全財産百兆円の男

星河☆

株を始めたきっかけ

 亨は会社でデスクワークしていた。
 逆流性食道炎なのでコーヒーは飲めないが、ミルクが入っていれば飲める。
 なので西田にカフェオレを頼んだ。


 五分程して西田がカフェオレを持ってきた。
 「ありがとう」
 亨は西田にお礼を言って冷たいカフェオレを飲んだ。


「そう言えば斉藤どうなった?」
「斉藤ですか? どうなったとは?」
「どこかとは契約してるのか?」
「確かまだどことも契約していないはずです」
「そうか――。じゃあ俺と契約しよう」
「分かりました。ではすぐに斉藤に連絡を入れます」
「頼むぞ」
「はい」
 亨は以前西田の代わりにやって来た斉藤を気に入っていた。
 亨は運転手として起用しようと考えていた。




 「会長、斉藤は今日の夜にでも家にやってくるようです」
 西田がそう言うと亨は分かったと頷いた。


 暫くして西田の携帯に電話がかかってきた。
 西田は亨に失礼しますと言って部屋の外に出た。


 亨はパソコン作業をずっとしていた。
 西田が帰ってきた。


「会長、週刊文秋の佐藤さんから取材の依頼です。今回は自宅での取材を希望していますがどうなさいますか?」
「良いよ。お前には言ってあるけど佐藤さんとは交際してるから自宅に招く良い機会だ」
「動機が不純ですよ」
「うるさい」
「まぁ、分かりました。返事しておきます」
「頼むよ」
 西田に亨がそう言うとタバコを吸い始めた。












 会社での勤めが終わり、自宅へ帰ろうとしていると入り口付近で百合丘が話しかけてきた。


「会長、お疲れ様です。少々お時間宜しいでしょうか?」
「お疲れ様。どうした?」
「最近残業が酷くて眠る時間もないくらいなんです」
「それは本当か?」
「あまり会社の悪口は言いたくないのですが本当です……」
「分かった。何とかしよう」
「ありがとうございます! では失礼します」
 百合丘が去っていき、すぐに社長の白石に電話した。


『もしもし、会長、どうなさいましたか?』
「社員から苦情です。残業が酷くて眠る時間もないって言ってます。社員にどういう教育してるんですか?」
『申し訳ありません。残業時間の見直しをすぐに行います』
「お願いしますよ」
『はい。本当に申し訳ありませんでした』
「では失礼します」
 亨は電話を切り、駐車場へ向かった。


 「どうかなさいましたか?」
 西田が尋常じゃない亨の顔を見て聞いた。
 二人は車に乗り、亨が残業の事を話した。


 「そうでしたか。それは早急に対応しないとですね」
 西田は車を走らせながら言った。
 「全くだ」
 亨は社員への待遇には気を遣っている。
 特に時代が時代だけに残業については余計に厳しくなる。






「話は変わってしまいますが取材が午後八時ですが斉藤は前後どちらに来させますか?」
「前で良いよ」
「かしこまりました。では十九時に来るように伝えます」
「りょーかい」
 後部座席で亨は寝始めた。
 亨は最近の激務で少々疲れがたまっている。








 亨の自宅に着き、玄関の前に車を止め、西田は後部座席のドアを開けた。


「会長、到着しました」
「ん、あぁ――」
 亨はあくびをしながら車を降りて自宅に入った。


 「おかえりなさいませ」
 執事とメイドが並んで頭を下げた。


「ただいま。橋本、今日八時から客が来るからその時間に飯な」
「かしこまりました。お料理はイタリアン、フレンチ、中華、和食、何に致しましょう」
「イタリアンで」
「西岡さんにお伝えします」
「西田、斉藤が来たら起こして」
「かしこまりました」
 亨は自分の部屋に行き、ベッドで仮眠を取った。












 一時間半程経ち、西田が亨を起こしにやって来た。


「会長、お時間です。スーツで寝てしまうとせっかくのオーダーメイドスーツが台無しですよ」
「眠かったんだもん」
「さぁ、行きますよ」
「はいはい」
 亨はスーツのまま寝ていた。
 いやいや起きた亨は一階に降り、リビングへ行くと斉藤が頭を下げて挨拶した。


「久しぶりだな」
「はい。一週間ぶりくらいでしょうか。この度は専属契約して頂く事になりまして本当にありがとうございます」
「元気が良い人好きなんだよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ契約書準備してるからよく読んでサインして」
「はい」
 亨は椅子に座り、西田から受け取った契約書を斉藤に渡して確認をしてもらった。
 「お給金こんなに頂けるんですか!?」
 斉藤が大きな声を出して驚いた。


「あぁ。西田、お前幾らやってるっけ?」
「手取りで二百万円程です」
「それに比べればお前の七十万は安い方だよ。橋本呼んでくれるか」
「少々お待ちください」
 西田は橋本を呼びに行った。


「お呼びでしょうか?」
「橋本給料幾ら?」
「私は百六十万円頂いております」
「だってよ。斉藤、お前も早くこの位になれるように頑張れよ」
「はい! 頑張ります! ところで、この契約書によると私は運転専門で宜しいんでしょうか?」
「専門っていう訳ではないけどほとんど運転をしてもらうって事になるかな」
「分かりました。サインしました」
「じゃあ西田、この契約書順一さんに確認してもらっておいてね」
「かしこまりました」
 順一とは亨の顧問弁護士の羽柴純一だ。


 「じゃあ今日からよろしくな」
 亨が立ち上がって握手を求めると斉藤も立ち上がって握手した。
 「よろしくお願いします!」


「橋本、斉藤に部屋を案内してやってくれ」
「かしこまりました。斉藤くん、荷物を持って着いてきて」
「はい!」
 二人は三階へ上がっていった。
 それと同時にインターホンが鳴らされた。
 西田が確認しに行った。






 「甲斐さん、お久しぶりです」
 佐藤だ。


「あれ? 今日は信さんいないの?」
「今日は私一人です」
「取材と称してデートか?」
 亨がちゃかすと佐藤は顔を真っ赤にした。


「ちゃかさないで下さいよ!」
「ふふ。ごめんなさい。じゃあ飯でも食いながら取材といきましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
 二人はリビングの椅子に向かい合って座った。


 「食前酒の発泡ワインです」
 西岡が二人に持ってきた。


「じゃあ乾杯」
「いただきます」
 二人が座っている前にあるテーブルは大きいため直接グラスを交わすことは出来ないが、仕草で乾杯した。
 「これ凄くおいしいです。何ていうワインなんですか?」
 佐藤がワインを見ながら聞いた。
 「これはスプマンテですよ」
 亨が答えた。
 亨は逆流性食道炎で基本お酒は控えているがお酒大好きで特にワインが好きなのでよく知っている。


「じゃあ取材始めて良いですか?」
「どうぞ」
「では、今回は甲斐さんが株を始めたきっかけを教えて下さい」
 佐藤が取材を始めた。
 テーブルにはレコーダーが置いてある。


 「株は少年時代から興味あったんで勉強してました。しかし貧乏だったので二十歳になってからも中々手が出せなくて。そんな時に出逢ったのが西田なんです。西田は執事メイド養成学校で講師をしていましたが経済ももの凄く詳しくて俺が工事現場で仕事してた時に休憩場所の公園で仲良くなって色々話してたんですけどその中で俺が株に興味を持っていると話したらこの株を今買った方が良いと言われたんです。その時何となくこいつは当たると思ったんです。だから言われた株を貯金全額はたいて買ったんです。そしたら一ヶ月後にその会社の株価が十二倍になったんです。それからですね、株を始めたのは」
 亨はワインを飲みながら話した。
 亨は直接は言わないが、西田には本当に感謝しているのだ。


 「ベーコンとエリンギのイタリアンベビーリーフサラダでございます」
 西岡が前菜を持ってきた。


「では甲斐さんは西田さんを秘書、執事以上に恩人と思っていらっしゃるという事ですか?」
「まぁ、そういう事になりますね。西田がいなかったら俺は今ここにはいません」
 亨の後ろで立っている西田が嬉しそうに微笑んだ。
 「今度は西田さんにお聞きしたいのですが宜しいでしょうか?」
 佐藤が西田に聞いた。
 「会長が許可して頂かないと私はお答えできません」
 西田が言った。


「良いよ西田。答えてあげろ。俺の隣に座れ」
「はい」
 西田は亨の隣に座り、佐藤に頭を下げた。


「よろしくお願いします」
「よろしくお願い致します」
「では早速。西田さんは何故甲斐さんに御教授されたんですか?」
「私は無駄に知識だけはありました。正直言いますと当時会長は工事現場などで留まっている器ではないと感じました。この人に着いていきたい。この人となら巧くやれる。そう確信したので着いてきました」
「なるほど。では西田さんご自身が投資をするという選択肢はなかったのですか?」
「それはあります。今でも少額ですが株取引をやっています」
「そうでしたか。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
 西田は頭を下げると再び立ち上がって亨の後ろに立った。
 亨は前菜を美味しそうに食べている。
 佐藤も食べながらメモに書き進めている。
 「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノです」
 西岡がメーンを持ってきた。


「わお。これも美味しそうですね」
「シェフ西岡っていうんですけど腕は確かですよ」
「そうなんですねー。私こんなコース料理食べた事ないから嬉しいです」
「それは良かった」
 二人は笑いながら料理を食べ進めていった。
















 食事も取材も終わり、佐藤が帰ろうとしていた。
 「佐藤さん、これから名前で呼んで良いですか?」
 亨が珍しく顔を赤くして言った。


「勿論良いですよ。但し敬語もお互いやめましょうね」
「はい――じゃなくて了解!」
 亨は笑いながら敬礼した。


 「じゃあ私は帰るね。今日はありがとう――亨……」
 佐藤は恥ずかしがりながら、でも嬉しそうに言った。
 「うん。じゃあね真奈美」
 タクシーが到着し、亨は最後まで見送って手を振った。

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