観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
決着2
私は自分の部屋へと戻っていた。これから必要なものを取りに。これから少女を助けるために、私たちはメモリーを出現させ、倒さなければならない。
少しの緊張を胸に押入の扉を開ける。そこから取り出す一冊の本。見下ろす視線と握る手が僅かに固まる。
小学校の卒業アルバム。これで記憶を思い出そうとしたらメモリーが現れた。この中に私が求めている答えがあるに違いない。
私が忘れてしまった記憶の怪物、メモリー。恐ろしく怖い、本当はもう会いたくない恐怖の怪物。でも会わないと記憶を取り戻せない。そう、ここで怯えていてはなにも終わらない。
私は緑色の卒業アルバムを手にして、外で待っているホワイトの元へと歩き始めた。
それからメモリーと対峙するなら広い場所がいいということで、私たちは近くの公園へと行くことにした。
学校の三階から見渡せる緑生い茂る広場だ。逃げることや隠れることは出来ないが、反対に不意打ちを受けることもない。
私とホワイトはタクシーで公園そばの道路で降ろしてもらい、そこから木々に囲まれた散歩コースを歩いて広場へと出た。
円形になっている広場の中央には大きな噴水があり、コンクリートの地面にはベンチが置かれている。
おじいちゃんがベンチで休んでいる傍ら、元気にはしゃぐ子供たちをよそに主婦らしき女性たちが楽しそうに話し合っていた。
こんな服を着ているからか、たまに視線が集まるのを無視して、私たちは噴水の近くで立ち止まる。
「ここでいい、ホワイト?」
「問題ない。それよりもお前のことだ」
隣に立つホワイトへ視線を寄せて確認してみると彼は静観な顔つきだった。それに気にしているのは私のことで、いつになく真剣な眼差しが私を見下ろしている。
彼は一見冷たいし失礼なことも言うけれど、けれど私のことを何よりも心配してくれる。内心、優しい人なのかもしれない。
「お前が手にしているそれを開けば、再びメモリーが現れる。奴らが放つメタテレパシーを受ければ想像を絶する恐怖が襲うだろう。お前はそれを知っているはずだ」
「ええ」
脇にかかえるアルバムに自然と力が入る。体が固くなる。あの恐怖、自意識や心、精神を犯して破壊するほどのあの恐怖。
私は最後には耐えられず意識が混乱してしまい、自分を傷つけてしまった。
もしホワイトが止めてくれなければ私は自分を殺していたかもしれない。それほど、メモリーが放つ恐怖は絶大だ。だけど――
「分かってる。覚悟の上よ」
逃げようとは、思わなかった。むしろ決着をつけたいと望む。数年間にわたって見続けた悪夢を、ここで終わらせるために。
「そうか」
そんな私を、ホワイトは静かに受け入れてくれた。
「メモリーには大型と小型がいるが、小型は記憶の切れ端でしかない。要はおまけだ。本体は大型。奴を倒せば、ハートのエンブレムが手に入る。お前が求める答えだ」
「分かった」
「他に聞きたいことはあるか」
「ないわ」
彼の質問に即答する。やることは分かっている。覚悟もある。ならそれをやるだけ。準備はもう出来ている。
するとホワイトが歩き出し私の前に出た。
「ならば俺から最後に言っておこう」
「?」
彼の後ろ姿が目に入る。背が高く、純白のコートに覆われた大きな背中。あの時私を助けてくれた背中。私を守ると、迷うこともなく言う男が見せる背中。
そんな彼が、背を向けたまま私に言う。
「覚悟しろ。お前が求めている答えは、お前にとって毒でしかないのだと」
「? ……うん」
彼の言う言葉はとても重く感じられて、迫力すら覚えてしまう。私は少し時間を置いてからようやく返事を返した。
少しの緊張を胸に押入の扉を開ける。そこから取り出す一冊の本。見下ろす視線と握る手が僅かに固まる。
小学校の卒業アルバム。これで記憶を思い出そうとしたらメモリーが現れた。この中に私が求めている答えがあるに違いない。
私が忘れてしまった記憶の怪物、メモリー。恐ろしく怖い、本当はもう会いたくない恐怖の怪物。でも会わないと記憶を取り戻せない。そう、ここで怯えていてはなにも終わらない。
私は緑色の卒業アルバムを手にして、外で待っているホワイトの元へと歩き始めた。
それからメモリーと対峙するなら広い場所がいいということで、私たちは近くの公園へと行くことにした。
学校の三階から見渡せる緑生い茂る広場だ。逃げることや隠れることは出来ないが、反対に不意打ちを受けることもない。
私とホワイトはタクシーで公園そばの道路で降ろしてもらい、そこから木々に囲まれた散歩コースを歩いて広場へと出た。
円形になっている広場の中央には大きな噴水があり、コンクリートの地面にはベンチが置かれている。
おじいちゃんがベンチで休んでいる傍ら、元気にはしゃぐ子供たちをよそに主婦らしき女性たちが楽しそうに話し合っていた。
こんな服を着ているからか、たまに視線が集まるのを無視して、私たちは噴水の近くで立ち止まる。
「ここでいい、ホワイト?」
「問題ない。それよりもお前のことだ」
隣に立つホワイトへ視線を寄せて確認してみると彼は静観な顔つきだった。それに気にしているのは私のことで、いつになく真剣な眼差しが私を見下ろしている。
彼は一見冷たいし失礼なことも言うけれど、けれど私のことを何よりも心配してくれる。内心、優しい人なのかもしれない。
「お前が手にしているそれを開けば、再びメモリーが現れる。奴らが放つメタテレパシーを受ければ想像を絶する恐怖が襲うだろう。お前はそれを知っているはずだ」
「ええ」
脇にかかえるアルバムに自然と力が入る。体が固くなる。あの恐怖、自意識や心、精神を犯して破壊するほどのあの恐怖。
私は最後には耐えられず意識が混乱してしまい、自分を傷つけてしまった。
もしホワイトが止めてくれなければ私は自分を殺していたかもしれない。それほど、メモリーが放つ恐怖は絶大だ。だけど――
「分かってる。覚悟の上よ」
逃げようとは、思わなかった。むしろ決着をつけたいと望む。数年間にわたって見続けた悪夢を、ここで終わらせるために。
「そうか」
そんな私を、ホワイトは静かに受け入れてくれた。
「メモリーには大型と小型がいるが、小型は記憶の切れ端でしかない。要はおまけだ。本体は大型。奴を倒せば、ハートのエンブレムが手に入る。お前が求める答えだ」
「分かった」
「他に聞きたいことはあるか」
「ないわ」
彼の質問に即答する。やることは分かっている。覚悟もある。ならそれをやるだけ。準備はもう出来ている。
するとホワイトが歩き出し私の前に出た。
「ならば俺から最後に言っておこう」
「?」
彼の後ろ姿が目に入る。背が高く、純白のコートに覆われた大きな背中。あの時私を助けてくれた背中。私を守ると、迷うこともなく言う男が見せる背中。
そんな彼が、背を向けたまま私に言う。
「覚悟しろ。お前が求めている答えは、お前にとって毒でしかないのだと」
「? ……うん」
彼の言う言葉はとても重く感じられて、迫力すら覚えてしまう。私は少し時間を置いてからようやく返事を返した。
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