会社員(26歳)の俺にJKのストーカーがいるんだが。

伏見キョウ

1.俺とJKが出会い2週間ほどたちました。-1



   俺、長江悠志26歳の朝は早いわけではない。
   最寄り駅まで徒歩で3分。会社は電車で15分。駅から会社までは10分。30分もあれば着いてしまうのだ。
  会社の始業は9時30分。
  他の会社は8時30分や9時に始業が多いと思う。俺が勤めている会社はそこそこ大きな会社で、電車で1時間以上かかって来る人もいるという理由でやや遅め。5時に勤務は終了。残業は基本禁止というとてもホワイトな会社。どうしても理由がある場合は二人以上で残業しなければいけないという。働きすぎるのを防止するためにらしい。
   8時に起きることができれば全然遅刻しない。
   だから毎日深夜まで起きてアニメを見たりゲームしてた。
   しかし、それは年末までの話で。
   今は違うのだ。


   1月の半ば午前7時ぴったり。
   俺の住んでいる部屋のチャイムがなる。
   ピンポーン。ピンポーン。
   しかし、チャイムがとまるわけはない。
   ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
   3LDKのだだっ広い部屋に一人暮らし。リビングにある大人数座れるソファの上で目が覚める。ましてや肌寒い季節だ。一応毛布を何枚かかけて寝たが、まだ布団から出たくない。
   ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン、ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
   いまだに鳴り止まない。鳴り初めて3分経過した。


   ガチャ、ガチャガチャ。


   鍵をドアにさす音が部屋に響く。
   誰が来たのかはもう検討がついている。
   勢いよくドアを開けて、ズタズタと足音をたてて廊下を歩く音がリビングにまで聞こえる。
   リビングにはいるためのドアを開けて、大きな声で
   「おはようございます!悠志さんっ」
  と俺に言ってきた女子高校生。
   長い黒髪に茶色のセーラー服。一見、清楚な可愛らしい少女。しかし、それは違うのだ。
   なぜならこの今 俺の部屋に来たJK、花園鈴鹿に部屋の鍵など渡していない。


 *****
   年末、駅で見かけた俺をストーキングして部屋の前で待ち伏せしていた花園鈴鹿。
   部屋に戻ってきた俺に交際をせがんできた。


   「あなた様の彼女にしてください!」
  満面の笑みで微笑んで、キラキラした目で俺を見つめる。


   しかし、よく考えろ。俺よ。
   相手は高校生。年が10ぐらいも離れているではないか。
   まして、ついさっき電車で見かけただけ。
   一目惚れ?いや、俺は見た目にほとんど気を使ってない。職場の女後輩にも「先輩の第一印象はもさいオタクですよねぇ。」と侮辱されるレベル。一応、髪は茶色に染めてはあるけど、そんなにきれいでもないし。昔から目が悪くて、けどコンタクトには抵抗があるから眼鏡だ。
   ……最近、よく聞くよな。
   小学生や中学生がわざと大人に「靴紐ほどけてしまって結び直すから荷物を持っててほしい」といい、荷物を渡した瞬間に「変な人に荷物を持ってかれた!助けて!!」と泣き叫び被害者ぶったり。女子中高生が自分から成人済みの男と関係を持ち、「男の方が無理矢理手を出してきた」と男の方が冤罪なのに加害者になったり。
   もしかして、この目の前にいる高校生もそういう目的でやっているのか?
   さすがに本人に聞けるわけない。
   とりあえず理由でも聞いてみるか。


   「う、うん。ストレートにありがとう。けどさ、何で俺に告白してきてくれたの?見た目も君が駅でいったように心もオタクだよ?しかも年も離れている。」
  

   もしもここで刃物とか出されたらどうしよう。という不安はある。中高は文化部、大学もそれの延長のようなサークルに所属。学生時代、体育が一番成績悪かった。
   刃物とか出されても対応できる男ではない。
   彼女の顔をそっと覗きこむ。
   彼女はややしたを向いているので、うまく顔が見えない。
   俺の身長は180ぐらいだが、彼女は俺の胸よりも下に頭がある。
   彼女の口は何かを言おうとしてはいるけど、体が微妙に震えていてうまく聞き取れない。
   
  「なんと言いました?」
 

    彼女は俺に分かるぐらい大きく息を吸い、口を開いた。
 

  「わ、私も、ベジタリアンガールズ好きなんです!!それに、お兄さんパッと見て悪い人の顔なんてしてなくて。電車の中で何回も手で持ってる紙袋の中覗きこんではすごくニコニコしてましたし。
 それに、電車内で私、お兄さんの後ろあたりにたってたんですけど……」
   急に顔を真っ赤にして口を閉じてしまった。
   「それに?」
   ぷるぷると左腕をあげ、人差し指で俺が両手に持っている紙袋に指を指す。
   



   「お、お兄さんが買った薄い本、ほとんど18禁のエッチな本じゃないんですもん!!健全な全年齢な本ばっかりなんですよ!!性欲薄そうじゃないですか!!!!!!!」




   一応、時を確認しよう。
   大晦日、12月31日。
   時刻は 7時を過ぎた辺り。
   天気はやや雪が降っている。
   場所は俺が住んでいるマンションの部屋の目の前の通路。
   確か、近隣は子供がいる家族や大学生数人でルームシェアしている。大学生たちが住んでいる部屋は確か、今日 部屋で友人を招いてパーティーすると聞いていた。子供がいる家族だって、みんなで年越し蕎麦食べたり、絶対に笑ってはいけないテレビとか見てるんだろ。
   そんなときに部屋の前から18禁とか性欲とか普段聞こえてこない言葉が聞こえたら?かなり問題だよね??
  

   「あ、あの、なんかまずかったですか?」


   少し申し訳なさそうに俺を見つめる。
   「まずいわけではないけど……」


   「では交際をしてくださるんですか?!」


   食い付きが早かった。ギネスに載るくらい本当に早い。
   
 「いや、君のこといまいち信用できないし何か犯罪に巻き込まれそうだし……。仮に普通に好意を寄せてきたとしても、そんなの一時的だよ。10も年が離れてる男に持つ感情ではないよ。」


   少し冷たく言ったけど、しょうがないよな。
   彼女の親御さんに見せれる顔なんてないし。
   彼女は少し落ち込んでいて目線が下にいっている。
   「とりあえず帰りな。」
   7時を過ぎているし、もしもこれからまた電車で帰るなら大変だ。若い女の子が一人で夜道に襲われない確証なんてないしな。年末でも不審者は出る。逆にみんなが夜遅くに出歩く年末を狙う不審者もいる。


   「あ、あの、どうすれば信じてもらえますか。私があなた様と交際をしたいという意思を。」


   蚊の鳴くような小さな声で聞いてきた。
   どうすれば、と言われてもなあ。


   「それはないよ。ほら、はやく帰りな。それで今日のことは忘れな。
 家の最寄り駅はどこなの?」


   「……最寄り駅はここ、古河です。」


   「そっか、途中まで送ろうか?」


   「いえ、お手数をおかけしてしまうので大丈夫です。ありがとうございました。」


   「いえいえ。よいお年を。」


   それだけ言い、階段の方に向かっていく彼女を俺は見つめた。
  

   今のことは忘れよう。
   そう思い、雪が大分降ってきた外を見ながら自室に入る。
  

   部屋に入り、暖房をつけ今日買った同人誌を読むのに没頭している頃には年明けまで2時間を きった。




コメント

  • 荒神神威

    うんすごく面白い。でも何で男の人より女の子のほうが早く家に着いたの?

    2
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