錬成七剣神(セブンスソード)
決戦13
深手を負った魔来名が落下する。受け身を取る余裕もなく、全身がコンクリートの床に叩き付けられる。
数回跳ねた後魔来名はうつ伏せに倒れた。斬られた箇所からは血が流れ、激痛に全身が痺れる。
魔来名が落下してから直後、上空から聖治が着地する。頭上にはスパーダが旋回し、右手にはゼウシスが握られていた。
魔来名はなんとか顔を上げ聖治を睨む。そのまま四肢に力を入れ全力で起き上がった。左手で傷口を押さえながら天黒魔で体を支える。
だが、それで限界だった。足がもたつき魔来名は前に体を傾けながら倒れていく。
そこへ、聖治が駆け寄り体を抱きかかえた。
「……何故、支える?」
「あんたこそ、何故斬らなかったんだ?」
「……まったく、どいつもこいつも、似たようなことばかり……」
魔来名は聖治の腕の中で悪態をつく。だが、表情に怒りは見られない。
魔来名は全ての記憶を思い出した。前世において、己を取り巻く環境。そこにあった誓いや約束。傍にいた人間のことを。
そして今、それはここにいる。すぐそばに。これほどまで近くにいる。
だが今更どうしろと。元々険悪な関係だった上に今ではさらに最悪だ。何を言っても恥じにしか感じないし、そもそもそんな性分でもない。
せっかく再会したのに、魔来名には掛ける言葉がなかった。いつもみたいに、無言でやり過ごそうかとも思った。
その時、ふと浮かんだ言葉があった。
『抱き締めてあげて。きっと、それで通じるから』
それは、どれだけ先読みした言葉だったろう。彼を深く理解しているからこそ、この状況すら彼女には予測出来たのだろうか。きっと彼は何をすればいいのか、分からないだろうから、と。
『だって、家族でしょう……?』
彼女は、彼に助言を残していたのだ。
聖治は魔来名を支え続ける。自分で傷を与えておいて支えるなど変な話だが、本当ならばこの勝負は魔来名が勝っていた。
あの時、魔来名が腕を振り切っていれば今頃聖治は絶命している。それが不思議でならない。聖治は、魔来名の真意が知りたかった。
すると、魔来名が両腕を動かし始めた。
「え?」
重傷の体にも関わらず、ゆっくりと。聖治の身体に回し始める。躊躇う素振りを見せながらも、両腕は聖治の後ろに届く。
そして、魔来名は聖治を抱き締めた。
聖治は一瞬、自分が何をされているのか理解出来なかった。ようやく自分が抱き締められていることに気づいても、何故されているのか理解出来ない。
現状をまったく理解出来ない聖治だったが、この時気が付く。自分が、涙を流していることを。
「え!?」
それが、一番理解出来なかった。何故ここで涙が流れる? しかし、疑問を置き去りにして涙は次々と溢れてくる。
何故? 理由は考えても分からない。この涙はどこから来るものなのか。
だけどそう。この涙の所以。それは、
――魂の震え。
理性でも感情でもない、魂が感じているのだ。魔堂魔来名という男に抱き締められるという行為に、魂が涙を流している。
それを聖治は知覚出来ない。理解出来ない。確かに泣いているのに、未だに訳が分からない。
でも、確かに感じている。今もこうして。たとえ『本人』には分からなくても、『本人』にはちゃんと伝わっている。
ようやく出会えた。戦争によって引き離された悲惨な最期だった一組の兄弟が。名前も違う。体も違う。けれど、その魂は邂逅を果たしたのだ。六十年の時を経て。
それは、セブンスソードという最悪悲愴の修羅の中で起きた、小さな奇跡。それを起こしたのは他でもない、家族の『絆』だった。
数回跳ねた後魔来名はうつ伏せに倒れた。斬られた箇所からは血が流れ、激痛に全身が痺れる。
魔来名が落下してから直後、上空から聖治が着地する。頭上にはスパーダが旋回し、右手にはゼウシスが握られていた。
魔来名はなんとか顔を上げ聖治を睨む。そのまま四肢に力を入れ全力で起き上がった。左手で傷口を押さえながら天黒魔で体を支える。
だが、それで限界だった。足がもたつき魔来名は前に体を傾けながら倒れていく。
そこへ、聖治が駆け寄り体を抱きかかえた。
「……何故、支える?」
「あんたこそ、何故斬らなかったんだ?」
「……まったく、どいつもこいつも、似たようなことばかり……」
魔来名は聖治の腕の中で悪態をつく。だが、表情に怒りは見られない。
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そして今、それはここにいる。すぐそばに。これほどまで近くにいる。
だが今更どうしろと。元々険悪な関係だった上に今ではさらに最悪だ。何を言っても恥じにしか感じないし、そもそもそんな性分でもない。
せっかく再会したのに、魔来名には掛ける言葉がなかった。いつもみたいに、無言でやり過ごそうかとも思った。
その時、ふと浮かんだ言葉があった。
『抱き締めてあげて。きっと、それで通じるから』
それは、どれだけ先読みした言葉だったろう。彼を深く理解しているからこそ、この状況すら彼女には予測出来たのだろうか。きっと彼は何をすればいいのか、分からないだろうから、と。
『だって、家族でしょう……?』
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聖治は魔来名を支え続ける。自分で傷を与えておいて支えるなど変な話だが、本当ならばこの勝負は魔来名が勝っていた。
あの時、魔来名が腕を振り切っていれば今頃聖治は絶命している。それが不思議でならない。聖治は、魔来名の真意が知りたかった。
すると、魔来名が両腕を動かし始めた。
「え?」
重傷の体にも関わらず、ゆっくりと。聖治の身体に回し始める。躊躇う素振りを見せながらも、両腕は聖治の後ろに届く。
そして、魔来名は聖治を抱き締めた。
聖治は一瞬、自分が何をされているのか理解出来なかった。ようやく自分が抱き締められていることに気づいても、何故されているのか理解出来ない。
現状をまったく理解出来ない聖治だったが、この時気が付く。自分が、涙を流していることを。
「え!?」
それが、一番理解出来なかった。何故ここで涙が流れる? しかし、疑問を置き去りにして涙は次々と溢れてくる。
何故? 理由は考えても分からない。この涙はどこから来るものなのか。
だけどそう。この涙の所以。それは、
――魂の震え。
理性でも感情でもない、魂が感じているのだ。魔堂魔来名という男に抱き締められるという行為に、魂が涙を流している。
それを聖治は知覚出来ない。理解出来ない。確かに泣いているのに、未だに訳が分からない。
でも、確かに感じている。今もこうして。たとえ『本人』には分からなくても、『本人』にはちゃんと伝わっている。
ようやく出会えた。戦争によって引き離された悲惨な最期だった一組の兄弟が。名前も違う。体も違う。けれど、その魂は邂逅を果たしたのだ。六十年の時を経て。
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