錬成七剣神(セブンスソード)
記憶5
「あの子を、守ってあげて……」
今も突き刺さる槍で傷は痛々しく、大量の血液は魔来名の両腕を通して地面へと落ちていく。
「あなたの、弟を……」
伸ばした手で魔来名の服を握り締め、佐城は頼み込む。これが最後の願いになると、彼女自身も分かっているから、残された力を全て振り絞る。
「あなたが守るのよ、彼を。それが……!」
必死に。懸命に。届けと思いを込めて。香織は魔来名を見つめて言う。
「あなたの、願いだったんだから……」
「俺は……!」
理解出来ない現状に魔来名は戸惑う。結局どうすればいいのか。
自分の方針を見失いかけている男へ、佐城は優しい笑みを浮かべて、そっと魔来名を抱き締めた。
「抱き締めてあげて。きっと、それで通じるから。だって、家族でしょう……?」
抱擁と言葉に全力を注ぎ力を使い果たしたのか、佐城は満足そうな表情を浮かべて目を瞑った。魔来名を握った手は糸が切れたように落ち、全身からも力が抜け落ちた。
「…………」
腕の中で横たわる佐城を魔来名は見下ろし続ける。無言のまま彼女を抱える彼の心情は傍からは分からない。
沈痛な雰囲気が触れてはならないと警告している。だが、沈黙する彼へ陽気なまでの声が掛けられた。
「なんだ、もしかしてやっちまったら不味かったかい?」
背後から聞こえる声に、けれど魔来名は反応を示さない。
「団長候補ともあろう方が、なーんか生温いことしてるからお手伝いと思ったんだが、もしかしてとっておきに残しておいたとか? 俺、また先走ったのかねえ~」
悪びれた様子もなく背後の男は話し続ける。魔来名は佐城を抱きかかえていたが、息を引き取った彼女は光となり、魔来名の胸に収まった。
それを見届け魔来名は立ち上がり振り返る。
そこには黒の外套姿をした男が立っていた。フードの下からは白髪の前髪が見て取れる。また、三日月のように曲がった口元が不気味に浮かんでいた。
「……そうだな」
顔を隠す男へ、魔来名は返答した。そこに怒気は感じられないが、刺すほどの戦意が滲んでいる。攻撃的意思が確かに宿っていた。
「おお~」
隠す気もない戦意に男はおどけた様子で両手を広げる。
「これは失礼。フードの下だからか、そんな様子には見えなくてね」
「だったら脱いだらどうだ」
魔来名からの鋭い語気でそう言われ、男は素直にフードを脱いだ。
解放されるのを待ち望んでいたかのように白髪は量が多い。獰猛な爬虫類を思わせる双眸は気味が悪いほどじっとりとした視線を放ってくる。
獲物を探すような目つきが魔来名を捉えていた。
「お初にお目にかかるぜ団長候補魔堂魔来名。魔卿騎士団の幹部を務めているロハネス・ガンブルグだ。セブンスソードの管理者も兼ねてる。そ、れ、で、だ」
ロハネスは魔来名を団長候補と呼びながらも畏まる気はなく、むしろ挑発的な態度で対面する。
「温くないか、お前?」
そして、挑発は一帯を包むほどの殺気となって放たれた。狂気の原液とも言えるほどの濃度が全身から立ち上がり、常人ならば立っていることすら出来ない獰猛な眼光が光る。
「セブンスソード、錬成七剣神、ねえ。そんなもんさっさと終わらせろよ。てか、互いを食らい合った虫が新たな団長? カッ、情けねえ。己自身の力の無さもそうだが、それを是とした他の連中には憐みすら抱くぜ。力がないなら……、大人しく滅べばいいものを。あんたもそうは思わないか?」
「同感だな」
「なんだ、気が合うな」
まさか共感してもらえるとは思っていなかったのかロハネスから皮肉った笑いが零れる。だが、この場を包む緊張は一切緩まない。
「力がない者は死に、力がある者が生き残る。それが道理ってもんさ。それを無理やり捻じ曲げ、裸の王様連れて来て見繕うなんざ醜態さ。魔卿騎士団ってのはそんなダサイ組織だったかね~。まあいい。はっきり言って俺はお前らが気に入らない。理由はさっき言った通りだ。それを気にするお前さんでもないんだろうが、聞かせてくれ。お前、俺を殺したがってるな? 何故だ?」
気軽に軽快に、ロハネスは魔来名から浴びせられる殺意の所以を聞いてきた。
目つきを若干細め、魔来名の様子を窺いつつ、牽制した。
「まさか、目の前の小娘一人殺されたからじゃないよな? 頼むからギャグでも止めてくれよ? 戦闘においてそれは不純だ。己が戦う理由が他者のため、なんてのは酔狂者か馬鹿野郎さ。己のために戦ってこそ、己の戦いだろうが。なあ聞かせてくれよ魔堂魔来名。あんたはなんのために戦おうとしている?」
ロハネスが問う鋭い言葉に、魔来名は無言ながらも気迫の籠った視線で応じる。真っ直ぐに見つめ、そして、天黒魔を抜き放ちロハネスに向けた。
「フン、理由か」
今も突き刺さる槍で傷は痛々しく、大量の血液は魔来名の両腕を通して地面へと落ちていく。
「あなたの、弟を……」
伸ばした手で魔来名の服を握り締め、佐城は頼み込む。これが最後の願いになると、彼女自身も分かっているから、残された力を全て振り絞る。
「あなたが守るのよ、彼を。それが……!」
必死に。懸命に。届けと思いを込めて。香織は魔来名を見つめて言う。
「あなたの、願いだったんだから……」
「俺は……!」
理解出来ない現状に魔来名は戸惑う。結局どうすればいいのか。
自分の方針を見失いかけている男へ、佐城は優しい笑みを浮かべて、そっと魔来名を抱き締めた。
「抱き締めてあげて。きっと、それで通じるから。だって、家族でしょう……?」
抱擁と言葉に全力を注ぎ力を使い果たしたのか、佐城は満足そうな表情を浮かべて目を瞑った。魔来名を握った手は糸が切れたように落ち、全身からも力が抜け落ちた。
「…………」
腕の中で横たわる佐城を魔来名は見下ろし続ける。無言のまま彼女を抱える彼の心情は傍からは分からない。
沈痛な雰囲気が触れてはならないと警告している。だが、沈黙する彼へ陽気なまでの声が掛けられた。
「なんだ、もしかしてやっちまったら不味かったかい?」
背後から聞こえる声に、けれど魔来名は反応を示さない。
「団長候補ともあろう方が、なーんか生温いことしてるからお手伝いと思ったんだが、もしかしてとっておきに残しておいたとか? 俺、また先走ったのかねえ~」
悪びれた様子もなく背後の男は話し続ける。魔来名は佐城を抱きかかえていたが、息を引き取った彼女は光となり、魔来名の胸に収まった。
それを見届け魔来名は立ち上がり振り返る。
そこには黒の外套姿をした男が立っていた。フードの下からは白髪の前髪が見て取れる。また、三日月のように曲がった口元が不気味に浮かんでいた。
「……そうだな」
顔を隠す男へ、魔来名は返答した。そこに怒気は感じられないが、刺すほどの戦意が滲んでいる。攻撃的意思が確かに宿っていた。
「おお~」
隠す気もない戦意に男はおどけた様子で両手を広げる。
「これは失礼。フードの下だからか、そんな様子には見えなくてね」
「だったら脱いだらどうだ」
魔来名からの鋭い語気でそう言われ、男は素直にフードを脱いだ。
解放されるのを待ち望んでいたかのように白髪は量が多い。獰猛な爬虫類を思わせる双眸は気味が悪いほどじっとりとした視線を放ってくる。
獲物を探すような目つきが魔来名を捉えていた。
「お初にお目にかかるぜ団長候補魔堂魔来名。魔卿騎士団の幹部を務めているロハネス・ガンブルグだ。セブンスソードの管理者も兼ねてる。そ、れ、で、だ」
ロハネスは魔来名を団長候補と呼びながらも畏まる気はなく、むしろ挑発的な態度で対面する。
「温くないか、お前?」
そして、挑発は一帯を包むほどの殺気となって放たれた。狂気の原液とも言えるほどの濃度が全身から立ち上がり、常人ならば立っていることすら出来ない獰猛な眼光が光る。
「セブンスソード、錬成七剣神、ねえ。そんなもんさっさと終わらせろよ。てか、互いを食らい合った虫が新たな団長? カッ、情けねえ。己自身の力の無さもそうだが、それを是とした他の連中には憐みすら抱くぜ。力がないなら……、大人しく滅べばいいものを。あんたもそうは思わないか?」
「同感だな」
「なんだ、気が合うな」
まさか共感してもらえるとは思っていなかったのかロハネスから皮肉った笑いが零れる。だが、この場を包む緊張は一切緩まない。
「力がない者は死に、力がある者が生き残る。それが道理ってもんさ。それを無理やり捻じ曲げ、裸の王様連れて来て見繕うなんざ醜態さ。魔卿騎士団ってのはそんなダサイ組織だったかね~。まあいい。はっきり言って俺はお前らが気に入らない。理由はさっき言った通りだ。それを気にするお前さんでもないんだろうが、聞かせてくれ。お前、俺を殺したがってるな? 何故だ?」
気軽に軽快に、ロハネスは魔来名から浴びせられる殺意の所以を聞いてきた。
目つきを若干細め、魔来名の様子を窺いつつ、牽制した。
「まさか、目の前の小娘一人殺されたからじゃないよな? 頼むからギャグでも止めてくれよ? 戦闘においてそれは不純だ。己が戦う理由が他者のため、なんてのは酔狂者か馬鹿野郎さ。己のために戦ってこそ、己の戦いだろうが。なあ聞かせてくれよ魔堂魔来名。あんたはなんのために戦おうとしている?」
ロハネスが問う鋭い言葉に、魔来名は無言ながらも気迫の籠った視線で応じる。真っ直ぐに見つめ、そして、天黒魔を抜き放ちロハネスに向けた。
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