求夢の平凡な世界

チョーカー

ボードゲームの戦い

カタカタカタ……



 リズミカルなタイピング音が広い室内に鳴り響く。

 小説家 川島達也の執筆風景。

 1時間で原稿用紙10枚分。 1時間4000文字を維持して物語を作り上げていく。

 しかし、誰が信じるだろうか? 彼がスランプだと言う事を。



 「ただいま」



 達也でなければ聞き逃していた小さな声。

 その声に反応した彼は、バネ仕掛けの玩具のように立ち上がると――――



 「帰って来た!」



 小走りで部屋を飛び出し、声の主である息子の元に急いだ。

 川島達也の息子。

 川島 求夢は高校生だ。求夢とかいて『もとむ』と呼ぶ。

 背が高く、細身の体。

 伸ばしに伸ばした髪が目元を隠している。



 「最近、何か面白い話はないか?」と顔を合わせるよりも早く達也は言った。

 その手には万札が差し出されている。

 「……」と無言で父親の顔を窺うように見る。 スッと腕を伸ばすとお金を受け取ると



 「これは3日前の出来事――――」



 求夢は語り始めた。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 学校の教室。

 そこで求夢は目を覚ました。

 後ろから2番目窓際の席。 自分の机と椅子にうつ伏せで寝ていた。

 教室の時計を見ると、放課後だった。

 どうして、寝ていたのか? 記憶を探ってみたが、思い出せない。

 求夢は、まだ残っている眠気を追い出すように首を左右に振るい、席から立ち上がった。

 その時だ。



 バサッ――――



 何かが、求夢の机から落ちた。

 真っ赤な本。 まるで受験生が勉強で使う赤本にそっくりだ。



 「どうして、自分の机に?」



 しかし、求夢には、その本に心当たりはなかった。

 拾い上げてパラパラとページをめくると――――



 「なんだ? これ?」



 白紙だった。

 最初は落丁本かと思ったが、白紙が多すぎる。

 分厚いノートだと言われた方が納得できる。 

 突如として高校生の間で流行る、そういうグッズなのだと判断した。

 高校生である求夢は、高校生の流行に疎い。 そう言う事もあるだろうと机に置きなおした。

 しかし、それがどうして自分の机にあったのか? 誰かのイタズラだろうか?

 そんなイタズラをする心当たりは、自分の父親くらいしか思い当たらなかった。



 「どうしよう? 目立つような場所、教壇にでも置いて帰ろうか……」



 再び、赤本に手を伸ばそうとする。

 だが、出来なかった。 突然の突風が襲ってきたからだ。

 砂か、何かが目に入り、僅かな痛みを感じる。 



 「あれ? 窓は閉まっていたはずじゃ?」



 目を擦りながら窓を確認すると、確かに鍵は閉まっていた。

 それじゃ突風の正体は?

 そんな些細な疑問は、次の瞬間に吹き飛んだ。



 机に置いた赤本が開いている。

 そこには大きな文字で、こう書かれている。



 『ルール① このページを読むと同時にゲームは開催される』



 「なん……だと? ついさっき、全てのページを確認したはず……なのに!」



 驚愕の表情を浮かべながら、机から赤本を持ち上がる。

 その次の瞬間――――



 ガラガラガラ……



 教室に誰かが入ってきた。


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