観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

プロローグ

 それは深海を思わせる暗闇の空間だった。果てしなく広く、空気が重い、光のない黒の世界。

「忌ミ子ヨ忌ミ子、ドレダケオ前ガ叫ンデモ、声ハ母ニハ届カナイ」

 そこに、声が響いた。

「アア、忌ミ子ヨ忌ミ子、捨テラレタ哀レナ子。ソレホドマデニ母親ヲ欲スルカ」

 生命どころか音も存在し得ない、この世ならざる場所で、しかし、そこには蠢く何者か、湧き上がる怨嗟にも似た叫びが、いくつもあった。

 それは声。

 それは祈り。

 それは本能。

 生まれてきたものには意義があり、あるべき場所があるのなら。

 叫びを上げる彼らは間違いなく、ここにいるべきではなかったから。

「ナラバヨシ」

 叫ぶ彼らとは別の声が、彼らに道を示す。

 それは言葉。

 それは計画。

 それは願望。

 存在するものには目的があり、叶えるべき望みがあるのなら。

 彼らを導く彼は間違いなく、己の願いを形にしていた。

「私ガ連レテイコウ、母親ヘ」

 そして、彼は、彼らを、この暗闇の牢獄から母の元まで届けるために、この世界から姿を消していった。

 それは行動。

 それは変化。

 それは遊戯。
 
 これが、始まり。

コメント

  • 奏せいや

    >あきさかさんへ
    ありがとうございます♪ よろしくお願いします!

    0
  • あきさか

    Twitterで見かけた方だ!
    今日から見ます!

    0
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