会社員(26歳)の俺にJKのストーカーがいるんだが。
20.俺とJKとテイシャツ 前編
「悠志さん、どうしてもダメですか……?」 
上目遣いで悠志を見つめる鈴鹿。
「ダメなものはダメだな。」
「少しだけ考えてみてください。」
「考えなくても分かるだろ。」
いつも通りの悠志と鈴鹿の攻防戦。
しかし、いつもとは違うのだ。
二人がいるのは悠志の部屋。それはいつも通りだ。
二人が攻防戦している時間。夜12時。いつも通りではない。鈴鹿は普段遅くても10時には悠志の家を出ている。
二人が着ているもの。悠志は寝巻きのパジャマ、鈴鹿は悠志が普段着ているテイシャツ1枚。いつも通りではない。
いつも通りのようでちょっと違う話。
▼△▼△
雫を見送り、部屋に戻った悠志。
暗い廊下を進み、リビングの扉を開けると相変わらず鈴鹿がソファで眠っていた。
まだ時間的には問題ない。
9時半にいつも帰るので、その30分前に声をかけよう。そう思い悠志は防音室に向かった。
二重でかかっているロックを解除し部屋に入る。 
悠志より少し背の高い棚の真ん中辺りの段に手を伸ばす。手の先には先ほどまで雫が使っていたフルートがある。
床に座り込みフルートのケースを開ける。
自分のお金で買った楽器だからこそ愛着があるし壊したくない。そのため誰かが吹いたあとは欠かさずメンテナンスをしているのだ。
案の定、雫は経験者だったこともあり得にメンテナンスをせずに済んだ。
本当はメンテナンスが終わったらユーフォを吹きたかったが近所迷惑を考えやめておく。
悠志は中学高校、大学とユーフォをやっていたこともあり音が抜群に大きい。
防音壁ではあるがやはり夜。隣の部屋は小さな子供のいる世帯なので時間的にもしかしたら子供が既に寝ているかもしれない。
明日は土曜だし吹ける、吹ける……。
自分に言い聞かせ、リビングに戻る。
リビングのドアを開けると鈴鹿が居なかった。
ソファーの近くには通学用の鞄があるので起きてトイレに行ったのだろう。
悠志はソファーの真ん中に腰かけつけっぱなしだったギャルゲーをやり始めた。
「長くね……?」
時計を見るともうすぐ10時になる。
リビングに戻ってきて1時間たつが鈴鹿は戻ってこない。
もしもトイレで倒れてたら困る。
声かけだけでもしておこうと思い、立ち上がりリビングを出た。
トイレの扉の前にたちノックをする。
「鈴鹿?大丈夫か?」
何も反応が返ってこない。3回ほどやったが反応なし。
もしや本当に倒れてる?
ドアノブに手をかけると鍵はしまっていない。
「鈴鹿?!」
「なんですか?」
鈴鹿の声はした。
しかし、トイレの中は電気はついてなく無人だった。
悠志が後ろを向くと鈴鹿がいた。
「お前、トイレじゃなかったのかよ。」
「私のこと探してたんですか?」
「そろそろ10時になるぞ。」
「あぁ、大丈夫ですよ。」
「は?」
鈴鹿は何も言葉を返さなかった。
その代わり雫のように自分のことを指さした。
「なっ、お前……!」
鈴鹿が着ていたものは制服ではない。
「悠志さんの部屋着用のテイシャツです!」
なぜか頬を赤らめ恥ずかしそうに言う。
悠志と鈴鹿では体格差がかなりある。
そのため悠志が着るとちょうど良い大きさも鈴鹿が着るとワンピースになる。
「なんでそれ着てんだよ。」
「今日お泊まりするからです。」
「はぁあ?」
「母も賛成しております。」
「なにがどーなってそうなる??」
「えっとですね……。」
鈴鹿は右手で持っていたスマホを操作すると俺に見せる。
そこには鈴鹿と鈴鹿の母らしき人のLINEのやり取り。
鈴鹿『今日も10時ごろに帰るね。』
鈴鹿母『今日さ誰かお友だちのお家泊まれない?』
鈴鹿『なんで?』
鈴鹿母『お義母さんが体調崩して筑波の病院に運ばれたの。お義父さんは老人ホームだしパパは今大阪出張中でしょ?誰も付き人がいなくて私しかいなかったの。』
鈴鹿『おばあちゃん大丈夫なの?』
鈴鹿母『少し入院するけどね。まだ落ち着かなくて今日は帰れないの。慌てて来たから家の鍵も持ってきちゃったの。』
鈴鹿母『だから今日だけお友だちの家に泊まらせてもらいなさい!あとでママがお礼しに伺うから。』
「……ということです。」
「それで俺かよ。」
「高校の友達はほとんどが小山住みです。今からまた電車乗るのは面倒です。」
悠志の頭は今までに見たことのないくらい回転していた。
ここで鈴鹿を部屋に泊めても良いものか?未成年だぞ?俺は成人済だぞ?しかも男。
仮に泊めるとしてもどこに?寝室?リビング。
それか鈴鹿をこの部屋に泊めて俺は和人の家にいくか?ここから車で20分くらいだし行けるか。
「来客用のお布団ありますよね?」
「いつ知ったんだよ……。」
「さっき悠志さんのお洋服を探しているときに見つけました。」
「来客用のお布団でいいんです!廊下でも天井でもどこでも寝ます!!お願いいたします!」
天井で寝るってどう言うことだよ。という疑問が悠志の頭をよぎる。
「う~~ん。」
悠志はおそらく人生で1番悩んでいる。
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