ラフ・アスラ島戦記 ~自衛官は異世界で蛇と共に~

上等兵

10話 「尋問開始」

 ――ティタノボア駐屯地、捕虜収容所。

 そこは、見張りの兵士二人と、鉄条網が着いたフェンスに囲まれた敷地の中に簡単な造りの屋根型テントとその下に野外ベットがあるだけの質素な場所だ。ここに捕虜となった須賀達は収容された。

 「――はぁーあ、中々ここは快適だな……そうは思わないか?」

 久我は欠伸をし、手には一緒に捕まったペットのゼリーを抱き締めて寝ながら言う。それに対し須賀は、足を組みながら寝転び、答えた。

 「……そうだな、あのジャングルの中よりかは数倍ましだな」

 現在、二人は捕虜収容所の野外ベットの上で装具を外し、さらに靴まで脱いで寝転がっていた。

 「――それにしても驚いたな、最初に麻袋を被せられたとき、俺は殺されるかと思ったよ」

 「……どうやら奴ら俺達にこの施設の中を見せたくなかっただけみだいだな」

 須賀達が麻袋を被せられた理由は須賀達を収容所へ連れて行く途中で彼ら『F.ARMYフロンティア軍』の重要な軍事施設を須賀達に見せないようにする為だ。なのでそこさえ通りすぎると、須賀達はすぐに麻袋を外されて、捕虜収容所に入れられた。

 ――昔の人は生きて虜囚の辱めを受けずって言ってたけど、この状態はどうなんだ? 全く辱めなんて受けないんだが……。

 須賀は捕虜となった時に、酷いことをされる事を覚悟していたが、あまりの待遇の良さに呆気に取られた。

 ……今は考えても仕方ねぇ、今は休もう。

 ジャングルを彷徨い、そして洞窟で巨大な蛇と死闘を行った須賀の体は疲れ果てていた。その為、ベットに横になった須賀はすぐに睡魔に襲われた。
 
 「――くそっ、ふざけるな! 何で私だけこんな扱いなんだ!」

 アオコがゴチャゴチャと騒いだ。それを聞いた須賀は怒鳴った。

 「……ちっ、おいアオコ、騒ぐんじゃねぇよ、煩くて寝れねぇじゃねえか!」

 アオコは現在、腰に枷をつけられている。そしてその枷には鎖がつけられて収容所の中央にある柱へと繋がっている。何故こうなったのかというと、アオコは捕まる際に抵抗した。そして最終的に大勢の兵士達に抑え込まれて捕まった。その為、危険だと判断されてこうして行動を制限される羽目になった。

 「くそっ、こんなものすぐに抜けてやる……くうううっ!」

 アオコはそう言うと身体からメキメキと骨を軋ませる音をさせた。そうして関節の骨を外して枷から抜けるように変形させているようだ。きっとこれは蛇の身体だからこそできる芸当だ。

 「キモチわるっ! ――ってかやめろ、殺されるぞ!」

 須賀は慌ててアオコを前から抱き締めて行動を止めた。その時、フェンスの外で見張りをしていた兵士達がアオコの行動に気がついて叫んだ。

 「Hey, you!  What are you doing!」

 「オー、ソーリー、ソーリー! ……おいアオコ、じっとしとけよ?」

 「な、ななななっ!?」
 
 銃を構えて近づいてくる見張りの兵士を須賀は下手な英語喋って宥めた。そのやりとりをしている間、アオコは須賀の胸の中で顔を赤らめさせていた。

 「Be matured.」

 「びー……なんだって? まぁいいや、ソーリー」

 見張りの兵士は何かをいうと離れて行った。そうして元の位置に帰ったのを見送った時に急にアオコが須賀の体を突き飛ばして叫んだ。

 「凌駕、お、おおおっお前! 私に何をするんだ!?」

 「――っ、いってーな、何って、お前が殺されそうになったのを止めただけだろ!」

 「うるさいっ! 私に抱きついただろ! そんなことして私と交尾するつもりだったんだな!?」

 「――はぁああああっ!?」

 「私は絶対に交尾しない! 誰がお前なんかの卵を産んでやるか……このバカぁ!」

 ――バチンッ!

 「――いってえっ!」
 
 須賀は顔をアオコの尻尾で叩かれて尻もちを着いた。その様子を久我は遠くで見ながら笑った。

 「――っ!」

 しばらくすると外で見張りの兵士がざわめいた。そして謎の男女の二人組が須賀達のいる捕虜収容所の入り口へやってきて男の方が兵士と話し始めた。

 ――この時、異変に気がついた須賀と久我はベットで寝るのをやめた。そうして何時でも動ける態勢を整えて、その後緊張に震えた。

 「――!」

 「――」

 「――Yes, Sir! 」

 兵士は男に敬礼すると捕虜収容所の入り口の鍵を開けて男女を連れてその中へ入ってきた。そして中にいる三人を見渡すと、何故か須賀の目の前までやってきた。

 ――おいおい、なんで寄りによって俺の方に来るんだよ。

 須賀は、そう思いながら男女の顔を観察した。男の方は顔に傷があり鋭い目つきをしている。そしてその後ろには冷たい表情をした女性だ。どちらも人種的に元の世界にいた、所謂白人と呼ばれる人達と同じ特徴を持っている。しかし唯一違うところは耳が長い所だ。

 ――因みに彼らの事をこの異世界ではエルフと人々は呼ぶが、須賀達にはそれはわからなかった。その為、須賀達に取って見れば謎の米軍に似た格好をする謎の人種という認識だ。
 
 須賀はわけも分からずに二人を眺めていると突然、二人を案内した兵士に後ろから麻袋を被せられ両手を後ろに回されて手をロープで固定された。

 「――うわっ、何しやがる! 離せ! ――っ」

 須賀は抵抗して叫ぶが、麻袋をかぶせられて息がしにくくなり、すぐに叫ぶのをやめた。その後、傷のある男が英語で支持を出すと、兵士は須賀を無理矢理歩かせて移動させた。

 久我とアオコは突然の事に驚いて言葉を発する事ができずに黙ってその光景を見ていた――。

 「――やべぇよ、須賀が連れて行かれた」
 
 久我は先程の須賀が連れて行かれる光景を見た後、恐怖で震えた。
 
 「お、おい小太郎……凌駕はどこに連れて行かれたんだ?」
 
 「……おそらく……尋問施設だ」
 
 「――尋問施設?」
 
 久我は手に持っているペットのゼリーを強く抱きしめると、まるで自分を落ち着かせるかのようにゼリーを撫で続けて説明する。
 
 「――尋問施設ってのは、要するに相手に尋問して情報を聞き出す場所だよ」

 「ん? そんなことか……なのになんで小太郎はそんなに怯えているんだ?」

 「それはね……下手をすれば情報を聞き出す為に俺達が拷問される可能性があるからだよ」
 
 久我の言葉を聞いてアオコは驚いて目を見開いた。
 
 「本来、そういうのは禁止されてるけど、ここは異世界――その決まりがここでは当たり前なのかどうかすら分からない、それにさっきの二人組をも見ただろ? ――ヤバイ雰囲気の二人だった……きっと須賀は唯じゃ済まないかもしれない」
 
 久我は最後に覚悟をしておいた方が良いというとゼリーを抱いて再びベットに横になった。

 「……私は……人間に拷問されるのか? ――ッ!」

 アオコは自分が酷い拷問をされてる所を想像し怖くなった。そして遂に腰を抜かしてその場にへたりこんだ。

 ――捕虜尋問施設。

 須賀は麻袋を取られると、まずはじめに辺りが薄暗く裸電球が一つだけ伝統している部屋にいる事。そして自分は椅子に座らされて、目の前には机と先程の男女二名がいる事に気がついた。
 
 「――Begin interrogation」

 目の前の男が英語を話した。須賀は英語の意味はわからなかったが、これから自分が尋問される事を雰囲気で理解した。

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