が零れる。なんかホッとする温かさていか、そういうのを感じるから。

「やはり、一人というのは寂しいですか?」

「うーん、寂しいってわけでもないけど。でもそうね、たまには」

「でしたら!」

 私は何気なく言っただけなのだが、久遠はなにやら使命感に燃えた目つきになって私を見てきた。いったいなんだろう。

「今日一日は、アリスさんに寂しい思いはさせませんわ」

 久遠のやる気に満ちた言葉を聞いて私はつい小さく笑ってしまった。だって聞いている私の方が恥ずかしくなるくらい、久遠は本気で言ってくるものだから、なんだからおかしくって。

「え? え? わたくし、何か変なことを言いましたでしょうか?」

「ううん、ありがと久遠。でもそんなに張り切らなくても、久遠が一緒にいるだけで寂しくなんかないわよ」

「いえいえ。わたくしに出来ることならなんでも。わたくしはそのために来たのですから。そうですわ! お食事が済んだらお風呂にしましょう。わたくし、アリスさんのお背中流しますわ」

「え!?」

 いきなりの提案に飲んでいた水を吹きそうになる。すぐにナプキンで口許を拭きつつ久遠を見る。

「ちょっと待って、一緒にお風呂は」

「恥ずかしいですか?」

「いや、恥ずかしいっていうか~」

 うん、恥ずかしい。視線を泳がし顔が少しだけ赤くなる。そりゃ同姓とはいえ恥ずかしいわよ。なにかいい言い訳はないかしら。

「その、うちのお風呂小さいから。二人は入りきれないわよ」

「詰めればきっと大丈夫ですわ。さ、せっかくなので入りましょう!」

 いや、なんでそんなに乗り気なの? 眩しい笑顔はなに? なんでそんなに楽しそうなの?

「ね!?」

「もぉう。分かった。降参」

 なんだか説得するのは難しそう。私は投げやりに言ってカレーを一口多めに頬張った。うん、おいしい。

 それから食事を終え、湯船にお湯が溜まったので二人揃ってお風呂に入ることにした。脱衣所、なんてものはないのでお風呂の前で服を脱ぐしかない。

「アリスさん、脱いだ服はどこに置けばよろしいですか?」

「あ、ここにカゴがあるから入れておいて。あとで洗濯かけておくから」

「ありがとうございます」

 久遠は上機嫌にそういうと靴下を脱いでカゴに入れた。さらには学生服のボタンに手をかけていく。

 私は恥ずかしさからなかなか脱ぐに脱げないが、久遠はご機嫌で鼻歌まで歌っている。なんて余裕、折紙久遠、凄すぎ。

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